高配当ETFでもっとも人気が高いのが「VYM」「HDV」「SPYD」です。いずれも米国の高配当企業に投資できるETFで、超大手が展開している優良銘柄です。
ただこれら3つの違いを理解していない人も結構多いのではないでしょうか?違いを理解していないと、単に利回りの良いSPYDに流れてしまいがちです。
この記事では、
- 「VYM」「HDV」「SPYD」の決定的な違い
- それぞれの配当実績
- それぞれのトータルリターン
- それぞれのメリット/デメリット
を解説していきます。
インカム狙いの投資に興味がある人は、ぜひ一度チェックしてみてください。読み終えたら、自分がどの銘柄に向いているか、あるいは向いていないか判断できるはず。
特に何となく人気だからと、中身をよく知らないまま高配当ETFに投資しようとしている人は、絶対に抑えておいた方が良い情報となっています。
高配当ETF「VYM・HDV・SPYD」の基本情報
まずは「VYM」「HDV」「SPYD」の基本情報から。
運用会社 | バンガード | ブラックロック | ステートストリート |
商品名 | バンガード・米国高配当株式ETF | iシェアーズ・コア 米国高配当株 ETF | SPDR ポートフォリオS&P500 高配当株式ETF |
ティッカー | VYM | HDV | SPYD |
ベンチマーク | FTSEハイディビデンド・イールド・インデックス | モーニングスター配当フォーカス指数 | S&P 500 High Dividend Index |
投資対象 | 米国で配当利回りが高い約400銘柄 | 米国で配当利回りが高い約75銘柄 | S&P500に含まれる企業で配当利回りが高い約80銘柄 |
配当利回り | 3%前後 | 3〜4%程度 | 4〜5%程度 |
経費率 | 0.06% | 0.08% | 0.07% |
分配月 | 3月・6月・9月・12月 | 3月・6月・9月・12月 | 3月・6月・9月・12月 |
純資産総額 | 約490億ドル | 約75億ドル | 約50億ドル |
設定日 | 2006/11/16 | 2011/3/29 | 2015/10/21 |
*VYM参考サイト:バンガードHP
*HDV参考サイト:ブラックロックHP
*SPYD参考サイト:ステートストリートHP
いずれも米国内の高配当株式を対象としたETFです。インデックス投資と違い、各社横並びではなく、それぞれで特色が異なるのが面白いところ。
このジャンルのトップランカーはバンガード社の「VYM」。純資産総額はETF全体でも上位に位置する人気銘柄です。これに追随する形で出てきたのが、「HDV」「SPYD」。
配当利回りだけで見ると、高い順に【SPYD > HDV > VYM】。
ただし必ずしもSPYDが一番優れているわけではありません。評価するポイントによってどれが優れているかは変わってきます。
特徴①:ETFのビッグ3が展開する高配当銘柄
これらのETFは、世界の三本指に入るETF運用会社が展開しています。
- バンガード社→VYM
- ブラックロック社→HDV
- ステートストリート社→SPYD
そんじょそこらの怪しいファンドではなく、由緒正しい世界TOP3が自信を持って展開している商品ということで、安心感がありますね。
特徴②:配当系スマートベータETFの代表格
「VYM・HDV・SPYD」は、指数に連動して運用されています。ただし株価指数そのままではなく、配当という色眼鏡で調整した、特殊な指数に連動するように設計されています。
この手の独自の指数に連動させる銘柄全般を「スマートベータ」と呼びます。配当系のスマートベータは人気があるジャンルです。
スマートベータの魅力は、アクティブファンドのように特色ある運用ができるのに、手数料が低く抑えられているところ。最初に決めたルールに則って機械的に運用するので、都度の調査コストがかからないためです。
それぞれの経費率は次の通り、100万円を運用しても、年間600〜800円しか経費がかかりません。
- VYMの経費率→0.06%
- HDVの経費率→0.08%
- SPYDの経費率→0.07%
中には経費率1%を取るファンドもある中で、激烈に良心的な手数料設定ですね。ETFで最も安いのは0.03%ですが、高配当系のETFでは群を抜いて低コストです。
蛇足になるので、「スマートベータ」自体の説明は割愛しますが、詳しく知りたい人は、別途スマートベータの解説記事へどうぞ。
ベンチマーク&構成銘柄の違い
ティッカー | VYM | HDV | SPYD |
