高配当系ETFの中の一ジャンルに「ハイイールド債」があります。ハイイールド債は別名「ジャンク債」。格付けが低くリスクを伴う代わりに、債券にしては高い配当をゲットできます。
代表的なETFは「HYG」と「JNK」。4〜5%程度の配当を狙えます。どちらも大手が運用しているファンドで、純資産総額もなかなか大きい銘柄です。
この記事では、
- ハイイールド債(ジャンク債)ってどんな債券なの?
- 「HYG」と「JNK」のパフォーマンス(配当&株価)
- 「HYG」と「JNK」のメリット・デメリット
を解説しています。
インカム狙いの投資をしている人は、一つの選択として知っておいても良いでしょう。ぜひ参考にしてみてください。
優先株ETF「HYG」「JNK」基本情報
まずは「HYG」と「JNK」の基本情報をざっと見ていきましょう。
運用会社のブラックロック社とステートストリート社は、いずれも世界で3本指に入る大手。どこぞのよくわからない会社ではないので、一つ安心材料です。
運用会社 | ブラックロック | ステートストリート |
商品名 | iシェアーズ iBoxx米ドル建てハイイールド社債ETF | SPDR ブルームバーグ・バークレイズ・ハイ・イールド債券ETF |
ティッカー | HYG | JNK |
ベンチマーク | Markit iBoxx米ドル建てリキッド ハイイールド指数 | Bloomberg Barclays High Yield Very Liquid Index |
投資対象 | 配当利回りが高い先進国の米ドル建て社債 | 配当利回りが高い米ドル建て社債 |
格付け | BB、Bが中心 | BB、Bが中心 |
平均残存年数 | 3.96年 | 6.23年 |
デュレーション | 3.78年 | 3.60年 |
配当利回り | 4.5〜6%程度 | 5〜7%程度 |
経費率 | 0.48% | 0.4% |
分配月 | 毎月 | 毎月 |
純資産総額 | 約200億ドル | 約95億ドル |
設定日 | 2007/4/4 | 2007/11/28 |
*HYG参考サイト:ブラックロックHP
*JNK参考サイト:ステートストリートHP
両者の特徴は、投資不適格社債である「ハイイールド債」を集めたETFということ。ハイイールド債はリスク高めの社債です。
減配傾向で最近はちょっと減っていますが、配当利回りは概ね5%前後。高配当系ETFの中でもまずまず高い方でしょう。債券ETFの一般的な仕様の通り、毎月配当となっています。
「HYG」の方が純資産総額が大きく、あまたあるETFの中でもまずまず上位に位置します。「JNK」は約半分の規模ですが、それでも十分大きい。流動性の観点は問題なさそうです。
どちらも設定後から幾らか年月が経過しており、リーマンショックを含む複数回の暴落局面を経験しています。相場が荒れた状況での挙動も確認ができている銘柄となっています。
ハイイールド債(ジャンク債)とは?
本来債券は株式と比べ、リスクの低い資産クラスです。なぜなら債券の発行体(国や企業など)が破綻していない限りは、将来返ってくる利子と額面金額が保証されているからです。
しかしながら「ハイイールド債」は、信用が低くデフォルト(債務不履行)の可能性が比較的高い債券です。いくら将来返ってくるお金が保障されていても、デフォルトされてしまっては債券もただの紙切れ。
そのため信用がある債券を「投資適格債券」と呼ぶのに対し、ハイイールド債は「投機的債券・投資非適格債券」と呼ばれます。
ハイイールド債(ジャンク債)のリスク・リターン
投資家の立場からすると、当然潰れるリスクのある相手には、お金を貸したくないですよね。貸すならそれ相応の利回りを要求したいところです。
逆に言えば、社会的信用が乏しい国や企業は、利回りを高くしなければお金を借りられないということです。そんなわけでハイイールド債は、投資適格債券よりもハイリターンになります。
国債などの信用の高い債券は、株価が下落する局面でも価格を維持してくれるので、資産を守る保険の役割を果たしてくれます。
ところがハイイールド債は、不況期にデフォルトが危惧されるため、売り出される傾向にあります。値動きは他の債券より激しく、元本割れのリスクも。株と一緒に値下がりしてしまうので保険にはなりません。
また発行体の破綻が危ぶまれる状況になったときは、ほとんどの人はそんな爆弾を欲しがらないので、売りたくても売れなくなる可能性があります(「流動性が低い」と表現します)。
ハイイールド債(ジャンク債)の定義
債券には信用力に応じた「格付け」がされています。信用力とは、ストレートに言えば「借金を返済する能力」。格付けが高く、信用が高いなら、ちゃんとお金を返してくれる相手ということです。
代表的な格付け会社が「S&Pグローバルレーティング社」と「Moody’s(ムーディーズ)社」の2社。
