いま人気の米国株には、思わぬ落とし穴があるのをご存知ですか?
実は米国株の配当金は、放っておくと二重課税されています。本来取られなくてよかったはずの税金が勝手に徴収されているのです。
取られすぎてしまった税金は、確定申告で取り戻すことができます。基本的には米国株に投資している人は全員当てはまるので、やらなきゃほぼ確実に損します。
この記事では、「外国税額控除」という制度を使って、二重課税を取り戻す方法を解説しています。どうしても確定申告が面倒な人向けに代案も用意しています。
米国株に興味がある人は、損しないために必ずチェックしてください。特に「高配当ETF」はモロに影響を受けるので、絶対に対応しましょう!
米国株の配当金は二重課税されている!
まずは米国株の配当金が、二重課税でどれだけ損しているのかを認識しておきましょう。
株式にかかる税金は、次の通りとなっています。
売却に対する税金(譲渡益課税) | 20.315% |
配当金にかかる税金(配当課税) | 20.315% (外国株は現地でも課税される場合がある) |
売却したときの利益も、配当金も、同じく約20%の税金がかかっています。そのため「投資の税金は大体2割」と世間では認識されています。
ただし、外国株の配当金に関しては話は別です。
米国株式の配当金であれば、米国内で税率10%の源泉徴収がなされ、さらに日本でも20.315%が源泉徴収されます。都合、約28.3%の勝手に課税されていることになります。
米国株で年間100万円の配当金がある場合
- 本来の税額
国内:100万円 × 約20% = 約20万円
合計:約20万円
- 実際に源泉徴収されている税額
米国:100万円 × 10% = 10万円
国内:90万円 × 約20% = 約18.2万円
合計:約28.2万円
米国株のなかでも「高配当ETF」と呼ばれる商品は、配当金をメインの投資になるので、二重課税は切実な問題になります。
例えばFIRE(早期リタイア)して、年間300万円の生活費を米国株からの配当金で賄うとしたら、約25万円は二重課税の犠牲になります。丸々1ヶ月分の生活費が無為に消えていくのです。
*ちなみにこの話は、外国株の「配当金」に限った話です。売却益は外国側で課税されていないので関係ありません。
納税方法による税率の違いについて
米国株の配当金に対する二重課税問題について、ざっくりと理解してもらえたと思います。
実は配当金の納税方法は、細かく分けると次の4つに分類されます。二重課税を避けるためには、「申告分離課税」を選択する必要があります。
納税方法①:源泉分離課税(税率約28.3%)
少し難しい用語が出てきて、「うっ」と思った人もいると思いますが、そんなに難しい話ではありません。安心してください。
投資の利益は通常約20%の税率で固定されています。何億稼いでも税率は変わりません。このように通常の所得(給料など)の税金とは別のテーブルで、投資の利益に税金を課すことを「分離課税」と呼びます。
配当金は、国内株なら約20%、米国株なら約28%の税金が、勝手に源泉徴収されています。そのまま何もしていない状態が「源泉分離課税」です。
納税方法②:申告分離課税(税率20.315%)
「申告分離課税」も、通常の税金とは別テーブルで、投資の税率を計算することに変わりありません。
ただし源泉徴収されたまま放っておくのではなく、確定申告を行います。確定申告しつつ、分離課税を選択するから「申告分離課税」という名前になっています。難しく聞こえますがそれだけの話です。
源泉徴収されたまま放っておくことも可能ですが、あえて確定申告するのにはもちろん理由があります。払い過ぎてしまった税金を取り戻したいのです。
今回のテーマは、米国で課せられてしまった二重課税分を取り戻すことにあります。そのために活用するのが、「外国税額控除」という制度。同制度を使うために確定申告を行います。
結果として、米国株の配当金にかかる税率は、本来の約20%まで下げられます。
納税方法③:総合課税(税率は所得によって変わる)
これはちょっと難しい話になります。
「総合課税」とは、投資の固定税率である「分離課税」は使わずに、お給料などの所得と一緒くたに課税する方法です。カンタンに言えば、配当金も累進課税テーブルに載せて計算するという話です。
