新興国投資のETFは、「VWO」の一強です。個別の国ではなく、新興国全体にマルっと投資するなら「VWO」は最有力の候補になるでしょう。
新興国は今後高い経済成長が見込まれ、投資の期待値が非常に高いと考えられています。ただし先進国とは異なるリスクも孕んでおり、ハイリスク・ハイリターンな選択肢と言えるでしょう。
この記事では、
- 新興国株式ETF「VWO」ってどんな商品なの?
- 「VWO」のパフォーマンス(配当&株価)
- 「VWO」が孕むリスクとは?
を解説しています。
個人的には新興国投資は全然アリで、ポートフォリオの一部に充てるのは妥当な判断だと思います(実際に保有しています)。でも現状は、資産の20%以下で良いかなと。
これから投資を始める人や、ポートフォリオを検討している人は、新興国も気になっているはず。ぜひこの記事を読んで、あなたが新興国株に投資すべきかの参考にしてみてください。
新興国株式ETF「VWO」基本情報
まずは「VWO」の基本情報をざっと見ていきましょう。
運用会社はバンガード。世界で3本指に入る超大手です。純資産総額の規模もかなり大きく、かなり人気があるETFです。
運用会社 | バンガード |
商品名 | バンガード・FTSE・エマージング・マーケッツETF |
ティッカー | VWO |
ベンチマーク | FTSEエマージング・マーケッツ・オールキャップ(含む中国A株)インデックス |
投資対象 | 新興国市場の大型・中型・小型株(時価総額上位98%) |
配当利回り | 2〜3%程度 |
経費率 | 0.10% |
分配月 | 3月・6月・9月・12月 |
純資産総額 | 約1,100億ドル |
設定日 | 2005/3/4 |
*参考サイト:バンガードHP
中国A株を含む新興国市場の上位98%(つまりほとんど!)に投資できるETFです。
経費率は年0.1%で、米国や他の先進国に投資するETFと比べるとやや高めになっています。とはいえ十分に安く、良心的な経費率ですね。
「VWO」の構成国
「VWO」は、他のインデックスETFと同様に、時価総額加重平均を採用しています。時価総額が大きい銘柄や国の割合が、自動的に大きくなるように計算されます。
結果として、中国の比率が非常に大きく、次いで台湾が大きくなっています。中華圏だけで半分を占めています。
以降はインドなどの「BRICS*」諸国などが続きます。(*ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカのこと)
ちなみに、構成銘柄の上位10社は次の通り。
順位 | 銘柄 | 国 |
1位 | Taiwan Semiconductor Manufacturing Co. Ltd. | 台湾 |
2位 | Tencent Holdings Ltd. | 中国 |
3位 | Alibaba Group Holding Ltd. | 中国 |
4位 | Meituan | 中国 |
5位 | Reliance Industries Ltd. | インド |
6位 | Infosys Ltd. | インド |
7位 | China Construction Bank Corp. | 中国 |
8位 | Housing Development Finance Corp. Ltd. | インド |
9位 | Vale SA | ブラジル |
10位 | Wuxi Biologics Cayman Inc. | 中国 |
台湾セミコンダクターや、テンセント、アリババは、全世界で見てもかなり大きな時価総額を誇る企業です。米国の上位企業に匹敵するレベルです。
なお投資における新興国の定義一つではなく、ベンチマークに国が変わります。上記は「VWO」の場合で、他の新興国株式インデックスを選んだ場合は、微妙に異なるかもしれません。
詳細は、先進国と新興国の違いを解説した記事を参考にしてみてください(そこまで気にならない人は、スルーで大丈夫です)。
【A株って何?】中国市場についての補足
「VWO」は、中国A株を含む新興国市場全体に投資できるETFです。
さて、この「中国A株」とは何なのでしょうか?知らなくても影響はあまりありませんが、せっかく投資をするなら知っておいて損はありません。
一般に中国への投資は、次の5種類の方法があります。
本土内外 | 証券取引所 | 種別 | 通貨 |
本土内 | 上海証券取引所 | A株 | 人民元 |
B株 | 米ドル | ||
深圳証券取引所 | A株 | 人民元 | |
B株 | 香港ドル | ||
本土外 | 香港証券取引所 | – | 香港ドル |
昔は外国人からの中国本土内への投資は規制があり、香港証券取引所に上場している銘柄が主でした。規制緩和によって、現在は本土にも投資できるようになっています。
そんな中国本土内には、「上海」と「深圳」にそれぞれ市場があります。上海は伝統的な大企業、深圳はテック系の新興企業が多い特徴があります。
「上海」と「深圳」にはそれぞれA株とB株があります。両者の株式としての権利に違いはありません。違うのは通貨です。
A株は主に中国国内の投資家に向けたもので、人民元で取引されます。B株は外国人投資家向けにできた市場で、外貨建てです。規模はA株の方が大きく、B株で上場している中国企業は、大抵A株にも上場しています。
