企業型確定拠出年金(略称:企業型DC)は、社内では401Kと呼ばれているかもしれません。これに加入している人が、退職したり、制度がない勤め先に転職をしたら、iDeCoに移管しなければなりません。
iDeCoは60歳まで引き出しができない制度なので、人によっては加入したく無いと思っているかもしれません。が、そんな事情は関係ありません。
もしiDeCoへの移管をせずに放置すると、かな〜り不利な状況になります。数百万円レベルの機会損失を被る可能性が普通にあります。
この記事では、
- 「企業型確定拠出年金」のiDeCo移管が必須になるのはどんな人か?
- 「企業型確定拠出年金」をiDeCoに移管しなかったらどんな事態になるか?
- 「企業型確定拠出年金」をiDeCoに移管する方法
を解説しています。
この記事を読んでいれば、大損しなくて済みます。そう遠くないうちに転職や早期リタイアを考えている人は、必ずチェックしてください!
企業型確定拠出年金とは?
まず「確定拠出年金(通称:401K)」とは、公的年金とは別に、自助努力で老後の年金を積み立てる年金制度です。
確定拠出年金は、次の通り「個人型」と「企業型」があります。
確定拠出年金(401K)の種類
- 個人が資金を出す場合 →「個人型確定拠出年金(通称:iDeCo)」
- 企業が資金を出す場合 →「企業型確定拠出年金(略称:企業型DC)」
「企業型確定拠出年金(企業型DC)」は、主に大企業が福利厚生の一環として採用しています。社内では単に「401K」と呼ばれているかもしれません。
ありがたいことに企業側が掛金を拠出してくれて、加入者である従業員はそれを好きなように運用できます。しかも運用で得られた利益は非課税。基本的にはやり得な制度です。
ただし積み立てた資産は、原則60歳にならないと引き出しができません。引き出し時は、退職金のように一時金で受け取る方法と、年金のように定期的に受け取る方法があります。
なお会社側が拠出できる掛金には上限があり、以下の金額の範囲内で拠出されています。
他の企業年金がある場合 | 月額2万7500円 |
他の企業年金がない場合 | 月額5万5000円 |
※他の企業年金とは、厚生年金基金、確定給付企業年金などを指す
企業側が上限まで拠出してくれるとは限りませんが、「マッチング拠出」の制度がある場合は、上限に満たない分だけ従業員自身が掛金を上乗せすることもできます。
企業型確定拠出年金の中途脱退(解約)はかなり難しい
本記事は、そんな「企業型確定拠出年金(企業型DC)」に加入していたサラリーマンが、転職や退職をしたケースを想定しています。
いの一番に頭に思い浮かぶのは、「これまで企業型DCで貯まった資産を、現金化して引き出せないか?」ですよね。
結論を先に言うと、普通に働いてきたサラリーマンには企業型DCを現金で引き出すのはほぼ不可能です。
60歳になる前の中途脱退には、次の条件を全て満たす必要があるためです。
企業型DCの中途脱退の条件
- 企業型または個人型確定拠出年金の加入者・運用指図者ではない
- 個人別管理資産額が1万5,000円以下
- 企業型確定拠出年金の資格喪失日の属する月の翌月から起算して6カ月を経過していない
*上記全てを満たす必要あり
①「企業型または個人型確定拠出年金の加入者・運用指図者ではない」は、少しわかりづらい言い回しですね。今回の文脈では、別途で既にiDeCoに入っていたら中途脱退できないと捉えればOKです。
②「個人別管理資産額が1万5,000円以下」は、そのまんまの意味。運用資金が1.5万円以下なら中途脱退OKです。掛金の少ない会社で、ごく短期間しか働かなかった場合は、中途脱退できるかもしれませんね。
③「企業型確定拠出年金の資格喪失日の属する月の翌月から起算して6カ月を経過していない」は、会社を退職して6ヶ月過ぎたら、もう中途脱退はできないよという意味です。
そのため脱退するではなく、「個人型確定拠出年金(iDeCo)」への移管手続きを行うことになります。
企業型確定拠出年金をiDeCoに移管しなければならない人は誰?
