世界の国々は「先進国」か「新興国」のどちらかに属していると思っていませんか?実は第3の勢力に「フロンティア国」があります。
アフリカ諸国をはじめとするこれから経済発展が著しい国々が「フロンティア国」です。すでに先進国は人口減少に転じていますが、フロンティア国は人口がモリモリ増えていきます。
この記事では、
- フロンティア国に含まれる国
- フロンティア国の魅力と懸念
- フロンティア国に投資できるETF
- フロンティア国ETFのリターン
を解説しています。
先進国、新興国に続くインデックス投資先になるかもなので、ぜひ知識だけでも持って帰ってもらえればと思います。
第3の勢力「フロンティア国」とは?
世間一般の理解では、「先進国」か、さもなければ「新興国」かのどちらかに属するものですが、新興国のさらに下にいるのが「フロンティア国」です。
フロンティア国は、新興国よりも経済発展が遅れている国々で、それらの国々は総称して「フロンティア市場(Frontier Markets)」と呼ばれています。
この「フロンティア国」や「フロンティア市場」という用語は、基本的には投資の世界でのみ使われている概念です。ニュースや教科書では出てこないでしょう。
「フロンティア国」はインデックス投資の概念
インデックス投資は、誰もがイメージしやすい「日本のTOPIX」「米国のS&P500」のような、国を代表する指数に連動する商品ばかりではありません。
日本人投資家にも人気がある、
- 全世界株式インデックス
- 先進国株式インデックス
- 新興国株式インデックス
のような国境を跨いだ指数に連動する商品もあります。
と疑問に思う人もいるでしょう。
実はこのような世界中の様々な指数算出をビジネスにしている企業があるのです。
- モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル(略称:MSCI)
- FTSEインターナショナル(略称:FTSE)
が代表的な2社。世界中のファンドは、彼らが作った指数を持ち寄ってインデックス投資の商品開発をしているのです。
この2社のような指数を算出している企業が生み出した概念が、「フロンティア国」であり「フロンティア市場」なのです。
「フロンティア国」に含まれる国
前述の「MSCI社」が算出しているフロンティア国の指数に、「MSCIフロンティア・マーケッツ・インデックス」があります。
同指数では、次の27ヵ国をフロンティア国と定義しています。
MSCI社によるフロンティア国の定義
●アフリカ
ブルキナファソ、ベナン、コートジボワール、ケニア、ギニアビサウ、モーリシャス、マリ、セネガル、トーゴ、チュニジア
●ヨーロッパ
クロアチア、エストニア、アイスランド、リトアニア、ルーマニア、セルビア、スロベニア
●中東
バーレーン、ヨルダン、モロッコ、ニジェール、ナイジェリア、オマーン
●アジア
バングラデシュ、カザフスタン、スリランカ、ベトナム
全世界株式もカバーしていない「フロンティア国」
「全世界株式インデックス」は、全世界にいっぺんに投資できるとあって、非常に人気があります。
ですが実は、「全世界株式インデックス」の投資対象は、「先進国」と「新興国」です。「フロンティア国」は含まれていません。つまり本来の意味での全世界ではないのです。
「フロンティア国」全体が、世界の時価総額に占める割合は1%にも届きません。株式の世界では、フロンティア国全部を足しても、Apple1社に及ばないのです。
さらに今後「フロンティア国」に含まれるどこかの国が、目覚ましい発展を遂げれば、「新興国」に格上げされます。新興国に格上げされれば、「全世界株式」の対象に含まれます。
そんなわけで、「全世界株式」は世界地図的な意味ではフォローしていない国が多数ありますが、株式の時価総額の面での取りこぼしは、無視できるレベルと言えるでしょう。
本記事のテーマではないので割愛しますが、全世界株式のカバー範囲は「【全世界株式は2種類ある!】MSCIオールカントリーワールドインデックスとFTSEグローバルオールキャップインデックスの違い」で解説しています。
「フロンティア国」はブルーオーシャン?