これ以上は蛇足になるので、サッとまとめましょう。「VWO」は、もともと外国人が購入できた香港株や本土のB株だけでなく、中国国内のマジョリティであるA株にも投資できる商品なのです。
新興国株式の投資妙味とリスクについて
新興国市場は、一般にハイリスク・ハイリターンな選択肢と考えられています。
その投資妙味とリスクについて考えてみましょう。
投資妙味①:高い経済成長
新興国は、先進国より伸び代が大きい国々です。日本の高度経済成長期のような爆発的な経済成長がこれからやってくる国なのです。
人口増加が止まり、人口減少に転じた先進国とは異なり、まだまだ人口が増える国も多いです。人口が増えれば内需も増えるので、やはり経済成長にはプラス要因です。
コンサル会社のPwCによれば、2050年の世界経済の覇権は次のようになっていると予測されています。
順位 | 国 | GDP予測(10億米ドル) |
1位 | 中国 | 58,499 |
2位 | インド | 44,128 |
3位 | 米国 | 34,102 |
4位 | インドネシア | 10,502 |
5位 | ブラジル | 7,540 |
6位 | ロシア | 7,131 |
7位 | メキシコ | 6,863 |
8位 | 日本 | 6,779 |
9位 | ドイツ | 6,138 |
10位 | 英国 | 5,369 |
出典:PwC Japan グループ(参考リンク)
これだけ全世界の勢力が新興国によって塗り替わるということは、その成長過程に投資すれば高いリターンが得られそうですよね。
投資妙味②:新興国株はPERが割安
株価の割安・割高を測る指標に、PER(株価収益率)があります。
PERとは、株価に対し1株あたりの利益(EPS:Earnings Per Share)が、何倍かを示しています。倍率が高いほど割高、低いほど割安と考えられます。
実際にはちょっと違いますが、PERが高い方が配当利回りが低く、PERが低い方が配当利回りが高いと思っていただければ良いかと。
2010年代以降は、新興国株は割安で推移しています。*「エマージング国=新興国」です。
条件が完全に同じであれば、PERは同じに収束するはず。この違いが出ているのは、投資家目線では、新興国株は先進国株より評価されていないということになります。
言い方を変えれば、新興国株は割安なまま放置されていることになりますね。
リスク:高いカントリーリスク
その国特有の事情で、金融市場に影響(主に悪い)を与えるリスクのことを、「カントリーリスク」と呼びます。新興国は全般的に社会システムが未成熟なため、総じてカントリーリスクが高くなっています。
特に怖いのが、先進国ではありえない采配を政府が下してしまうこと。投資先のビジネスを一撃で葬る采配もあり得るわけです。独裁者がいたり、政党が一党しかない場合は、政府の暴走を止める人がいません。
また新興国には社会主義国や共産主義国もあり、これらの国は必ずしも私有財産権が認められていません。政府が力づくで誰かの資産を没収したりできてしまうのです。
詳細は、新興国のカントリーリスクを解説した記事も参考にしてみてください。新興国投資をするならマストで知っておきたい内容です。
配当実績
年 | 配当(米ドル) | 期末株価(米ドル) | 配当利回り |
2020 | 0.955 | 50.11 | 1.91% |
2019 | 1.439 | 44.36 | 3.24% |
2018 | 1.097 | 38.1 | 2.88% |
2017 | 1.058 | 45.91 | 2.30% |
2016 | 0.9 | 35.78 | 2.52% |
2015 | 1.066 | 32.71 | 3.26% |
2014 | 1.143 | 40.02 | 2.86% |
2013 | 1.125 | 41.14 | 2.73% |
2012 | 0.975 | 44.53 | 2.19% |
2011 | 0.906 | 38.21 | 2.37% |
概ね2〜3%の配当となっています。配当の水準は「並」といった感じでしょうか。
米国株はPERの高さの裏返しで、配当はもっと低い水準になります。インデックス投資は、米国株式や、米国が過半を占める全世界株式が主流。そのため配当はもっと低くなります。
チャート
こちらは「VWO」の設定来のチャートです。代表的な米国の株価指数である「S&P500」と比較してみました。
リーマンショック以前の2000年代は、BRICS中心に新興国が大きく伸びた10年でした。しかしながら、2010年代以降は米国株が強く、10年超の間、新興国株は伸び悩んでいます。
もちろん新興国の経済が、この間に成長していなかったわけではありません。これは必ずしも新興国の高い経済成長と、その株価が連動していないことを意味しています。
なおこのような、一定の幅の価格帯を行ったり来たりする相場を「レンジ相場」や「ボックス相場」と呼びます。
グズグズの期間が長いほど、ブレイクしたときに大きな成長が期待できると言われているので、この辺りも気になるところ。
暴落時はどうだったか?
では暴落相場の「VWO」はどのようなチャートになっていたのでしょうか?
