自分のポートフォリオに、どんな銘柄をどのくらいの割合で組み込むか、誰しも悩んだことがあるテーマだと思います。
ところで、一生懸命考えたポートフォリオの良し悪しはどのように測るのでしょうか?まさか雰囲気で決めていないですよね?
ポートフォリオの良し悪しは、過去のパフォーマンスを観測することで測れます。この手法を「バックテスト」と呼びます。
必要なデータを手動で拾って、エクセルでポチポチ計算するのは、地獄の作業になります。ここは超超超カンタンにバックテストができてしまう便利なサイトを使いましょう。
この記事では、「Portfolio Visualizer」という海外のサイトとその使い方を紹介しています。超高機能なのに、完全無料で使えてしまう優れものです。
海外サイトなので英語表記になっていますが、文章を読むことはほとんどありません。いくつかキーになる英単語の意味だけわかればOKです。
巷で紹介されている銘柄やポートフォリオは、言わば「魚」です。ですが、この記事で解説しているのは「魚の釣り方」です。どちらが汎用性が高いは、言うまでもありませんね。
バックテスト=過去のパフォーマンスをチェックすること
バックテストとは、株式取引や為替取引において、特定の売買のルールに従って取引した場合の過去の収支を検証することです。
短期投資の場合:
トレードによる売買差益のリターンを検証します。特定の銘柄(例えば、Apple株)に対し、この売買ルールは過去の相場においては、どれくらいのリターンだったのかを測ります。
長期投資の場合:
過去に遡り、保有する銘柄全体のトータルリターンを検証します。ポートフォリオ全体で、インカムゲイン(配当)とキャピタルゲイン(値上がり益)を総合し、資産価値がどれほど大きくなったかを測ります。
本記事は、長期投資を前提として書いています。ポートフォリオ全体のリターンを、過去に遡って検証する方法を紹介します。(FXなどの短期トレードには全く使えません!)
ポートフォリオの前に、アセットアロケーションを決めよう!
ポートフォリオとは、資産全体に対し、株式などの「個別銘柄」をどれくらいの割合で組み込むかを意味しています。
ですが投資のリターンは、個別銘柄ではなく、「アセットアロケーション」でほとんど決まってしまいます。アセットアロケーションとは、「米国株」とか「米国債」とか「新興国株」といった大きな括りが、資産に占める割合のこと。
取り組む順番は、
- 投資の目標を決める
- アセットアロケーションを決める
- 銘柄を選ぶ(ポートフォリを決める)
となります。
まずは、投資の目標からロジカルに決めていく必要があります。まだ何となくしか決めていない人は、アセットアロケーションの決め方の解説記事も参考にしてみてください。
無料のバックテストサイト「Portfolio Visualizer」
投資に使えるサイトは色々とありますが、長期投資に使えるもので1番オススメを聞かれたら、「Portfolio Visualizer」を推します。
主要機能は次の通りです。
- アセットアロケーションのバックテスト
- ポートフォリオのバックテスト
- ポートフォリオの最適化
- ファンド検索/ファンド分析
課金することで、さらにリッチな機能が使えるようになりますが、無料のままで十分使えます。(というか十分すぎる!)
