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【逆イールドは死兆星?】イールドカーブの全パターンを解説。短期金利と長期金利の違いも押さえよう!

イールドカーブは、残存期間が短い債券と長い債券の利回りを、曲線のグラフで表したものです。端的に言えば、短期金利と長期金利の差をわかりやすく図示したものですね。

イールドカーブが注目される理由は、曲線の傾き具合から、景気の先行きを予想できるからです。例えば傾きが通常とは逆になる「逆イールド」は、景気後退のシグナルになります。

サラリーマン
サラリーマン
知ってたら得する?
なお
なお
いつか得する日が来ると思います!

イールドカーブは債券に関する知識ではあるのですが、実際には債券市場の動きから、株式市場の行方を占う使い方をします。

債券に投資する人だけでなく、むしろ株式に投資する人ほど、イールドカーブが重要になってきます。知っておけば金融リテラシーが高まること間違いなし。

大局的な売り買いのタイミングを図るための一材料として、イールドカーブに注目してみてはいかがでしょうか?

なお「債券の基本的な用語」や「利率と利回りの違い」「債券価格と金利の関係」が、いまいちピンと来ない人は、債券の基礎を解説した記事をサッと目を通してもらうと理解が捗ると思います。

【今更聞けない】債券知識の基礎のキソ。利率と利回りの違いとは?金利と債券価格の関係は?債券は平たく言えば借金。そんなことは誰でも知ってますが、そのリスク・リターンにどういう特徴があるか、どういうメカニズムで価格が上下するの...
本記事の内容は、筆者個人の見解に基づいています。投資リターンを保証するものではありませんので、その点はご了承いただければ幸いです。また内容は執筆時点の情報に基づいています。最新の情報は各種公式サイト等をご確認ください。

イールドカーブとは?

イールドカーブ(Yield Curve)は、直訳すると「利回り曲線」。債券の利回りと償還までの残存期間の関係を線グラフにしたものです。

これはある1つの債券で、経年による利回りの変化を表しているのではありません。ある時点で複数の債券を残存期間が短い順に並べて、その利回りをプロットして繋げた曲線です。

ただし債券の信用(格付け)がバラバラだと、イールドカーブがガッタガタになるので、同程度の信用の債券を並べます。わかりやすく言えば、発行体が同じ債券であれば、信用は同じです。

なお
なお
例えば米国債を、残存期間が短い順に左から並べて、利回りをプロットしていったものをイメージするとわかりやすいかと

信用度が同じであれば、どんな債券でもイールドカーブを描けますが、一般的には国債のイールドカーブが指標として使われます。日本の個人投資家は、日本国債と米国債を見れば十分かと思います。

なぜこのイールドカーブが重要かというと、この曲線の傾き具合によって、景気の先行きを占うことができるからです。

「短期金利」と「長期金利」の違いを押さえよう

イールドカーブは端的に言えば、「短期金利」と「長期金利」の関係を曲線で表したものです。

債券の利回りは、単に「金利」と呼ばれることが多く、

  • 残存期間が短い債券の利回りを「短期金利」
  • 残存期間が長い債券の利回りを「長期金利」

となります。一般的には、2年国債の利回りが「短期金利」、10年国債の利回りが「長期金利」です。

短期金利と長期金利は、別の力学で動いています。イールドカーブを理解するためには、両者がどのようなロジックで動いているのかを押さえておく必要があります。

「長期金利−短期金利」の差分を、「長短金利差」「長短スプレッド」と呼びます。言い方が違うだけで、中身はイールドカーブと同じです。

短期金利の力学

短期金利は、中央銀行の政策金利の影響を強く受けます

政策金利とは、日本の場合は、金融機関が日本銀行にお金を預けたときの金利を指します。昔は公定歩合と呼ばれていました。米国では、フェデラル・ファンドレート(通称FF金利)と呼ばれています。

政策金利が上下すると、世の中の金利に相当するものは連動して同じ方向に動きます。銀行融資の金利なんかがそうですね(高利貸しのような、法律上の上限に常に張り付いている金利は別ですが)。