「企業型確定拠出年金(企業型DC)」に加入していた人が、「個人型確定拠出年金(iDeCo)」に資産を移管をしなければならないケースを、具体的に説明しておきましょう。
それは、次のような場合です。
企業型確定拠出年金(企業型DC)に加入している会社に勤めてた人が、
- 退職してフリーになる(またはリタイアする)場合
- 退職して専業主婦になる場合
- 企業型DCがない会社に転職するとき
- 公務員になるとき
要は、「企業型確定拠出年金(企業型DC)」にそれ以上加入し続けられなくなったときです。大企業にお勤めの人が何かアクションを起こしたら、このような状況になり得ます。
会社を退職したら、6ヶ月以内にiDeCo口座を開設し、資産を移管させなければなりません。
ただし転職の場合で、転職先にも「企業型拠出年金(企業型DC)」の制度がある場合は、その限りではありません。iDeCoへ移管せず、転職先の企業型DCに移管すればOKです。
【大損】iDeCoに移管しなかったときに起こるペナルティ
では、「企業型確定拠出年金(企業型DC)」に加入していた人が、退職後6ヶ月以内にiDeCoへ移管しなかったら、どうなってしまうのでしょうか?
iDeCoへ移管されなかった資産は、自動的に売却&現金化されて、「国民年金基金連合会」に自動的に移されます。これを「自動移管」と呼びます。
自動移管には、次のデメリットがあります。
自動移管のデメリット
- 運用指図ができなくなる
- でも管理手数料は抜かれてしまう
- 60歳になっても資産を引き出せない場合がある
- 引き出し時に税金が高くなる
それぞれの中身を見ていきましょう。かなりのダメージです。
デメリット①:運用指図ができなくなる
現金化され、「国民年金基金連合会」に自動移管された資産は、それ以降も現金のままで管理されます。
これが自動移管のもっとも痛いデメリットです。本来であれば、資産運用によって利益を伸ばせるので、かなりの機会損失になります。
iDeCoへの移管を放置したらどれだけ損するか?
仮に30歳で、「企業型確定拠出年金(企業型DC)」がある会社を退職した場合を考えてみましょう。
サンプルケース
- 退職時の年齢:30歳
- 企業型DCの資産額:100万円
大卒で22歳から働き始めたとしたら、96ヶ月(8年間)で平均月10,417円を会社から拠出してもらっていたことになります。まあまた妥当な金額だと思います。
*在職中の運用益は省略しています。
60歳までは残り30年間。それぞれ運用した場合は、次のような結果になります。
ケース | 想定年リターン | 30年後の資産額 |
iDeCoへの移管を放置 | 0% | 100万円 |
iDeCoへ移管して運用 | 5% | 432万円 |
自動移管されて現金のまま保有されていれば、もちろん100万円のままです。
一方で、100万円を投資信託で保有し、年利5%で運用していれば、複利効果が加わり30年後は432万円まで増えています。(100万円×(1.05)^30で電卓を叩いてみてください)
デメリット②:でも管理手数料は抜かれてしまう
そして、現金のままで管理され、全く利息がつかない状態でも、ちゃっかり手数料は差っ引かれていきます。
項目 | 手数料 | 詳細 |
特定運営管理機関への 移換手数料(一時金) |
3,300円 | 特定運営管理機関に自動移換される際に、特定運営管理機関手数料として徴収される手数料 |
自動移換に関する事務手数料(一時金) | 1,048円 | 特定運営管理機関に自動移換される際に、国民年金基金連合会事務手数料として徴収される手数料 |
特定運営管理機関手数料 (毎月) |
52円 | 特定運営管理機関に移換されてから、4ヶ月後の月末までに移換等のお手続きがされていない場合、当該月分から年金資金より徴収される |
*金額は税込み
*特定運営管理機関は、国民年金基金連合会を指します
デメリット③:60歳になっても資産を引き出せない場合がある