フロンティア国に含まれる、アフリカやアジアは、まさにこれから経済発展を迎えるところです。ここで期待できるのが「人口ボーナス」です。
人口ボーナスとは、生産年齢人口(15~64歳)の増加率が、人口全体の増加率よりも高くなり、経済成長が加速する状態を指す経済用語です。
人口ボーナス期では、豊富な労働力を背景に個人消費が活発にながらも、高齢者が少ないので社会保障費用は抑えられます。経済が拡大しやすいゴールデンタイムと言えるでしょう。
先進各国の人口ボーナス期はすでに終了しており、中国もそう遠くないうちに人口ボーナス期の終焉を迎えるでしょう。
国連の調査・予想「World Population Prospects 2019」によれば、フロンティア国の生産年齢総人口(15~64才)は、2100年まで増え続けると見込まれています。フロンティア国はこれからがゴールデンタイムなのです。
現状はフロンティア国に投資できる商品は多くありません。フロンティア国が世界の時価総額に占める割合もごくわずか。これから化ける可能性が存分にあるわけです。
投資の世界は、数年後の未来を先取りして価格がつきます。現在はまだまだでも、これから発展の兆しが見えたとなれば、株価が急上昇することもあり得るでしょう。
「フロンティア国」の懸念材料
さて、そんな胸が熱くなるフロンティア国ですが、リスクもそれなりです。思い当たるリスクを挙げてみましょう。
懸念①:新興国よりも高いカントリーリスク
カントリーリスクとは、投資をした国において、政治や経済の情勢によって証券市場や為替市場に混乱が起こった場合に、投資した資産価値が変動してしまうリスクのこと。
例えば、内乱や暴動が起きたり、革命で政府の方針がガラッと変わったり、国債を踏み倒し(債務不履行=デフォルト)たり、ハイパーインフレになって現地通貨が紙切れになったり、といった具合です。
カントリーリスクが低いのはダントツで先進国。次いで新興国ですが、新興国ですらカントリーリスクは高いと言われています。
新興国はカントリーリスクがあるために投資家に敬遠されがち。投資資金が集まりづらかったり、何かあると資金を引き上げられたり。そのため高い経済成長の割には、株価が伸びない傾向があります。
フロンティア国は、アフリカや中東といった、新興国以上にカントリーリスクが高い国々なので、経済成長したとしても、投資リターンは伸び悩む可能性が多分にあります。
新興国のカントリーリスクは、「新興国株は不要なのか?新興国株投資が思ったより伸びづらい4つの理由」で解説しています。フロンティア国はこのさらに上と考えてください。
懸念②:流動性の低さ
フロンティア国を全て足し合わせても、全世界の時価総額の1%にも足りません。その一方で米国は一国だけで世界の半分を占めています。
米国株であれば流動性が高いので、資産を売りたいときに、ほとんど希望の価格で売れるでしょう。世界の投資家のお金は、半分は米国に流れているわけですから。
しかしながら、世界の投資家のお金が1%も集まらないフロンティア国では、売りたいと思っても売れないかもしれませんし、売りたい価格で売れないかもしれません。
何かの大きな事件があって資金を引き上げたいと思ったときは、誰も買い手がつかず、資金を引き上げられない可能性すらあり得ます。
懸念③:美味しいところを先進国が持っていく可能性
個人投資家の目線では、フロンティア国の企業にお金を入れて、その企業が成長してリターンを手にしたいわけです。
ですが先進国のグローバル企業は、これから人口が増えて経済が発展していくエリアで、自社製品を売りまくりたいと考えるはずですね。
結果として豊かになったアフリカの人々は、マクドナルドのハンバーガーを食べて、コカコーラを飲んでいるかもしれません。iPhoneやAndroidスマホを使って、Amazonで買い物をしているかも。
そうなってしまうと、経済成長の恩恵は先進国(実際にはほとんど米国)に持っていかれてしまうことになります。結局フロンティア国に投資せずに、米国に投資した方が良かったということになりかねません。
フロンティア国に投資できる「iシェアーズ MSCI フロンティア & セレクトEM ETF」
フロンティア国に投資できる商品を探してみたところ、めぼしいものは「iシェアーズ MSCI フロンティア & セレクトEM ETF」くらいでした。
iシェアーズは、米国の超巨大ファンド「ブラックロック社」のブランドです。大手が運営している商品なので、どこぞの馬の骨ではないという点で少し安心。
基本的なスペックは次の通りです。(詳細はブラックロックのサイトを参照ください)
運用会社 | ブラックロック |
商品名 | iシェアーズ MSCI フロンティア & セレクトEM ETF |
ティッカー | FM |
ベンチマーク | MSCI フロンティア & エマージング・マーケット・セレクト・インデックス |
投資対象 | フロンティア国、並び小規模新興国の155銘柄 |
経費率 | 0.79% |
設定日 | 2012年9月12日 |
ティッカーはわかりやすく「FM」。もちろん、”Frontier Markets”の略です。
経費率はちょっと高いなと思いますが、現状は手数料の値下げ競争になるような商品ではないので、しょうがないかなと。
ベンチマーク
ベンチマークは「MSCI フロンティア & エマージング・マーケット・セレクト・インデックス」を使っています。
こちらは「フロンティア国」と「小規模な新興国」から、選りすぐられた銘柄からなる指数となっています。つまり指数の対象はフロンティア国だけではないんですね。
「フロンティア国」で調子が良い国は、「新興国」に格上げされることになります。その際は、「フロンティア国」の指数から抜けて、「新興国」の指数に移動することを意味します。