なお
なお
単に「金利」といった場合、政策金利を指している場合と、債券の利回りを指している場合があります。これは文脈から判断しましょう

仮に政策金利が上がれば、これから新規発行される国債の利率も上がります。そうなると、すでに発行済みの国債は、利率では見劣りするので売却されてしまいます。

当然ながら国債の価格は下がりますが、債券の利子は発行時点で固定されています。利子が固定で、債券価格が下がっているので、利回りは高くなります。

このようなロジックから、残存期間が短い債券の利回りである「短期金利」は、中央銀行の金融政策の動向に左右されます。「短期金利は、政策金利と同じ方向に動く」と覚えておきましょう。

長期金利の力学

一方の長期金利は、政策金利ではなく、債券市場の需給関係で決まります

例えば、中央銀行が景気を刺激するために、政策金利を下げたとしましょう。これに反応して好景気が訪れると、インフレ率の上昇が懸念されます。

長期国債を買う人にとって、インフレは恐ろしい存在。なぜなら、債券の利子と元本の金額は発行時点で決まっているので、インフレになると将来受け取るお金の価値が目減りしてしまうからです。

なお
なお
このリスクを「インフレリスク」と呼びます

インフレリスクを背負うことになる長期国債は、短期国債よりも高い利回りでなければ買い手がつきません。必然的に、新しく発行される長期国債は利率が高くなります。

そうなると、利率が低い頃に発行された長期国債は、利回りで見劣りしてしまいます。投資家が元々保有していた長期国債は売られるようになり、長期国債全体の価格が下落します。

債券価格と利回りは逆に動くので、長期国債の価格が下落すれば、利回りは上昇します。

少々長くなりましたが、長期国債の利回りである「長期金利」は、市場参加者による将来の景気見通しを反映した、市場の需給関係で決定します

景気が過熱し、インフレ率が高まると予想されれば、長期金利は上がります。反対に景気が停滞し、インフレ率が控えめになると予想されれば、長期金利は下がります。

なお
なお
長期金利は景気の先行きを反映するので、「経済の基礎体温」と呼ばれたりします
サラリーマン
サラリーマン
だから経済ニュースでは、長期金利の話題がよく出てくるんだね

通常は「順イールド」になる

イールドカーブは、右上がりの曲線になっているのが通常です。これを「順イールド」と呼びます。

意図するところは、残存期間が長い債券ほど利回り高くなる、ということです。

なお
なお
長短金利差がプラスの状態が順イールドです

理由は直感的に理解できると思います。

借金の返済が1週間後であれば、ドンピシャでとんでもないアクシデントがない限り、問題なく返ってくるでしょう。ですが10年後となれば、その間にどんな出来事があるか想像もつきません。

返済までの期間が長いほどリスクがあるので、投資家は残存期間が長い債券には高い利回りを要求します。

サラリーマン
サラリーマン
返済までの期間が長いほどリスクがあるから、リターンも高くなるのは自然なことだね!

債券は発行時点で、満期で償還される元本金額も、それまでに支払われる利子の額も決まっています。20年国債を買った人は、20年間で予想以上にインフレが加速したり、金利が上がったりすると、損失になってしまいます。

長期間資金が拘束されることや、将来のインフレリスクも背負うことで、投資家は長期国債にさらなるプレミアムを求めます。これも長期国債の利回りが高くなる要因です。

フラット化とスティープ化の循環

イールドカーブの傾きが、

  • 緩やかになることを「フラット化(またはフラットニング)」
  • 急になることを「スティープ化(またはスティープニング)」

と呼びます。

さらに細か分類すると、次のようになります。

カーブの変化 トリガー 名称
フラット化 短期金利の上昇 ベアフラット
長期金利の下落 ブルフラット
スティープ化 短期金利の下落 ブルスティープ
長期金利の上昇 ベアスティープ