60歳以降に自動移管された資産を受け取る場合は、結局一度、「個人型確定拠出年金(iDeCo)」へ移換することになります。
iDeCoは、「通算加入者等期間」が10年に満たない場合は、60歳になっても引き出しできません。加入年数が足りないと、遅い場合は65歳までお預けになります。
自動移管になってしまっている期間は、「通算加入者等期間」にカウントされないので、60歳になっても資産を引き出せない可能性があります。
一方で「企業型確定拠出年金(企業型DC)」から「個人型確定拠出年金(iDeCo)」に移管した場合、「通算加入者等期間」に企業型DCの加入年数を引き継ぐことができます。
デメリット④:引き出し時に税金が高くなる
自動移管された資産は、60歳以降になってもそのままでは引き出しできません。結局一度iDeCoに加入してから引き出すことになります。
iDeCoの引き出し方法は、
- 退職金のように受け取る「一時金」
- 定期的に受け取る「年金」
の2種類があります。
どちらも引出し時は課税対象ですが、一時金は「退職所得控除」、年金は「公的年金等控除」が使えます。うまく立ち回れば、税金はほとんど払わないか、場合によっては0にもできます。
退職所得控除は、勤続年数が長いほど節税メリットが大きくなる仕組みです。基本的には、退職所得控除の方が節税メリットが大きいので、一時金を選んだ方が有利です。
勤続年数 | 退職所得控除の額 |
20年以下 | 40万円×勤続年数 (80万円未満の場合は、80万円) |
20年超 | 800万円+70万円×(勤続年数-20年) |
例①:勤続20年の場合
40万円×20年=800万円の退職所得控除
例②:勤続21年の場合
800万円+70万円×(21年ー20年)=870万円の退職所得控除
iDeCoの場合の勤続年数は、企業型DC・iDeCoの加入者期間を合算した期間になります。ここがミソで、自動移管されてしまっている間は「勤続年数」にカウントされません。
結果として、退職所得控除が減ってしまい、課税される額が増えてしまいます。
なおiDeCoの受け取り時は、税金を逃れるように立ち回らないと、運用で得た利益をガバッと持っていかれてしまう恐れがあります。
「【知らなきゃヤバイぞ】iDeCoで大損しないための出口戦略とは?【来たるXデーに備えよ!】」では、税金を最小限に抑える方法を解説しています。
ちょっと難しい内容ですが、iDeCoを使う人は必ずチェックしておきたい内容です。
退職・転職したら行うiDeCo移管の4ステップ
ここまでの話で、「企業型確定拠出年金(企業型DC)」がある会社から退職したときに、iDeCoに移管しなければヤバイ理由は、バッチリ伝わったと思います。
ステップ①:「資格喪失通知書」を受け取る
会社を退職した1ヶ月後くらいに、企業型確定拠出年金を運用していた機関から「資格喪失通知書」が届きます。いざiDeCo口座に資産を移すときに必要になる書類です。
自動移管されてしまう期限日も記載されているので、それまでにiDeCo口座を開設しましょう。
ステップ②:「iDeCo加入者」か「運用指図者」を選択する
iDeCoに加入するときは、
- 掛け金を拠出する「加入者」
- 掛け金を拠出しない「運用指図者」
の2種類の選択肢があります。
「加入者」は毎月最低5,000円の掛金が必要です。掛金は全額、所得控除になるので税制面でのメリットが期待できます。こちらが一般的な選択肢になります。
ただし中には、iDeCoで投資を続けようとは思っていない人もいるでしょう。iDeCoの節税メリットを活かせない、早期リタイアした人や、専業主婦になった人などです。
その場合は、「運用指図者」を選択すると、以降は掛金を拠出できなくなります。掛金は追加せずに、退職までに企業型DCで貯まった資産を運用するだけになります。
運用指図者になると、手数料が安くなるメリットもありますが、代わりに「勤続年数」にカウントされなくなるデメリットがあります。先に紹介した通り、勤続年数が長い方が退職所得控除が増えて、税金面で有利です。