ベンチマーク | FTSEハイディビデンド・イールド・インデックス | モーニングスター配当フォーカス指数 | S&P 500 High Dividend Index |
投資対象 | 米国で配当利回りが高い約400銘柄 | 米国で配当利回りが高い約75銘柄 | S&P500に含まれる企業で配当利回りが高い約80銘柄 |
財務健全性 | 考慮なし | 考慮あり | 考慮なし |
構成比率の重みづけ | 時価総額加重平均 | 配当利回りと企業規模を考慮した独自の重みづけ | 均等加重平均 |
リバランス | 年1回 | 年4回 | 年2回 |
【VYM・HDV・SPYD】の銘柄選定の要点をまとめました。それぞれで連動するベンチマークが異なり、ここが決定的な違いを生むことになります。
個別に中身を分析していきたいと思います。
VYMのベンチマークと構成銘柄
VYMは「FTSEハイディビデンド・イールド・インデックス(FTSE High Dividend Yield Index)」をベンチマークにしています。
ベンチマークの解説したページを発見できなかったのですが、米国の大企業のうち配当が平均以上の企業(ただしREITは除外)で約400銘柄で構成されています。3者の中ではもっとも分散されています。
インデックス投資でお馴染みの「時価総額加重平均型」が採用されており、時価総額が高い銘柄ほど構成割合が大きくなります。ここがミソで、配当ではHDV・SPYDに劣る代わりに、株価上昇はもっとも期待できます。
順位 | 銘柄 | 構成比率 |
1位 | JPMorgan Chase & Co. | 3.50% |
2位 | Johnson & Johnson | 3.30% |
3位 | Home Depot Inc. | 2.60% |
4位 | Procter & Gamble Co. | 2.50% |
5位 | Bank of America Corp. | 2.30% |
6位 | Exxon Mobil Corp. | 2.00% |
7位 | Comcast Corp. | 2.00% |
8位 | Verizon Communications Inc. | 1.70% |
9位 | Intel Corp. | 1.70% |
10位 | Cisco Systems Inc. | 1.70% |
リバランスは年1回。リバランスの数が少ないので、その分経費率は多少抑えられているのかもしれません。
HDVのベンチマークと構成銘柄
HDVは「モーニングスター配当フォーカス指数(Morningstar Dividend Yield Focus Index)」をベンチマークにしています。
同ベンチマークは、米国企業の時価総額上位97%(要するに米国上場企業の大半)から、
- 平均以上(上位50%)の高配当企業
- 財務が健全
- 競合優位性を持っており、持続的に利益を生み出せる
に当てはまる75銘柄を選りすぐっています。
ただし通常の配当とは趣旨が異なるREITなどは除外されていました。この手の業態は、いくつかの制約を受ける代わりに法人税が免除されている特殊な業態です。
75銘柄の構成比率は、一般的な時価総額加重平均ではなく、かといって単純に75等分でもありません。配当利回りと企業規模を考慮した独自の重みづけをしていて、大企業が上位に来やすいロジックのようです。
順位 | 銘柄 | 構成比率 |
1位 | EXXON MOBIL CORP | 8.63% |
2位 | JOHNSON & JOHNSON | 7.26% |
3位 | VERIZON COMMUNICATIONS INC | 6.37% |
4位 | CHEVRON CORP | 6.08% |
5位 | PROCTER & GAMBLE | 5.59% |
6位 | PHILIP MORRIS INTERNATIONAL INC | 4.79% |
7位 | MERCK & CO INC | 4.30% |
8位 | COCA-COLA | 4.20% |
9位 | CISCO SYSTEMS INC | 4.02% |
10位 | BROADCOM INC | 3.83% |
リバランスは四半期ごとに行なっており、ベンチマークのロジックを厳密に実行する運用方針のようです。
SPYDのベンチマークと構成銘柄
SPYDがベンチマークにしている「S&P 500 High Dividend Index」は非常にシンプル。S&P500の構成銘柄から、配当利回りが高い上位80銘柄を選りすぐっています。
ノミネートされた80銘柄は、HDVのように財務健全性は考慮されていません。ただし母集団であるS&P500の時点で、一定の財務健全性は見られています。(S&P500の詳細記事で、採用銘柄の条件を解説しています)
