社債ジャンルのETFでトップクラスの人気を誇るのが「LQD」。その魅力はリスク・リターンのバランスにあります。
真っ当な格付けがされた社債を集めているので、リスクは低めですが、国債ほどガチガチに格付けが高くないので、より高いリターンを出します。
もし一時的な値下がりを許容できるのであれば、債券ETFの王道である「AGG」「BND」よりも断然オススメできる選択肢だと思います。
この記事では、
- 「LQD」の基本的なスペック
- 「LQD」のリスク・リターン
- 「LQD」と「AGG」との違い
を解説していきます。
債券投資を考えている人は、米国債を中心に考えている人が多いと思います。それはもちろん優れた選択肢の一つですが、ライフスタイルによっては社債を選んだ方が良い人もいます。
結果的に「LQD」に投資するかはさておき、社債という選択肢も知っておいて損はありません。もしかしたら、あなたにとって思わぬ巡り合わせになるかもしれませんよ?
なお「債券の基本的な用語」や「利率と利回りの違い」「債券価格と金利の関係」が、いまいちピンと来ない人は、債券の基礎を解説した記事をサッと目を通してもらうと理解が捗ると思います。
投資適格社債ETF「LQD」基本情報
初めに「LQD」の基本情報を見ていきましょう。
運用しているブラックロック社。世界の最大手のETF運用会社です。
運用会社 | ブラックロック |
商品名 | iシェアーズ iBoxx 米ドル建て投資適格社債 ETF |
ティッカー | LQD |
ベンチマーク | Markit iBoxx米ドル建てリキッド 投資適格指数 |
投資対象 | 米ドル建ての投資適格社債 |
配当利回り | 2.4〜4%程度 |
格付け | BBB、次いでAが中心 |
平均残存年数 | 13.78年 |
デュレーション | 9.69年 |
経費率 | 0.14% |
分配月 | 毎月 |
純資産総額 | 約430億ドル |
設定日 | 2002/7/22 |
*参考サイト:ブラックロックHP
「LQD」を一言で表すなら、米国の優良大企業の社債をかき集めてパッケージにしたETFです。
社債というだけあって、国債は含まれていません。社債は国債より格付けが下がるので、その分リスク・リターンは高くなります。
ただ社債の中でも債券投資に適した格付けのものが集められているので、デフォルト(債務不履行)の可能性はほとんどありません。
そのような性質から、「LQD」はミドルリスク・ミドルリターンの選択肢になります。
経費率は0.14%とまずまずの低さです。本当に低いETFは0.03%ほどなので、それと比べれば高いですが、この水準であれば十分に選択肢に入ります。
「LQD」の発行体の業種
まずは、「LQD」を構成する社債がどのような業種の発行体から出ているかを見ていきましょう。
株式ETFの場合は、構成銘柄の業種によって、値動きの仕方や配当が大きく変わってきます。株式の場合は業種のチェックはとっても重要。
債券の場合は、発行時点で利子と償還金額は決まっているので、ちゃんとお金を返してくれさえすれば業種はあまり関係ありません。
発行体 | 比率 |
銀行業 | 23.78% |
非景気循環消費 | 18.10% |
通信 | 12.57% |
テクノロジー | 12.32% |
エネルギー | 8.39% |
景気循環消費 | 6.68% |
資本財 | 4.43% |
保険業 | 3.49% |
電機 | 2.78% |
素材 | 1.71% |
銘柄総数 | 2,431 |
株式の時価総額では、金融業の割合はそんなに多くないので、銀行という業種は社債による資金調達が多いということなのでしょう。
銘柄数は2,000超となっていて、かなりの量になっています。ただし債券の場合は、1発行体=1銘柄ではありません。1つの発行体が複数債券を発行していることはご留意のこと。
ちなみに上位の発行体は次の通りです。
順位 | 発行体 |
第1位 | JP MORGAN CHASE & CO |
第2位 | BANK OF AMERICA CORP |
第3位 | VERIZON COMMUNICATIONS INC |
第4位 | AT&T INC |
第5位 | GOLDMAN SACHS GROUP INC/THE |
第6位 | CITIGROUP INC |
第7位 | MORGAN STANLEY |
第8位 | WELLS FARGO & COMPANY |
第9位 | COMCAST CORPORATION |
第10位 | APPLE INC |
どれも超々大企業ばかりです。そもそも強い財務基盤がないと、投資適格の格付けにならないので、必然的に大企業の割合が多くなります。