区分 | メリット | デメリット |
加入者 (掛金を毎月最低5,000円拠出) |
勤続年数にカウントされる | 毎月の手数料が171円 |
運用指図者 (掛金を拠出しない) |
毎月の手数料が66円 | 勤続年数にカウントされない |
毎月最低額の5,000円を積み立てられる人は、「加入者」になっておいた方が無難でしょう。それすら嫌なら「運用指図者」を選びましょう。
iDeCoのメリット・デメリットを理解して、加入するかどうか判断してみてください。
ステップ③:投資する商品を選ぶ
iDeCoで投資できる商品は、
- 定期預金などの「元本確保型」
- 投資信託などの「元本変動型」
に分かれています。
60歳間近であれば、今の資産が確実に手元に残る「元本確保型」が良いかもしれませんが、「元本変動型」にしなければリターンは出ません。60歳まである程度時間があるなら、元本変動型の一択です。
元本変動型の中には、「株式」「債券」「REIT」などがあり、リスクが高いものほど、高いリターンが期待できます。もっともハイリスク・ハイリターンは、「株式」です。
ただし株式は、短期では値下がりのリスクがあるものの、10年、20年、30年と長期になるほど元本割れのリスクは無くなります。iDeCoは性質上、長期投資になることから、「株式」の投資信託をオススメします。
中でも今後も成長が見込める「米国株」を中心に投資できるものが良いでしょう。「全世界株式」や「先進国株式」でもOKです。
ちなみに投資信託の銘柄選びは、「投資信託の選び方のポイント&オススメ銘柄紹介【積立NISA・iDeCoにも!】」で詳しく解説しています。
ステップ④:iDeCoを運用する金融機関を選ぶ
iDeCoを運用できる金融機関には、銀行や信金などいろいろありますが、ネット証券がオススメです。シンプルに手数料が安いからです。
投資できるラインナップも、ネット証券の方が優れているケースが多いです。前のステップで目星をつけた商品を、取り扱っている証券会社を選ぶのが良いと思います。
ネット証券会社の選び方は、「【まだ始めてないの?】ネット証券5社の選び方を解説。今すぐ証券口座を開設しよう!」でも解説しています。併せてチェックしてみてください。
証券会社と国民年金基連合会の間のやりとりが発生する都合、口座開設までに1〜2ヶ月かかります。自動移管される前に開設できるよう、余裕を持って手続きしましょう。
まとめ:退職時には確定拠出年金のことを頭に入れておこう!
今回は、「企業型確定拠出年金(企業型DC)」の制度がある会社に勤めているサラリーマン向けの話をしました。
もちろん、今の会社に長く勤める人もいると思いますが、これからは転職や独立を選ぶ人もたくさんいるはず。わたしのようにセミリタイアを選択する人も増えていくでしょう。
そうなったときに、必ず対応しなければならないのが、企業型DCをiDeCoに移管することです。怠った人は、向こう数十年の運用益を棒に振ることになり、数百万円レベルの機会損失になってしまいます。
おそらく退職するときに、会社の人事担当からも案内があると思いますが、中身をわかっていないと、どう振る舞えば良いか迷ってしまいますね。
退職の予定がある人は、大損しないために、この記事の内容を頭の片隅に入れておいてもらえればと思います。
iDeCoの詳細は、「【1830万円の退職金が作れる】iDeCo(イデコ)をやるべき人・やるべきでない人【あなたはどっち?】」で解説しています。
iDeCoは税金面でのメリットが大きい反面、引き出し時の制約があり、使いどころが少し難しい制度でもあります。ぜひiDeCoを乗りこなせそうかチェックしてみてください。
もしiDeCoを活用できそうであれば、「加入者」になって掛金を拠出しましょう。もし自分には合わないと思ったら、「運用指図者」になって、今ある資産の運用だけ行いましょう。