もしフロンティア国だけで構成された指数を使ってしまうと、「フロンティア国」のエースは「新興国」に引き抜かれてしまい、常にエース不在になってしまいますね。
昇格したエース国も、引き続き投資対象とすることで、パフォーマンスを上げようとしているのではないかなと推察します。
構成国
「iシェアーズ MSCI フロンティア & セレクトEM ETF」の構成国は、ベンチマークにしている「MSCI フロンティア & エマージング・マーケット・セレクト・インデックス」の構成国に準拠します。
構成国は次の通りでした。
MSCI フロンティア & エマージング・マーケット・セレクト・インデックスの構成国
●フロンティア国
バーレーン、バングラデシュ、クロアチア、エストニア、ヨルダン、カザフスタン、ケニア、リトアニア、モーリシャス、モロッコ、ナイジェリア、オマーン、ルーマニア、セルビア、スロバキア、スリランカ、チュニジア、ベトナム
●一部の小規模な新興国
アルゼンチン、コロンビア、エジプト、パキスタン、ペルー、フィリピン
上位の構成国は次の通りです。
順位 | 構成国 | 構成比率 |
1位 | ベトナム | 21.33% |
2位 | クウェート | 13.14% |
3位 | モロッコ | 9.63% |
4位 | ケニア | 8.06% |
5位 | ナイジェリア | 7.56% |
6位 | その他 | 40.28% |
セクター比率
次にセクター比率を見ていきましょう。
順位 | セクター | 構成比率 |
1位 | Financials(金融) | 42.45% |
2位 | Communication Services(コミュニケーションサービス) | 12.76% |
3位 | Real Estate(不動産) | 9.18% |
4位 | Materials(素材) | 8.04% |
5位 | Consumer Staples(生活必需品) | 8.03% |
6位 | Industrials(資本財) | 6.66% |
7位 | Energy(エネルギー) | 5.96% |
8位 | Health Care(ヘルスケア) | 2.87% |
9位 | Utilities(公益事業) | 1.64% |
10位 | Information Technology(情報技術) | 1.35% |
11位 | Consumer Discretionary(一般消費財) | 1.05% |
発展が遅れている国ほど金利が高い傾向にあります。先進国と比べてリスクが高いので、リターン(金利)を増やさないとお金が集まらないわけですね。
金利が高い方が金融業界が儲かるので、金融の比率が高くなっているのかなと思いました。
米国の代表的な株価指数「S&P500」のセクター比率と比べると、だいぶ景色が違って見えますね。
セクター比率の見方は、「米国株の全11セクターとは?セクターローテーションを意識したポートフォリオを持とう!」で解説しています。
組み入れ銘柄トップ10
続いて、組み入れ銘柄の上位を見ていきましょう。
順位 | セクター | セクター | 国 | 構成比率 |
1位 | AHLI UNITED BANK (KW) | 金融 | バーレーン | 5.24% |
2位 | SAFARICOM | 通信サービス | ケニア | 4.87% |
3位 | NATIONAL BANK OF KUWAIT | 金融 | クウェート | 4.17% |
4位 | HOA PHAT GROUP JSC | 素材 | ベトナム | 3.37% |
5位 | BANCA TRANSILVANIA | 金融 | ルーマニア | 3.24% |
6位 | MAROC TELECOM | 通信サービス | モロッコ | 3.15% |
7位 | VINGROUP JSC | 不動産 | ベトナム | 2.81% |
8位 | KUWAIT FINANCE HOUSE | 金融 | クウェート | 2.45% |
9位 | ATTIJARIWAFA BANK | 金融 | モロッコ | 2.43% |
10位 | VINHOMES JSC | 不動産 | ベトナム | 2.13% |
リターン
肝心のリターンを見てみましょう。
比較対象として、
- 代表的な新興国ETF「VWO」
- 全世界株式ETF「VT」
- 米国S&P500のETF「VOO」
と並べてみました。
iシェアーズ MSCI フロンティア & セレクトEM ETF(FM)は、設定日が2012年9月なので、そこからの比較となります。
順位は、【VOO(S&P500)>VT(全世界株式)>VWO(新興国株式)>FM】でした。
残念ながら、iシェアーズ MSCI フロンティア & セレクトEM ETF(FM)のリターンは、この中では最下位ですね。
まとめ:まだ選択肢には無いかな
というわけで、今回は知られざる「フロンティア国」への投資について解説してみました。
人口ボーナスで、長期に渡って経済発展するのであれば、これはなかなか魅力的な投資先です。ちょっと経費率は高いものの、日本からもETFを通して投資できます。
ただ肝心の投資リターンが伸びづらいよう。原因はカントリーリスクが高いので、まともな投資先として見られていないのでしょう。リスクがあるならリターンはべらぼうに高くあって欲しいところです。
これなら相対的にリスクが低く、リターンが大きい米国株に資金を回す方が合理的です。フロンティア国が経済発展したときに、米国のグローバル企業が美味しいところを持っていく気もします。
当面は米国株中心で考えていますが、風向きが変わってくれば、資産の一部だけフロンティアに賭けてみるのもアリかもしれませんね。