そのため、所得によって配当金の税率が変わります。所得が低い場合は、総合課税を選択した方が、税金が安くなる場合があります。
ただしかなり複雑な話になるので、本記事では割愛します。誰でも得するわけではないことに加え、手続きはさらに面倒になります。
納税方法④:NISA(税率10%)
NISAには「一般NISA」と「つみたてNISA」があります。この話が関係あるのは、「一般NISA」を選択している人のみ。「つみたてNISA」は、対象商品が国によって厳しく管理されていて、米国株は対象外だからです。
結論を先にいうと、NISAの場合は税率10%で、それ以上にも以下にも動かせません。
NISA口座であれば、米国株の配当を受け取っても国内では課税されません。ただし米国では通常通り10%課税されてしまいます。
国内で課税されていないので、米国で課税されていても二重課税にはなっていません。そのため、これから紹介する「外国税額控除」で、米国で課税された分を取り戻すことはできません。
今回のテーマとはズレますが、NISAであれば税金は確実に安く済むので、まずはこちらを活用しましょう。
NISAの詳細は、「【とりあえずやっとけ】NISAとは?初心者にオススメの「つみたてNISA」と銘柄選びのポイントとは」で解説しています。
二重課税を取り戻せる「外国税額控除」とは?
ここからがこの記事の「肝」になってきます。
「外国税額控除」とは、外国で配当金にかかっている二重課税を、日本の所得税や住民税から差し引く制度のこと。日本で税を納めている人であれば、基本的には誰でも使えます。
外国税額控除を利用するためには、確定申告が必要です。確定申告により、払い過ぎてしまった税金を差し引いてもらえます。
「外国税額控除」の計算方法
さて、そんな外国税額控除ですが、実は控除できる金額には上限があります。
控除可能な金額は、次の計算式で求められます。
外国税額控除の計算方法
外国税額控除の限度額=
「①その年分の所得税額」×(「②その年分の国外所得総額」÷「③その年分の所得総額」)
例えば、その年の所得総額が500万円だったとしましょう。そのうちの米国株の配当金が100万円だったとします。
その場合は、次のような計算になります。
- 「①その年分の所得税額」=500万円×20%(所得税率)−42万7,500円(控除額)=57万2,500円
- 「②その年分の国外所得総額」=100万円
- 「③その年分の所得総額」=500万円
外国税額控除の限度額=
①57万2,500円 × ②100万円 ÷ ③500万円 = 114,500円
となります。
限度額=控除できる金額ではない
ここで計算した外国税額控除の限度額が、そのまま控除できるとは限りません。
- 外国税額控除の限度額
- 控除対象外国税額
のどちらか小さい方が、実際に控除される金額となります。
「控除対象外国税額」とは要するに、二重課税によってあなたが損した金額です。
上記の米国株配当金が年間100万円の例では、
米国株で年間100万円の配当金がある場合
- 本来の税額
国内:100万円 × 約20% = 約20万円
合計:約20万円
- 実際に源泉徴収されている税額
米国:100万円 × 10% = 10万円
国内:90万円 × 約20% = 約18.2万円
合計:約28.2万円
となり、差額の約8.2万円が控除される金額となります。
限度額に収まらない場合は3年間の繰越が可能
外国税額控除の限度額を計算した結果、控除しきれない所得税額が発生することがあります。
控除できない金額は、住民税から控除することもできますが、住民税からも控除しきれない場合は、翌年以降3年間にわたって繰り越すことができます。
「外国税額控除」の確定申告に必要なもの
「外国税額控除」を適用させるためには、
申告書類
- 確定申告書
- 外国税額控除に関する明細書
のフォーマットに必要項目を記入して、提出する必要があります。
その際には、外国所得税が課税されたことを証明するために、
添付書類
- 特定口座年間取引報告書
- 配当金の支払通知書
のどちらかを添付する必要があります。どちらも証券会社から提出される書類です。
さらに繰越控除を利用する場合は、各年の控除限度額や納付した外国所得税の記載した書類も添える必要があります。
確定申告がどうしても面倒な場合は
米国株に投資するなら「外国税額控除」は使わなきゃ損なので、なるべく活用したいところです。