リーマンショック時はこんな感じでした。
新興国株といえど、米国が大きく躓いたときは暴落は免れないようです。概ね米国株と同じような下落幅となっています。
ただし、震源地であった米国株よりは、「VWO」の方が立ち直りは早かったようですね。
コロナショックは世界で同時多発的に起きた事件でした。チャートは次の通り。
下落の仕方は概ね同じ。
新興国株なので、米国株が下落する局面で違う値動きを期待してしまいますが、そうはならないようですね。
何が言いたいかというと、米国株と新興国株に分散投資をしても、リスクヘッジにはほとんどならないということです。
リスクヘッジのためには、債券やコモディティなど、異なる資産クラスを取り入れたアセットアロケーションが必要です。
トータルリターン
今度はトータルリターンを見ていきましょう。トータルリターンとは、値上がり益+配当再投資で、資産がどれだけ増えたか表します。
こちらもS&P500のパフォーマンスと比較します。S&P500に連動する「SPY」を比較対象にしています。
新興国株式(VWO) | S&P500(SPY) | |
年平均成長率 | 5.83% | 10.34% |
標準偏差 | 21.68% | 14.87% |
最も伸びた年 | 76.28% | 32.31% |
最も落ち込んだ年 | -52.49% | -36.81% |
最大下落率 | -61.73% | -50.80% |
シャープレシオ | 0.32 | 0.67 |
「VWO」の年平均リターンは6%弱と、すごく悪くはないけど、見栄えしないパフォーマンスですね。この間、株価は横ばいでしたが、配当再投資でここまで伸びた格好です。
米国S&P500が年平均10%リターンだったので、リターンの面ではかなり劣っています。
リスクを示す標準偏差は、「VWO」の方が高く、下落っぷりが激しい。これだけ見ると新興国株投資は、ハイリスク・ローリターンですね。
リスクリターンの効率性を見るシャープレシオも、米国株に完敗しています。「VWO」はリスクに見合うリターンをあげていません。
まとめ:新興国株式「VWO」への投資の是非は?
さて、「VWO」は大きなポテンシャルを秘めつつも、それに相応しいリターンは出せていません。過去だけ振り返るなら、米国株一択で、新興国株など必要ないと結論づいてしまうでしょう。
ですが個人的には、ポートフォリオのメインは米国株でゆるぎませんが、一定割合を新興国株に充てるのは妥当な判断だと思っています。
というのも、これから先の何十年もある生涯の中で、新興国の経済規模は確実に米国やその他の先進国を抜き去ります。これは既定路線です。
覇権国が入れ替われば、世界のルールも変わることでしょう。覇権国がインドや中国に変わったとき、新興国の株式はとてつもなく大きなリターンを出しているかもしれません。
というわけで、直近のパフォーマンスがどうであれ、長期の視座で新興国株を持っておくのは真っ当に思います。
この辺りの話は、米国株式 VS 全世界株式の比較記事で、詳しく解説しています。もし米国の覇権を信じ切れないなら、新興国も投資対象に含みましょう。
新興国株はポートフォリオのどの程度を割くか?
では新興国株に投資するとして、どの程度の割合を充てるのが妥当でしょうか?
現状、全世界の株式時価総額に占める新興国の割合は10%程度。現代ポートフォリオ理論では、あらゆる資産クラスを、全資産の時価総額に占める割合に合わせて持つのが、最も効率的と結論づけています。
というわけで、新興国株はポートフォリオの「10%程度」を割くのが一つの答えです(株式の中で10%という意味です。債券など他の資産クラスも組み入れる場合は、もっと比率が低くなります)
なお中には、米国株は良いとして、日本を含む米国以外の先進国市場には明るい見通しが持てない人もいると思います。その場合は、先進国株の割合を落として、新興国の比率をあげるのもアリでしょう。
個人的には、現状の市場の趨勢を見る限り、新興国株はせいぜいポートフォリオの2割程度かなと。もし全世界に占める新興国株の割合が増えれば、相応に増やしても良いと思いますが。
「VWO」を選ぶか、「全世界株式」で済ませるか
新興国株式に投資する方法は、「VWO」以外に、全世界株式で済ませる手もあります。代表的なETFは、同じくバンガードの「VT」。
完全にほったらかしたい人は、全世界株式を選びましょう。実際にはほとんどの人は、全世界株式で済ませているのではないでしょうか。
「VWO」をあえて選ぶ人は、新興国投資の割合を調整したい人です。シンプルに新興国株を増やしたい人もそうですし、世界情勢の変化に応じて投資戦略を柔軟に変更したい人もそうです。
例えば、新興国経済に深刻なダメージを及ぼす出来事が起きたとしましょう。新興国株はこの先どんどん値下がりが予想されますが、全世界株式は全部の国が混ざってしまっているので、新興国だけを切れません。
もし新興国株を分けて持っていれば、新興国株だけ売って損切りできます。このような調整をするためには、ごちゃ混ぜの全世界株式は邪魔になってしまうのです。
一つの方法として、
- VTI:全米株式インデックス
- VEA:米国以外の先進国株式インデックス
- VWO:新興国株式インデックス
の3つに分けて投資する案があります。個人的にはこのくらいの粒度が管理しやすくて好み。
詳細は、「VTI・VEA・VWO」の組み合わせのメリットを解説した記事をチェックしてみてください。
また「VWO」以外の代表的なETFは、定番米国ETFを紹介している記事をチェックしてみてください。多くの人は、この中のETFで済んでしまうと思います。