この記事では、1番よく使う「ポートフォリオのバックテスト」のやり方を解説しています。ほとんどの人は、この機能だけしか使っていないと思います。
ポートフォリを策定するにあたって便利な機能である、「ポートフォリオの最適化」「ファンド検索/ファンド分析」の使い方にも触れています。
使い方①:投資条件を設定する(デフォルトでも可)
まずは、トップ画面の左上「Backtest Portfolio > Backtest Portfolio」に入ってください。(このリンクから直接とんでもOK)
さて、ページを開くと、
- 画面の上半分:投資条件の設定
- 画面の下半分:銘柄の設定
となっています。まずは、上半分の「投資条件の設定」をしていきましょう。
カンタンに各項目の意味を触れておきます。
項目名 | 意味 | オススメ設定 |
Time Period | 検証する期間。年単位か月単位で選べる | デフォルトの年単位(大して変わらないのでどっちでも良い) |
Start Year | 検証開始年。1985年が最も古い | デフォルトの1985年 |
End Year | 検証終了年 | デフォルトの現在の年 |
Include YTD | 年初来(本年の1月から)のデータに最新月を含めるか | デフォルトのNo(大して変わらないのでどっちでも良い) |
Initial Amount | 検証開始時点で持っている資産残高。デフォルトは1万ドル | 金額ベースでパフォーマンスを知りたい場合は入力(%が分かれば良いならデフォルトでOK) |
Cashflows | 定期的な積立額、または引き出し額を設定する | 実情に合わせて入力(ざっくりパフォーマンスを調べるだけなら設定不要) |
Rebalancing | リバランス(ポートフォリオの割合がズレたら元に戻す作業)をするか否か | デフォルトの1年に1回でOK(ただしその通りに実行すること) |
Reinvest Dividends | 配当を再投資するか | デフォルトのYes |
Display Income | 配当結果を表示させるか | 知りたい場合はYesを選択(デフォルトはNo) |
Factor Regression | リスク因子分析 | デフォルトのNoでOK(少々難しい話なので) |
Benchmark | 比較対象のデータを設定する | デフォルトのNoでOK(表示させるならS&P500がオススメ) |
Portfolio Names | ポートフォリオに任意の名前をつける | 基本的には設定不要 |
使い方②:銘柄を選択する
続いて、ポートフォリオに組み込む銘柄を設定していきます。
アルファベットを入力すると、候補となる銘柄が出てくるので選択しましょう。
候補となる銘柄の入力が終わったら、各銘柄の割合を合計100になるように入力していきます。
最大3つのポートフォリオ案まで入力できるので、案を見比べるときに便利です。
【正しい分析をするコツ】なるべく設定日が古い銘柄を使う
ポートフォリオのバックテストをするときに注意点があります。
もっとも設定から日が浅い銘柄の設定年が、算出開始年になってしまいます。もし設定から3年しかたっていない銘柄が含まれていれば、3年分しかバックテストができません。
バックテストは、期間が長いほど信頼度が増します。5年やそこらのデータではほとんど意味がありません。できる限り、暴落局面を経験している方が良いので、リーマンショックの2008年以前からある銘柄がベターですね。
個別銘柄の場合はどうしようもありませんが、ETFであれば、似たような銘柄のなかで最も古いもので代替しましょう。同じようなベンチマークのETFであれば、結果は概ね同じなので心配は入りません。
例えば、S&P500に連動するETFには次の3つがあります。
- SPY:1993年01月22日
- IVV:2000年5月15日
- VOO:2010年9年7日
もしVOOやIVVに投資をするとしても、計算上は最も古いSPYを使うのが良いですね。
【参考】資産クラスごとの主要な銘柄(ETF)
どんな銘柄を組み込むか検討がつかずに、画面の前で固まってしまう人もいるかと思います。
そんな人は、次の表を参考にETFを選んでみてください。基本的には、伝統的な資産クラスと言われている「株式」と「債券」のETFをメインにするのが良いでしょう。
分散投資のために、0〜30%程度でオルタナティブ資産(主にコモディティ)の組み入れも検討しましょう。
株式の主要銘柄
資産クラス | 代表的なETF |
米国株全般 | VTI |
∟大型株 | SPY・IVV・VOO |
∟∟大型株(グロース株) | QQQ・VUG |
∟∟大型株(バリュー株) | VTV |
∟中型株 | IJH・VO |
∟小型株 | IWM・VB |
若く伸び代がある企業が多い「グロース株」はハイリスク・ハイリターン、成熟した企業が多い「バリュー株」はローリスク・ローリターンです。詳細な違いは、グロース株とバリュー株の解説記事へどうぞ。
また、小型株ほどハイリスク・ハイリターンになります。大・中・小の意味がわからない人(というより気になる人)は、株式のサイズの定義の解説記事を参考にしてみてください。
資産クラス | 代表的なETF |
先進国(米国含む)+新興国 | VT |
∟先進国(米国含まない)+新興国 | VXUS |
∟∟先進国(米国含まない) | VEA |
∟∟新興国 | VWO |
先進国よりも新興国の方がリスクが高い選択肢になります。ただし、リスクの割に必ずしもリターンが良くないのが新興国株の難しいところ。
本記事のテーマではないので触れませんが、気になる人は新興国株のリターンが伸び悩む理由を解説した記事を見てみてください。
債券の主要銘柄
資産クラス | 代表的なETF |
米国総合債券 | AGG・BND |
∟長期米国債 | TLT |
∟中期米国債 | IEF |
∟短期米国債 | SHY |
∟MBS(住宅ローン証券) | MBB・VMBS |
∟社債(投資適格) | LQD |
∟∟長期社債 | VCLT |