特徴的な点として「均等加重平均」となっており、各銘柄は80等分で構成されます。よく言えば1銘柄あたりの影響を薄められますが、悪く言えば下位のイマイチ銘柄も同じ配分になります。
加えて、時価総額が伸びている銘柄の割合が増えていかないので、株価の伸びはあまり期待できません。良くも悪くも配当特化型の高配当ETFと言えるでしょう。
順位 | 銘柄 | 構成比率 |
1位 | Interpublic Group of Companies Inc. | 1.62% |
2位 | Iron Mountain Inc. | 1.62% |
3位 | Seagate Technology Holdings PLC | 1.61% |
4位 | Public Storage | 1.58% |
5位 | Welltower Inc. | 1.56% |
6位 | Regency Centers Corporation | 1.55% |
7位 | AvalonBay Communities Inc. | 1.54% |
8位 | Equity Residential | 1.54% |
9位 | ConocoPhillips | 1.49% |
10位 | Simon Property Group Inc. | 1.49% |
80銘柄の中でそのとき株価が上がっている銘柄が上位に来ていますが、年2回のリバランスの際に均等に戻ります。そのためSPYDは構成上位銘柄を気にする意味はありません。
セクター比率
セクター | VYM | HDV | SPYD |
エネルギー | 7.10% | 18.05% | 12.92% |
素材 | 4.40% | 0.64% | 4.84% |
資本財 | 10.30% | 5.63% | – |
一般消費財 | 8.40% | 3.17% | 3.78% |
生活必需品 | 12.80% | 21.29% | 5.11% |
ヘルスケア | 12.50% | 17.16% | 3.62% |
金融 | 21.80% | 4.99% | 22.71% |
情報技術 | 7.80% | 11.14% | 6.64% |
コミュニケーションサービス | 7.20% | 6.50% | 6.41% |
公益事業 | 7.70% | 11.14% | 13.47% |
不動産 | – | – | 20.51% |
太字にしている箇所は、各ETFの構成比率TOP3です。赤で塗りつぶしているセクターは、景気敏感セクターを意味しています。
まず見てわかることは、SPYDは景気敏感セクターの割合が大きいこと。これは不況で株価が暴落しやすいことを意味しています。
逆にHDVは、景気敏感セクターが少なく、「生活必需品」と「ヘルスケア」という代表的なディフェンシブセクターの比率が大きくなっています。不況期でも株価が下がりにくい構成です。
VYMは全体的に偏りが少なく、バランスが取れているように見えます。ボラティリティ(値動きの激しさ)は3者の中では中間に位置するのかな?と予想されます。
キャピタルゲインを狙えるセクターは少ない
そもそも論になりますが、高い配当を出す企業はある程度成熟しているので、企業の成長余白はどうしても少なくなります。成長余白が大きい企業ほど、事業に再投資するため配当を出しません。
3者に共通して、GAFAMなどハイテク産業が入っている「情報技術」「コミュニケーション」「一般消費財」の割合が小さくなっていますね。
そのため【VYM・HDV・SPYD】のどれを選んでも、インデックス投資に比べてキャピタルゲイン(値上がり益)は劣ってしまう可能性が高いです。
なお各セクターの中身は字面だけだとわかりづらいです。ピンと来なかったら米国株のセクター解説記事をチェックしてみてください。
配当実績
それでは肝心の各ETFの配当実績を見てみましょう。
VYMの配当実績
年 | 年間配当(米ドル) | 12月末株価(米ドル) | 配当利回り |
2020 | 2.906 | 91.51 | 3.18% |
2019 | 2.842 | 93.43 | 3.04% |
2018 | 2.649 | 77.99 | 3.40% |
2017 | 2.401 | 85.63 | 2.80% |
2016 | 2.206 | 75.77 | 2.91% |
2015 | 2.149 | 66.75 | 3.22% |
2014 | 1.908 | 68.75 | 2.78% |
2013 | 1.749 | 62.32 | 2.81% |