とは言え、「米国株には投資したい!でも確定申告はやりたくない!」という人もいるでしょう。そういう人は、確定申告をしなくても不利にならない選択肢をオススメします。
確定申告しない選択肢①:配当が出ない株
米国株の二重課税問題は、配当金に関するものです。値上がりした株式を売却した場合は、二重課税はおきません。となれば、配当が出ない株式を選ぶのはいかがでしょうか。
実のところ配当がしっかり出る企業は、昔ながらの産業でビジネスが安定している代わりに、この先の成長は期待できない場合が多いです。コカコーラやP&Gなどが当てはまります。
一方で、配当を出さない企業は、新規事業への投資にお金を回すので、配当はほとんど出しません。その代わり今後も成長が期待できるので、株価上昇が期待できます。Amazonやアルファベット(Google)のような企業です。
ハイテク企業が集まるNASDAQトップ100社に投資できる「QQQ」というETFもアリかもしれません。100万円投資しても配当は年間5,000円未満なので、確定申告せずに損する額は数百円くらいで済みます。
確定申告しない選択肢②:米国に投資できる国内投資信託
ハイテク企業だけでなく、満遍なく米国企業に投資したいとなれば、日本国内の投資信託をオススメします。こちらの方が万人向けで、王道だと思います
2020年1月1日の税制改正によって、日本国内企業の投資信託やETFであれば、結果的に外国株に投資をしていても、分配金の二重課税は源泉徴収の時点で調整されることになりました。
ちょっと難しい言い回しになってしまいましたが、要するに二重課税は勝手に調整してくれるので、我々は何もしなくてOKということです。
日本国内では、米国に投資できる良いETFがあまりないのですが、投資信託であれば「eMAXSIS Slimシリーズ」などの優良ファンドがあります。
- 米国S&P500のインデックス投資信託
- 全米ほぼ全ての上場企業に投資できるインデックス投資信託
- 全世界の企業に投資できるインデックス投資信託
などなど、米国に投資する上でも魅力的な選択肢になるでしょう。
「米国高配当ETF」は外国税額控除から逃げるな!
FIRE(早期リタイア)を目指している人は、
- VYM
- HDV
- SPYD
といった、「米国高配当ETF」を好んで投資している人もいるでしょう。
配当金があると、元本を取り崩さなくても生活資金が手に入るので、リタイア後に株価が暴落しても持ち堪えやすくなります。そんなわけでFIRE民には、現金の配当には大きな価値があるのです。
仮に8,000万円を米国高配当ETFに投資して、年平均4%の配当を受け取るとしましょう。そうなると、税引き前の配当金は320万円です。
米国株で年間320万円の配当金がある場合
- 本来の税額
国内:320万円 × 約20% = 約64万円
合計:約64万円
- 実際に源泉徴収されている税額
米国:320万円 × 10% = 32万円
国内:288万円 × 約20% = 約57.6万円
合計:約89.6万円
実際にはそのときの所得によって、控除できる金額にキャップがかかる可能性はありますが、差額は約25.6万円です。
確定申告することで、これだけ大きな金額が戻ってくるかもしれないのです。メンドくさがって逃げるべきではないですよね?
まとめ:米国株のお供には「外国税額控除」を!
今回は、米国株の配当金にかかった二重課税を取り戻す方法を解説しました。
ざっとポイントを振り返りましょう。
米国株配当金の二重課税のポイント
- 配当金は、国内外に関わらず、税金が源泉徴収されている
- 外国株の場合は、両国で課税されていて二重課税が発生している
- 二重課税は「外国税額控除」を使って取り戻せる
- 「外国税額控除」は確定申告が必須となる
どうしても確定申告が億劫なら、米国に投資できる国内の「投資信託」を活用しましょう。
VYM、HDV、SPYDをはじめとする「米国高配当ETF」に投資する人は、確定申告から逃げずにきっちり対応しましょう!
投資にかかる税金の基礎知識は「【知っておきたい投資の税金】特定口座とは?源泉徴収「あり」「なし」の違いと確定申告について」で解説しています。
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