全銘柄を隈なくチェックしたわけではありませんが、おそらく「LQD」の構成銘柄はほぼ全て米国の大企業が発行した社債と思われます。
「LQD」構成銘柄の格付け
格付けは、その債券の「信用力」の高さを表しています。要するに「お金を返済する能力」を測っているわけです。
格付けが高い債券ほどリスクが低いので、利回りは低くなります。加えて、格付けの高い債券ほど、不況時に債券価格が下落しづらくなります。
「LQD」の格付け構成は次の通りです。
格付け | 比率 |
AAA | 1.68% |
AA | 8.35% |
A | 38.85% |
BBB | 50.34% |
BB | 0.05% |
キャッシュ・デリバティブ | 0.72% |
基本的には「BBB」以上の投資適格債券で構成されています。「BB」が混ざっているのは、おそらく保有している途中で格付けが下がってしまったんだと思います。
そして「BBB」と「A」に集中していますね。米国債のような信用の高い債券は「AAA」になるので、それより低い格付けになっています。
債券ETFで人気の「AGG」「BND」は、「AAA」が7割を占めているので、それよりはだいぶ緩い格付け構成と言えるでしょう。
ここが「LQD」のミソになってきます。格付けが低い分、利回りは高くなりますが、投資適格のラインを割らないので、そこまで大きく値下がりする心配はありません。
格付けの違いがリスク・リターンに与える影響は、格付けの詳細記事で解説しています。格付け毎のデフォルト率も紹介しているので、参考にしてみてください。
「LQD」の残存期間
債券の残存期間は、見落としがちですがかなり重要な要素。
債券の値動きの激しさを示す「デュレーション」という尺度があるのですが、デュレーションは残存年数の長さでほとんど決まってしまうからです。
カンタンにいえば、残存期間が長い債券ほど値動きが激しくなります。そして、投資の世界では、値動きの激しさ(ボラティリティ)はリスクと同義です。
つまり、残存期間が長いほどリスクが大きいということになります。もちろんリスクが高ければ、利回りも高くなります。
「LQD」 の残存期間とデュレーションは次の通りです。
年数 | |
平均残存年数 | 13.78年 |
デュレーション | 9.69年 |
一般的に2年国債を短期国債、10年国債を長期国債と呼ぶので、13年超の残存期間はまずまず長いと言えるでしょう。
ここから、「LQD」は値動きが大きめの債券ETFだと推測できます。
より細かい話は、デュレーションの解説記事をチェックしてみてください。デュレーションは、債券銘柄を選ぶ上で、非常に重要な要素になります。ぜひ押さえておきましょう。
「LQD」の配当実績
年 | 配当(米ドル) | 期末株価(米ドル) | 配当利回り |
2020 | 3.672 | 138.13 | 2.66% |
2019 | 4.206 | 128.49 | 3.27% |
2018 | 4.138 | 112.82 | 3.67% |
2017 | 3.771 | 121.56 | 3.10% |
2016 | 3.912 | 117.18 | 3.34% |
2015 | 3.961 | 114.01 | 3.47% |
2014 | 4.049 | 119.41 | 3.39% |
2013 | 4.376 | 114.19 | 3.83% |
2012 | 4.638 | 120.99 | 3.83% |
2011 | 4.994 | 113.76 | 4.39% |
3%出れば御の字かなと思います。すごく高くはないですが、そこまでリスクを取っていないことを考えると、十分な配当水準ではないでしょうか。
だんだん配当が減少傾向にあるのは、この間で金利が下がっているためです。
チャートを比較
価格推移を見ていきましょう。「LQD」一本だけ見てもよくわからないので、AAA格メインの債券ETF「AGG」と並べてみました。
「LQD」と「AGG」は、ほとんど同じ値動きをしています。設定以来からはプラスで推移しているので、下値を切り下げて資産価値が減っていくような商品ではないとわかります。
一時的には価格が下落しても、きっとまた元に戻ってくれるんだろうという安心感がありますね。
ただし、ボラティリティ(値動きの激しさ)は「LQD」の大きくなっています。ここから、「LQD」がよりリスクの高い選択肢であることが伺えます。
次に株式(S&P500)の値動きと比べてみましょう。
株式と比べると、ほとんど真っ平らに見えますね。遠い目で見ると、「AGG」も「LQD」も大して変わらないように見えます。
株式のリターンが大きすぎて、チャートの動きがわからないので、もう少しクローズアップして見てみましょう。
株式市場の大暴落したときはどうか?