2012 | 1.593 | 49.38 | 3.23% |
2011 | 1.327 | 45.26 | 2.93% |
VYMは概ね3%前後の配当利回りとなっています。高配当銘柄としては、控えめな水準ですね。
ただずっと増配し続けているので、とても頼もしい実績だと思います。
HDVの配当実績
年 | 年間配当(米ドル) | 12月末株価(米ドル) | 配当利回り |
2020 | 3.568 | 87.67 | 4.07% |
2019 | 3.209 | 97.79 | 3.28% |
2018 | 3.095 | 84.38 | 3.67% |
2017 | 2.949 | 90.14 | 3.27% |
2016 | 2.7 | 82.25 | 3.28% |
2015 | 2.879 | 73.41 | 3.92% |
2014 | 2.451 | 76.54 | 3.20% |
2013 | 2.23 | 70.25 | 3.17% |
2012 | 2.093 | 58.76 | 3.56% |
HDVは3〜4%の配当利回りとなっています。概ね増配傾向となっています。
SPYDの配当実績
年 | 年間配当(米ドル) | 12月末株価(米ドル) | 配当利回り |
2020 | 1.632 | 32.94 | 4.95% |
2019 | 1.746 | 39.25 | 4.45% |
2018 | 1.619 | 34.07 | 4.75% |
2017 | 1.422 | 37.45 | 3.80% |
2016 | 1.514 | 34.86 | 4.34% |
SPYDは大体4〜5%の配当利回りとなっています。
まだ歴史が浅いので評価しづらいところですが、今のところはどの年を見ても他の2つより高い配当利回りとなっています。
チャート比較
一番歴史のあるVYMの設定以来のチャートを見てみましょう。後追いの2つは途中から始まっています。
ここでは3者に共通して高配当銘柄でありつつも、右肩上がりで株価が上がっているところに注目しましょう。
高配当ETFには株価の上昇はほとんど期待できないものが多くありますが、【VYM・HDV・SPYD】はそれとは一線を画すチャートです。
特にVYMは、リーマンショックとコロナショックの両方を耐え抜いて、最高値を更新しています。非常に頼もしい結果ではないでしょうか。
今度は、最後発のSPYDが設立された頃にスタート時点を合わせたチャートです。
まず、VYMがもっとも伸びています。これはVYMが「時価総額加重平均型」を採用しているためと思われます。伸び盛りの銘柄の構成比率が大きくなるため、株価も伸びやすいのです。
もう一つ気づくのが、SPYDの値動きの激しさです。コロナ前後でもっとも大きく変動しています。これは景気敏感セクターが多いことが原因と思われます。
逆にディフェンシブセクターが多めのHDVは、値動きがいくらかなだらかになっていますね。
トータルリターン比較
3者のトータルリターンを比べてみました。トータルリターンは、配当と値上がり益を総合したリターンのことです。
いずれもトータルリターンは十分良い結果ではないかと思います。その中でも一番トータルリターンが高かったのはVYMでした。
株式のリターンは基本的には、
株価の値上がり(キャピタルゲイン)> 配当(インカムゲイン)
なので、配当が少ない方がトータルリターンが高くなるのです。
ただ配当水準では真ん中のHDVが、トータルリターンでは最下位になっていますね。SPYDは設立から日が浅く比較できる期間が短かったため、この傾向が続くかどうかはわかりません。
VYM・HDV・SPYDに共通するメリット/デメリット
3者に共通するのメリット
高い配当水準
いずれの銘柄も安定して高い水準の配当を出しています。キャッシュが狙いの投資家には嬉しいですね。しかも経費率が低いので、リターンが食われる心配もほとんどありません。
現金が必要な理由は人によって異なりますが、FIRE(早期リタイア)に現金はありがたい存在です。
FIREでリタイア直後に、株式暴落の憂き目にあってしまった場合は、相場が元に戻るまでは資産を取り崩さずに、現金でやり過ごす必要が出てきます。この間を耐え抜く手段として、高配当は有効な手立てです。
FIREと高配当銘柄の相性については、「【ちょっと待った!】FIREに高配当株は最適なのか?リターンを最大化する高配当株との付き合い方」で詳しく解説しています。
高配当なのにキャピタルゲインまで狙える
【VYM・HDV・SPYD】の本当に優れているところは、一般的な高配当ETFと比べて、株価が上昇しやすい点にあります。