∟∟中期社債 | IGIB・VCIT |
∟∟短期社債 | IGSB・VCSH |
TIPS(物価連動国債) | TIP・VTIP |
ジャンク債 | HYG・JNK |
新興国債 | EMB・VWOB |
債券は、格付けが低いほど、ハイリスク・ハイリターンになります。順番は「ジャンク債 >新興国債 > 投資適格社債 > 先進国の国債」といった具合です。詳細を知りたい人は、債券の格付けの記事へどうぞ。
もう一つの観点で、債券は残存期間(≒デュレーションという概念)が長いほど、ハイリスク・ハイリターンになります。詳細はデュレーションの解説記事をチェックしてみてください。
コモディティの主要銘柄
資産クラス | 代表的なETF |
コモディティ全般 | DBC・GSG |
∟金 | GLD・IAU・GLDM |
∟銀 | SLV |
コモディティは、株式とも債券とも異なる値動きをします。主にインフレヘッジに使われます。中でも有力は「金」です。
蛇足になるのでここでは詳しく触れませんが、気になる人は金投資の解説記事をチェックしてみてください。
ETFの探し方
なお、お目当てのETFを探すのにも「Portfolio Visualizer」が使えます。ぜひ魚の釣り方まで押さえておきましょう。
トップ画面の右上「Asset Analytics > Fund Screener」をクリックしてください。(このリンクから直接とんでもOK)
ここからファンド(日本から投資する人は、基本的にETFを選択)を検索できます。
次の検索条件でソートできます。
Asset Class(資産クラス)
- U.S. Equity(米国株)
- International Equity(米国以外の株)
- Taxable Bond(債券)
- Commodities(コモディティ)
あたりがよく使う資産クラス。選択すると、さらに細かく属性を指定できます
Expense Ratio(経費率)
- 絞り込むときは、もっとも低い「>0.25%」がオススメ
なお、デフォルトではA→Zの順番で並んでいます。このままでは使えません。
よく使う並べ替えは、「Assets(純資産総額)」の大きい順、「Inception(設定年月日)」が古い順です。
基本的にETFは、「①経費率が低く」「②純資産総額が大きいもの」を選びます。純資産総額が大きいファンドは経費率が低くなるので、純資産総額でソートするのが良いでしょう。
バックテストをする上で、古い銘柄を見つけたいときは、設定年月日でソートします。
バックテスト結果の見方
では実際にバックテストした結果を一緒に見ていきましょう。
サンプルとして、
- 米国株(S&P500):SPY
- 米国総合債券:AGG
を50:50というシンプルなポートフォリオを作ってみました。条件設定は全てデフォルトのままです。
各項目の意味はざっと次の通りです。重要度はマチマチですが、どれも知っておきたい数字ではあります。
項目名 | 意味・解説 | 重要度 |
Initial Balance | 検証開始時点の資産額(デフォルトは1万ドル) | |
Final Balance | 検証終了時点の資産額。どれくらい資産が増えたか参考までに | |
CAGR | ポートフォリオの年平均成長率。リターンは主にCAGRで見る | |
Stdev | 標準偏差。資産額の上下の激しさを表しており、投資におけるリスクの指標になる。重要だが、シャープレシオに内包されているのでそちらを見る | |
Best Year | 最もリターンが高かった年の成長率。特別調子の良かった年というだけで、そこまで重要ではない | |
Worst Year | 最もリターンが低かった年の成長率。実際にコレくらい資産額が下がる指標なので、リスクを認知する上で重要 | |
Max. Drawdown | 最高値からの最大下落率。こちらもリスク把握のために非常に重要 | |
Sharpe Ratio | シャープレシオ(高いほどよい)。負っているリスクに対し、リターンがどれほど高いかを示す。ポートフォリオのパフォーマンスを示す重要指標 | |
Sortino Ratio | ソルティノレシオ(高いほどよい)。概ねシャープレシオと同じ。一般的にはシャープレシオを見ることが多い | |
US Mkt Correlation | 米国の株式市場との相関性。1に近いほど相関している。分散投資の意味では低い方が良い |
CAGR(年平均成長率)
CAGR(年平均成長率)は、ポートフォリオのリターンを測る一般的な指標です。
分析結果を下にスクロールすると、「Annual Returns」が出てきます。これは毎年の成長率で、当然凸凹があります。マイナスになっている年もありますね。
これらの毎年の成長率の凸凹を、検証期間で平均にしたものがCAGRです。よく米国株は+10%のリターンと言われますが、これはCAGRのことを言っています。
Max. Drawdown(最大下落率)
瞬間的にいくらリターンが伸びたかはあまり重要ではないのですが、瞬間でどれくらいマイナスを食らったかは重要です。それすなわち、リスクによる実害になるからです。
あなたが耐えられる下落幅に収めなければ、身を滅ぼしてしまいます。特にリタイアした人や、不安定な職種の人は、リスクを取りすぎてはいけません。
「Drawdowns」のタブから、より詳しい情報を確認できます。
開いたページがこちら。
2008〜2009年リーマンショックの下落を参考してみましょう。見方は次の通りです。
この場合は、1年4ヶ月に渡って資産価格が下落し続け、最大-24.76%まで減りました。元の資産価格に戻るまでに2年6ヶ月かかっています。
このサンプルの場合は債券50%入っているのでまだマシです。もし株式(S&P500)だけだったら最大-50%の下落になり、価格が戻るまでに4年5ヶ月かかります。
Sharpe Ratio(シャープレシオ)
ある個別株に全財産を突っ込んで+10%のリターンを稼いだ人と、インデックス投資で+10%のリターンを稼いだ人、この2人のパフォーマンスは同じと言えるでしょうか?