ほとんどの個人投資家は、株式をポートフォリオのメインに据えていると思います。債券は株式が暴落したときに、資産を守る役割を期待して持つのがほとんどでしょう。
となると、歴史的な暴落時にどんな値動きをしたのかは気になるところですね。リーマンショックとコロナショックの頃を切り抜いてみましょう。
まずはリーマンショックのとき。
S&P500は最大で-50%ほど下げていますが、「AGG」は-10%程度、「LQD」は-20%程度の下落となっています。
ただS&P500は元の水準に戻るまでに4年以上かかっていますが、「LQD」は1年程度で回復しています。立ち直りの早さは、目を見張るものがあります。
ただこれが米国債100%の債券であれば、逆に不況で価格が上がるので、1年間もマイナスになりません。社債の値動きは、国債よりも株式に近いようです。
続いてコロナショックのときですね。
傾向は同じで、株式の下落幅に対して、「AGG」は僅かな下落で止まっていますが、「LQD」はしっかり-20%程度落ち込んでいます。
ただし立ち直りは素早いという結果も同じです。
一般的に債券価格は株式と逆に動くと言われていますが、それは信用の高い国債などに当てはまる話です。
一口に債券といっても、社債は別。不況で資金繰りが悪化して、デフォルトの可能性が出てくるので、株式と同じく売りの対象になります。
実際には「BBB」以上の投資適格債券は、そうそうデフォルトは起こしませんが、市場参加者はこのような行動を取るので、結果として「LQD」の価格は株式と連動します。
ただそれでも「LQD」は投資適格の格付けなので、下落幅は限定的。立ち直りも早いという結果になっています。
S&P500との相関係数もチェックしてみよう
「LQD」の価格と株価(S&P500)の関係を、相関係数を使ってより厳密に検証していきましょう。相関係数とは、2つのデータがどれほど連動しているかを表しています。
目安は次の通り。
相関係数の目安
- 1:完全に一緒に動いている
- 0.7以上:かなり連動して動いている
- 0.5前後:やや連動している
- 0:全く連動していない
- -1:完全に逆に動いている
パッと見でもわかる通り、相関係数がプラスになっている期間の方が長いですね。全体の8割くらいはプラスの域にいます。
これは、「LQD」の価格と株価が一緒に動いているシーンが多いということです。「LQD」に投資する場合は、ここをよくよく理解しておく必要があります。
トータルリターンを比較
AGG | LQD | |
年平均成長率 | 4.02% | 5.43% |
標準偏差 | 3.66% | 7.16% |
最も伸びた年 | 8.45% | 17.37% |
最も落ち込んだ年 | -1.98% | -3.79% |
最大下落幅 | -4.31% | -15.11% |
シャープレシオ | 0.76 | 0.60 |
続いて、トータルリターンも「AGG」と比較していきましょう。トータルリターンは、配当利回り+値上がり益を加味した総リターンのことです。
「LQD」のリターンは年平均5.4%と、上々の結果となっています。
格付けの高い「AGG」と比べると、値動きは激しくなっているのがわかりますね。「値動きの激しさ=リスク」であり、リスクの指標となる標準偏差が約2倍です。
つまり「LQD」は「AGG」の2倍程度リスクのある商品ということになります。
株式と組み合わせたポートフォリオではどうか?