両者で格付けの表現の仕方が微妙に異なりますが、「BB」「Ba」以下が、ハイイールド債です。
なお格付けはあくまで相対的なものです。「BBB」「Baa」以上なら、デフォルトのリスクが無いかと言われると、そんなことはありません。
債券の格付けのより細かい定義は、格付けの詳細記事で解説しています。
ハイイールド債(ジャンク債)ETFならではのメリット
さてそんなわけで、ハイイールド債に個別銘柄で投資をするのは勇気がいる選択です。しかしながらここはETFの素晴らしいところ。
「HYG」や「JNK」を一つ買うだけで、1,000以上の銘柄に分散投資できます。ここまで分散できると、個別銘柄のデフォルトリスクはかなり薄まります。
加えて、流動性の懸念も解消されます。「危ない!」と明らかになった個別銘柄を換金は苦労しますが、個別銘柄の影響が極小のETFであればその心配はありません。
加えて、ETFの純資産総額の高さは、それだけたくさんの投資家が売り買いしているということです。これだけの規模のETFであれば、売り買いに苦労することはないでしょう。
格付け別の構成比率
格付け | HYG | JNK |
キャッシュ・デリバティブ | 0.89% | 0% |
BBB以上 | 0.55% | 0.13% |
BB | 56.14% | 50.63% |
B | 31.09% | 36.88% |
CCC以下 | 11.14% | 12.30% |
格付けなし | 0.19% | 0.06% |
「HYG」「JNK」ともに半数以上は、ジャンクの中では最高位の「BB」が投資先になっています。
両者の大きな違いになっているのは、その「BB」の割合。「HYG」の方が、よりリスクが低い構成になっています。
なお「BB」ならどれくらいリスクがあって、「B」になるとリスクがどう変わるのかは、格付けの詳細記事で細かく解説しています。
BBは割とマシな方ですが、CCC以下は本当にハイリスクです。
構成銘柄の分散具合
HYG | JNK | |
構成銘柄数 | 1,301 | 1,228 |
ジャンク債には、社債の他に新興国債もありますが、「HYG」と「JNK」の対象は主に米国の社債です。
含まれる銘柄はどちらも1,000を超えており、かなり分散が効いています。両者の違いは誤差のレベル。
配当実績
年 | 配当(米ドル) | 期末株価(米ドル) | 配当利回り |
2011 | 6.719 | 89.43 | 7.44% |
2012 | 6.16 | 93.35 | 6.89% |
2013 | 5.666 | 92.88 | 6.07% |
2014 | 5.097 | 89.6 | 5.49% |
2015 | 4.756 | 80.58 | 5.31% |
2016 | 4.561 | 86.55 | 5.66% |
2017 | 4.469 | 87.26 | 5.16% |
2018 | 4.495 | 81.1 | 5.15% |
2019 | 4.392 | 87.86 | 5.41% |
2020 | 4.262 | 87.3 | 4.85% |
HYGの配当は徐々に減少傾向にあります。ただ安定して5%前後と高い配当を出し続けているので、この点は評価できますね。
年 | 配当(米ドル) | 期末株価(米ドル) | 配当利回り |
2011 | 9.675 | 115.35 | 8.12% |
2012 | 8.245 | 122.13 | 7.15% |
2013 | 7.361 | 121.68 | 6.03% |
2014 | 6.943 | 115.83 | 5.71% |
2015 | 6.707 | 101.73 | 5.79% |
2016 | 6.628 | 109.35 | 6.52% |
2017 | 6.166 | 110.16 | 5.64% |
2018 | 5.95 | 100.77 | 5.40% |
2019 | 5.958 | 109.46 | 5.91% |
2020 | 5.572 | 108.94 | 5.09% |
全体的にHYGより高い配当を実現できますね。ただしJNKの配当も徐々に減少傾向です。
チャート
似たような結果になるのかなと思いきや、株価はHYGが優勢でした。
どちらも2007年の設定直後にリーマンショックの暴落を迎えています。その後も2015年のチャイナショック、2020年のコロナショックで、キッチリ値下がりしています。
「HYG」と「JNK」の設定以来のチャートを、
- 米国の代表的な株式指数「S&P500」
- 国債を中心とした低リスク債券ETF「AGG」
と比較するとこんな感じになります。
債券なので価格が大きく上がらないのはわかっていますが、下がるときはキッチリ下がるところを見るに、ちょっと手を出しづらいチャートです。