ポートフォリオのパフォーマンスは、リターンだけに目を向けるのではなく、負っているリスクも評価しなければなりません。
シャープレシオは、ざっくり言えば「リターン ÷ リスク」で、ポートフォリオのパフォーマンスを測る指標です。
「1」を超えていれば、負っているリスクの割には、リターンが高いと評価できます。これが一つの目安になります。
なるべく高いシャープレシオになるように、ポートフォリオの銘柄や配分を調整しましょう。同じリターンが得られるなら、リスクは少ない方が優秀です。
シャープレシオについて、イマイチまだ理解しきれていない人は、シャープレシオの解説記事もチェックしてみてください。とっても重要な概念です。
【さらに便利に】ワンタッチでポートフォリオの最適化
実は「Portfolio Visualizer」には、素晴らしく便利な機能がついています。
なんと、候補の銘柄を選んだら、勝手にシャープレシオがもっとも高いポートフォリオを弾き出してくれるのです。
トップ画面の中央下の「Portfolio Optimization > Portfolio Optimization」をクリックしてください。(このリンクから直接とんでもOK)
シャープレシオは債券を増やした方が高くなる傾向があります。結果として、「株式19:債券81」という、かなりの安全設計になりました。
CAGR(年平均リターン)は+5%強と、やや物足りない感じですね。リターンを増やすためには、また株式の割合を増やすことになります。
バックテストは頼りになるが、未来を決めるわけではない
あなたに合ったポートフォリオをロジカルに策定する上で、定量的に判断できるバックテストは非常に頼りになるツールです。
ですが、数字とはすべからく過去からしか取れません。未来を予測できる数字は、この世に存在しないのです。バックテストは未来志向ではなく、過去志向の分析と言えます。
ポートフォリオを作る上で、まずはバックテストの結果を尊重してベースを作りましょう。そこに、未来に対する定性的な要素を考慮していくのが良いと思います。
例えば、過去の歴史から「米国株」のリターンが頭一つ抜けて優れています。バックテストを尊重し、米国株をメインに据えるのが妥当だと思います。
ただしこの先の数十年も、米国がずっと世界の覇権国であるかはわかりません。米国が引き続き世界をリードする可能性は高そうに思いますが、絶対ではないように思います(ここはあくまで個人の意見です)。
そう感じる人は、「その他の先進国」や、「新興国」の株式にも目を向けるべきでしょう。バックテスト上は、米国株オンリーの方が優れているとしてもです。
加えて、世界のルールが変わっても、現に実体があるコモディティ(商品)の価値は失われません。リスクヘッジのために、コモディティを組み込むのも良いでしょう。
ポイントは、あなたが自分のポートフォリオを信じ切れるかです。一時的にポートフォリオの資産価値が下がっても、未来を信じて、枕を高くして寝られるかです。
もしバックテストの結果が100%信じられる人は、バックテストの結果だけで決めてOKです。そうではない人は、数字上はパフォーマンスを落としてでも、資産を分散させるのが良いでしょう。
ポートフォリオのメインになり得る有力なETFは、定番米国ETFの一覧記事で紹介しています。まだ選ぶ銘柄がピンと来ない人は、チェックしてみて下さい。