高配当ETFであれば、【VYM・HDV・SPYD】くらいの配当利回りは、全くもって普通です。ですがこの株価の上がりっぷりは他にはありません。
配当でキャッシュフローを厚くしつつ、資産形成ができるETFはとても貴重です。他の高配当ETFを差し置いて人気を集めている理由はここにあります。
3者に共通するのデメリット
【VYM・HDV・SPYD】に共通するデメリットは、インデックス投資にトータルリターンで負けることです。いくら配当+株価の上昇が見込めるといっても、S&P500などのインデックスは遥か上を行きます。
S&P500などのインデックスは、配当に関係なく、時価総額が大きい銘柄の構成比率が大きくなります。株価上昇を狙う上では、非常に効率的な仕組みになっているのです。
一方の高配当ETFは、配当にフォーカスしているため、これから成長する新興企業を漏れなく取りこぼしていきます。GAFAMなどのハイテク企業も入ってきません。
インカムゲイン(配当)は、キャピタルゲイン(値上がり益)ほどには爆発しないので、高配当ETFのトータルリターンはどうしても見劣りします。
そのため定期的に現金が必要な人以外は、高配当ETFは向きません。単に老後の資産形成や、FIRE(早期リタイア)に向けた蓄財であれば、インデックス投資の方が合理的です。
VYM・HDV・SPYD個別のメリット/デメリット
【VYM・HDV・SPYD】の大局的なメリデメがわかりました。続いて、この3銘柄の中での良し悪しを考えてみましょう。
VYMのメリット/デメリット
メリット
VYMの1番のメリットは、トータルリターンです。商品設計(正確にはベンチマーク)がインデックス投資に近いため、より株価上昇が見込めるところがポイントです。
リーマンショックもコロナショックも乗り越えて、ちゃんと最高値を更新しているあたりは流石です。配当はボチボチ得つつ、将来の資産形成も見据えるなら、VYMは非常に有力なチョイスになるでしょう。
加えて、この3者の中ではもっとも歴史が長いところ、もっとも銘柄分散が効いているところも安心材料です。
デメリット
デメリットは、ズバリ配当利回りがショボいことでしょう。3%前後の利回りで、ときに3%を下回るのは、高配当ETFの中ではやっぱりショボいです。
わざわざインデックスではなく高配当ETFを選ぶ人は、現金が欲しいはずなので、どうしても見劣りする選択肢になってしまうでしょう。
HDVのメリット/デメリット
メリット
HDVは不況で値下がりしづらい構成になっているのが長所でしょう。ディフェンシブセクターの比率が多めで、かつ個別銘柄の財務健全性までチェックされています。
なんだかんだで株式を持っていると、日頃の値動きに意識が持っていかれがちなので、ディフェンシブな中身だとわかっているのは心の安寧につながります。
デメリット
HDVはディフェンシブで値下がりしづらい一方で、好況期に株価を伸ばしづらいのが難点。おそらくVYMとは明確な差が出るでしょう。もちろんトータルリターンでもVYMに負けると思います。
もう一つ気になるのが、ベンチマークの計算方法です。VYMは慣れ親しんだ「時価総額加重平均型」で銘柄が構成され、SPYDは銘柄をキレイに等分します。ですが、HDVはイマイチ中身がわかりません。
HDVのベンチマークは、配当利回りやら企業規模やらを反映しているようですが、正確なロジックはわかりません。ロジックがわからないと、内在するリスクを咀嚼できないので、暴落時に信じきれず狼狽売りしがちです。
配当に関してはある程度信用できそうですが、キャピタルゲイン(株価の値上がり)がどれほど期待できるのかもよくわかりません。
SPYDのメリット/デメリット
メリット
SPYDのメリットは、なんといってもその高配当っぷり。5%が狙えるのはなかなかの水準です。高配当ETFが好きな人はなんらか現金が必要なはずなので、やっぱりここは強く惹かれるポイントです。
またSPYDの特徴である80銘柄を均等に配分する計算方法は、メリットになるかは微妙なところです。個人的にはもっと良い計算方法なかったの?と感じました。
配当さえ高ければ清濁併せ吞むスタイルなので、配当利回りは高くなるでしょう。そこで配当が大きいだけの変な企業が、大きなウェイトを占めないためには、有効なの計算なのかもしれません。
デメリット
SPYDの1番のデメリットは、構造的に株価上昇が狙いにくいところです。80銘柄を均等に分割してしまうので、株価が上昇する銘柄の恩恵をほとんど受けられません。
加えて、景気敏感セクターの割合が大きいので、暴落相場に弱いのもSPYDのデメリットになります。
VYM・HDV・SPYDの組み合わせはアリか?