債券は株式と異なり、発行時点でリターンが決まっています。不況だろうが好況だろうが、発行元が破綻しなければ、決まった利子と額面金額が支払われるだけです。
もし信用力がある(=格付けが高い)債券であれば、不況になっても破綻する可能性が低いので、価格はさほど下がりません。米国債中心のAGGがまさにそれですね。
ところが信用の低い企業は、不況の煽りで破綻する可能性が出てきます。そのため不況になると、ジャンク債は売却対象に。だから債券なのに価格が下がってしまうのです。
リーマンショック頃を抜き出してみると、S&P500ほどではありませんが、一緒に急降下していることがよくわかります。
銘柄 | 高値 | 安値 | 下落率 |
HYG | 93.90ドル(2008/7/31) | 61.64ドル(2009/3/9) | -34.4% |
JNK | 130.36ドル(2008/7/23) | 77.56ドル(2009/3/9) | -40.5% |
トータルリターン
「HYG」と「JNK」のトータルリターンを、S&P500に連動するETF「IVV」と比較していました。トータルリターンとは、値上がり益+配当の総合リターンのことです。
S&P500に負けているのは当たり前として、「HYG」も「JNK」もほとんど同じパフォーマンスです。どちらも年平均5%強の成長となっています。上々の結果でしょう。
配当は「JNK」の方が高い代わりに、株価は「HYG」に分があり、トータルでは拮抗しているわけですね。
ハイイールド債ETFのメリット/デメリット
ハイイールド債ETF「HYG」と「JNK」の特徴は概ね掴めましたね。続いてメリット/デメリットを考えてみましょう。
メリデメは両者で共通です。
ハイイールド債(ジャンク債)のメリット
安定して5%前後の高配当を狙える
過去に株式市場の暴落を複数経験していますが、安定して5%前後の高い配当が出ています。2007年の設定からある程度の歴史があるので、一定の信頼は置けるように思います。
配当が5%を割るようになってきましたが、それでも高配当であることには変わりありません。現金が必要な人には有力な選択肢でしょう。
現金が必要な理由は人によって異なりますが、FIRE(早期リタイア)に現金はありがたい存在です。
FIREでリタイア直後に、株式暴落の憂き目にあってしまった場合は、相場が元に戻るまでは資産を取り崩さずに、現金でやり過ごす必要が出てきます。この間を耐え抜く手段として、高配当は有効な手立てです。
FIREと高配当銘柄の相性については、「【ちょっと待った!】FIREに高配当株は最適なのか?リターンを最大化する高配当株との付き合い方」で詳しく解説しています。
値動きが小さい
値動きが小さいので、日頃の値動きに一喜一憂せず、枕を高くして寝られるのは、一つのメリットと言えるでしょう。ただリスクが低い反面、価格の上昇も見込めないというデメリットにもなります。
理想は、価格が下がったときにガバッと買って、あとは半永久的にマネーマシーンとしてお金を産み続けることでしょうか。
ハイイールド債(ジャンク債)のデメリット
債券に期待する役割は果たせない
あえて高リターンの株式ではない別の資産をポートフォリオに入れるのは、リスクをなだらかにしたいからですね。
その代表格が債券です。国債などの低リスクな債券は、株価が暴落したときにも価格を維持してくれるため、暴落時に資産を守る保険になります。
ハイイールド債(ジャンク債)も、株式の値動きよりはずっとなだらかです。ただし不況期には株式と一緒に値下がりする傾向があるので、保険の役割は果たしてくれそうにありません。
投資適格債券よりも高配当をゲットしつつ、投資適格債券と同じようなリスクヘッジを狙うことはできません。
それにしてはリターンが物足りない
基本的には、株式の方が債券よりもハイリターンになります。元本は一切保証されない株式の方がよりハイリスクになるため、よりハイリターンでなければ成立しないからです。
と言っても、ETFであれば数百〜数千銘柄に分散投資できるので、株が紙切れになるリスクは限りなく0。10年以上のの長期スパンで考えれば、元本割れの可能性も限りなく低いです。
こうなると、株式ETFのリスクは、もっぱら暴落時に資産が著しく減ってしまうことです。ここで踏ん張ってくれる格付けの高い債券であれば、リターンが低いのは納得できます。
ですが、株と一緒に値崩れしてしまうハイイールド債のリターンは、はっきり言って物足りない。だったらもっとハイリターンな「S&P500」や「全米株式」などの株式インデックスに回したいです。
なお現金が必要な場合も、配当と株価値上がりの両方が期待できる【VYM・HDV・SPYD】の方が、魅力的な選択肢かもしれません。これらは米国の普通株を対象とした高配当ETFです。
VYM・HDV・SPYDの詳しい内容は「【大解剖】高配当ETF「VYM・HDV・SPYD」を徹底比較!」で解説しています。