AGG+ S&P500 |
LQD+ S&P500 |
S&P500のみ | |
年平均成長率 | 7.52% | 8.15% | 10.25% |
標準偏差 | 7.27% | 8.91% | 14.24% |
最も伸びた年 | 19.84% | 24.29% | 32.31% |
最も落ち込んだ年 | -14.45% | -17.20% | -36.81% |
最大下落幅 | -24.76% | -29.33% | -50.80% |
シャープレシオ | 0.87 | 0.79 | 0.67 |
*S&P500はSPYを使用。債券と株式を組み合わせた場合の割合は50:50とする。
株式50%:AGG/LQD50%のポートフォリオとした場合のトータルリターンも見ていきましょう。比較対象として株式100%の場合も加えています。
リターンが高いのは、当たり前ですが株式100%の場合です。ただ下落幅も大きいので、リスクも相応に高くなっています。
3つの選択肢の中では、「LQD+S&P500」は中リスク・中リターンということになります。年8%の平均リターンは十分な成果でしょう。
シャープレシオにも注目!
そして、「シャープレシオ」にも注目しましょう。シャープレシオとは、ポートフォリオのパフォーマンスを図る指標です。
シャープレシオは、ざっくり言えば「リターン ÷ リスク」で計算されます。「1」を超えていれば、負っているリスクの割には、リターンが高いと評価できます。
「AGG+S&P500」のポートフォリオは「0.87」で、「LQD+S&P500」は「0.79」でした。
シャープレシオはポートフォリオの良し悪しを図る指標で、非常に重要です。まだ理解しきれていない人は、シャープレシオの解説記事もチェックしてみてください。
まとめ:ハマる人には良い選択肢
今回は社債ETFの雄である「LQD」を解説してみました。個人的には良い商品だと思いますが、今回はフラットな視点で語ったつもりです。
「LQD」は、絶妙な塩梅のリスクの取り方をしており、3%程度の手堅い利回りをゲットできます。債券投資で3%の利回りは十分合格点でしょう。
不況時には値下がりしますが、立ち直りが早く、ズルズルと値下がりし続けることはありません。これは格付けが投資適格のライン以上になっているからです。長期保有にも適しているでしょう。
ただ「LQD」という選択肢の是非を率直にいうと、ハマる人には最高の選択肢だけど、万人が使う銘柄ではないと思います。
「LQD」が向かない人の例①
例えば、サラリーマンが、老後の資産形成のための投資をしているとしましょう。こういう人は、一時的な資産価値の減少は痛手になりません。
長いスパンで見れば、株式のリターンは債券を凌駕するので、債券に投資する必要すらないでしょう。
「LQD」が向かない人の例②
逆に一時でも資産価値を減らしたくない人は、社債よりも格付けが高い債券を選ぶべきでしょう。私のようなセミリタイアした人間はこのパターンです。
「AGG」「BND」を使うのも良いですが、米国債100%の「TLT」なんかも誂え向きです。
「LQD」が向いている人は、資産価値はなるべく維持したいけど、1年やそこらの凹みなら許容できる人になってきます。
性格的に株式1本で、資産が半分に減るのは耐えられない人でしょうか。あとはリタイアが近いので、なるべくリタイア前に資産を減らすリスクを犯したくない人もそうでしょう。
こういう人であれば、「LQD」がちょうど良い選択肢だと思います。もう少し値動きを抑えたい場合は、同じ社債でも残存期間が短めの「IGIB」「VCIT」もアリです。
というわけで、債券投資をするなら、投資目的にあった銘柄を選びましょう!
債券投資の場合、株式と違って個別銘柄で大儲けするシナリオがないので、ETFで全て事足ります。代表的な債券ETFを紹介している記事も参考にしてみてくださいね。