という疑問が浮かびますね。それぞれ良し悪しがあるので、組み合わせたらどうかと。
この疑問に答えるためには、まず高配当株に投資をする目的を整理しましょう。あなたはどれに当てはまるでしょうか?
- キャッシュはいくらか欲しいが、メインは資産形成
- 必要な現金額が決まっていて、高い利回りが欲しい
- なんとなく現金が好きだから
それぞれに当てはまる人の組み合わせを考えてみましょう。
目的①:キャッシュはいくらか欲しいが、メインは資産形成
例えば趣味の出費や、遊ぶ金欲しさ(悪い意味ではなく)で現金を必要としているなら、具体的に必要な現金額はないと思います。出てくる配当の分で、生活を潤そうって感じの人ですね。
こういう人は、将来の資産形成も兼ねて、VYM1本で良いと思います。
HDVやSPYDを混ぜても、トータルリターンが減るだけです。かつVYM単体の方が分散が効いているので、混ぜる意味はほとんどありません。
目的②:必要な現金額が決まっていて、高い利回りが欲しい
例えばFIRE(早期リタイア)している人や、不安定な仕事にチャレンジしている人は、生活資金を配当に頼るケースがあると思います。この場合は、毎月一定額の現金が必要になってきますね。
もしVYMの利回りで足りない場合は、より利回りの高いHDV・SPYDを検討することになります。
もっとも配当利回りが高いSPYDは、暴落時に弱い景気敏感セクターが多い構成になっています。ディフェンシブセクターが多く、暴落に強い構成になっているHDVで補完できそうです。
目的③:なんとなく現金が好きだから
なんとなく現金が好きで高配当ETFに投資しようとしているなら、ちょっと落ち着いて考え直した方が良いと思います。高配当ETFに投資するかまで立ち戻った方が良いかと。
前述の通り、高配当ETFよりインデックス投資の方が高いトータルリターンを出します。
将来のための資産形成であれば、どう考えてもインデックス投資です。単に現金が好きなだけなら、インデックス投資で溜まった資産を崩せば良いだけです。
まとめ:3つとも優良なETF
今回は大人気高配当ETFの「VYM」「HDV」「SPYD」の3本を比較解説してみました。
メリットデメリットはそれぞれありますが、高配当ETFでキャピタルゲインまで狙えるのは物凄い強みです。しかも経費率は激安とあって、本当に強いと思います。
ですが忘れてはいけないのは、トータルリターンではインデックスに負けてしまうということ。高配当ETFに手を出すなら、定期的に現金が必要な理由を、自分の中で明確に持っておきましょう。
また3本とも、全銘柄が米国企業で構成されています。この3本にポートフォリオの全て(またはほとんど)を託すとしたら、それは米国一強の未来に賭けることを意味することも忘れずに。
最後に3本の特徴をざっとおさらいしておきます。
- VYM
3%前後の配当利回り。約400銘柄に分散投資。時価総額加重平均型を採用しているため、キャピタルゲインの期待も大。トータルリターンも3つの中では最優秀。
- HDV
3〜4%の配当利回り。配当利回りが高く、財務健全な75銘柄に分散投資。ディフェンシブセクターの割合が大きい。リスクリターンは3者の中間。
- SPYD
4〜5%の配当利回り。S&P500の高配当上位80銘柄に均等に分散投資。景気敏感セクターが多く、暴落時には弱い。
ぜひ自分に合った銘柄選定を選んでみてくださいね。
高配当ETFには色々と種類があります。「金の卵を産む「米国高配当ETF」を一挙紹介!【SPYD・HDV・VYMだけじゃないぞ!】」では、定番からややマイナーなものまで紹介しています。
インカム重視で投資する人は、こちらもチェックしてみてくださいね。