経費率が高い
それぞれ経費率が、
- HYG:0.48%
- JNK:0.40%
となっており、まずまず高いですね。
5%の利回りであれば、結果的に4.5〜4.6%くらいになってしまうということです。ちょっと無視できない数字ではないでしょうか。
代表的な高配当ETFである【SPYD・HDV・VYM】は、株価の上昇も期待ができて、経費率は10分の1程度です。
加えて、【AGG・BND】といった代表的な債券ETFもやはり経費率は10分の1程度です。この辺りと比べると、どうしても見劣りしてしまいます。
これらのメリデメは、「優先株」とよく似ていると思います。優先株は議決権がない代わりに、配当を優先的に受け取れる特殊な株式のこと。
値動きや配当水準も、概ね似たような感じです。
優先株ETFの詳細は、「【手堅く高配当】米国優先株ETF「PFF」「PFFD」で5%利回りをゲットしよう!」で解説しています。
類似の債券ETF【EMB・VWOB】
代表的なハイイールド債(ジャンク債)のETFが「HYG」「JNK」ですが、似たようなポジションのETFに「EMB」「VWOB」があります。
EMBもVWOBも新興国を国債を対象とした債券ETFです。中身は投資適格債券とハイイールド債が半々くらいとなっています。
運用会社 | ブラックロック | バンガード |
商品名 | iシェアーズ J.P.モルガン・米ドル建てエマージング・マーケット債券 ETF | バンガード・米ドル建て新興国政府債券ETF |
ティッカー | EMB | VWOB |
ベンチマーク | J.P. モルガン・エマージング・マーケッツ・ボンド・インデックス・グローバル・コア・インデックス | バークレイズ米ドル建て新興市場政府債RIC基準インデックス |
投資対象 | 新興国の米ドル建て債券 | 新興国の米ドル建て債券 |
格付け | AA〜Bと幅広い | AA〜Bと幅広い |
平均残存年数 | 13.55年 | 13.6年 |
デュレーション | 8.52年 | 8.5年 |
配当利回り | 4〜5%程度 | 4〜5%程度 |
経費率 | 0.39% | 0.25% |
分配月 | 毎月 | 毎月 |
純資産総額 | 約200億ドル | 約33億ドル |
設定日 | 2007/12/17 | 2013/5/31 |
*EMB参考サイト:ブラックロックHP
*VWOB参考サイト:バンガードHP
トータルリターンは、「HYG」「JNK」より若干高くなっています。経費率もより低く抑えられます。
新興国には、カントリーリスク(政治や社会、軍事の混乱により、証券価格に影響が出るリスク)があるので、この辺りを許容できるならアリかもしれません。
と言っても、ある程度いろんな国に分散されたポートフォリオなので、有事の際もダメージは限定的ではあります。
詳細は「5%の高配当が狙える新興国債券ETF「EMB」「VWOB」をチェック!【新興国ゆえのリスクとは?】」をチェックしてみてください。
まとめ:安く買えるタイミングがあれば
今回はハイイールド債券ETFの「HYG」「JNK」を紹介しました。
ざっとポイントをおさらいしましょう。
- ハイイールド債は、比較的デフォルトの可能性が高い債券
- ETFであれば、分散されているので個別銘柄のリスクは極めて限定的
- 5%前後の高い配当が期待できる
- 平時の値動きはなだらかだが、不況時は株と一緒に値下がりする
- JNKの方が配当利回りが良いが、HYGの方が価格は安定している。トータルリターンはほぼ同じ
「ジャンク」とか「投資非適格」とか言われているので、「これ買っちゃいけないヤツなんじゃ…」と思ってしまいますが、それほど恐れるような商品ではありません。
個別銘柄のジャンク債に投資するのは勇気がいりますが、ETFであれば1,000以上の銘柄に分散されているので、そのような心配は無用でしょう。高配当銘柄としてはあり得る選択肢です。
ただし、トータルリターンでは株式には勝てません。同じインカム系ETFなら、配当と値上がりも期待できる【VYM・HDV・SPYD】の方が高いリターンを期待できます。
債券特有の、株式の暴落時に資産を守る役割を果たしてくれるなら、存在価値が大いにあるのですが、残念ながらそんな美味しい話はありません。
そんなわけで個人的には購入予定はありません。ただ比較的値動きが安定はしてはいるので、安いときに買えるなら、半永久的なマネーマシーンとして持っておくのもアリでしょう。
高配当ETFには色々と種類があります。「金の卵を産む「米国高配当ETF」を一挙紹介」では、定番からややマイナーなものまで紹介しています。
インカム重視で投資する人は、こちらもチェックしてみてくださいね。
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