ブル(雄牛)とベア(熊)は、投資の世界でよく使われる用語です。ブルが強気、ベアが弱気を表しています。

債券の場合は、金利の下落が「ブル(強気)」、金利の上昇が「ベア(弱気)」と表現されます。

サラリーマン
サラリーマン
なんで金利が下がると強気なの?意味がわからん
なお
なお
ここでは債券が買われる状況を強気、債券が売られる状況が弱気と捉えています

債券金利と債券価格は逆に動きます。

債券が買われると、もちろん債券価格は上がるわけですが、額面の利子は変わりません。「金利=利子÷債券価格」なので、分母の債券価格が上がると、金利は下がるのです。

  • ブルの流れ
    債券が買われる(つまり強気)→債券価格が上がる→金利が下がる
  • ベアの流れ
    債券が売られる(つまり弱気)→債券価格が下がる→金利が上がる

これらの4つパターンは景気と一緒に循環しています。そのため、今がどのパターンになっているかで、市況がどの方向に向かっているかの確認ができます

サラリーマン
サラリーマン
何となくはわかったけど小難しいなぁ。理解できる気がしないぞ
なお
なお
ここからは順を追って丁寧に説明していきますね

①成熟期に起こる「ベアフラット」

景気が過熱し続けるとインフレが加速してしまいます。十分に景気が良くなったと判断した中央銀行は、過熱した景気を抑えるために、政策金利を引き上げます。

市中の金利が上がるとお金を借りるコストが上がるので、企業は設備投資を、個人は大きな買い物を控えます。このように過熱した景気にびっくり水を入れるのが、中央銀行の役目なのです。

そして中央銀行が決定する政策金利に、強く影響を受けるのが短期金利でしたね。短期金利が上がることで、イールドカーブの傾きが緩やかになる現象が「ベアフラット」です。

株式市場では…

成熟期の株式市場は好調で、最高値を更新していることも多いでしょう。

しかしながらベアフラットが見られた後は、調整局面を迎えます。以降の株価は軟調になる可能性が高くなります。

②後退期に起こる「ブルフラット」

中央銀行の利上げにより経済全体が沈静化し、景気後退期に入ります。

投資家は景気の先行きに悲観的になり、株式が売却され、長期国債が買われる動きが出てきます。需要が増した長期国債の価格は上がり、長期金利は下がります。

こうしてイールドカーブの傾きが緩くなるのが、「ブルフラット」です。

株式市場では…

長期金利が上がると、株価は下がる構造にあります。ブルフラットが見られた後の株式市場は、一層低迷する可能性が高いでしょう。

ニュースでは、「長短金利差が縮小し、〜」と聞こえるようになり、株式市場の低迷が呟かれます。

③停滞期に起こる「ブルスティープ」

景気が後退すると、物やサービスに対する需要が減ってしまいます。連動して労働者の給料が下がり、さらに需要が減退していくと、デフレの様相を帯びてきます。

中央銀行は、インフレの過熱を抑制するのも大事な仕事ですが、デフレを食い止めることはさらに重要な仕事です。一度デフレに入ると負のスパイラルに入り、長期にわたって経済が停滞するからです。

いかに早く停滞期を脱出できるかが、中央銀行の腕の見せどころ。ここで中央銀行は、政策金利を引き下げて、企業や個人の需要を呼び起こそうとします。

結果として、政策金利の影響を強く受ける短期金利が下がり、イールドカーブの傾きがキツくなります。これが「ブルスティープ」です。

株式市場では…

ブルスティープになるまでの株式市場は低迷しています。

しかしながら利下げの後は、景気回復に入ります。ブルスティープが確認された後の株式市場は強気相場になるでしょう。

④拡大期に起こる「ベアスティープ」

中央銀行の金利引き下げを受けて、需要が戻ってきます。一度冷めた景気が回復して、再び熱を帯びてきます。

投資家は景気の先行きに楽観的になり、手持ちの長期国債を売却し、株式の購入に充てます。長期国債の価格が下がり、長期金利が上がります。

こうしてイールドカーブの傾きが、より一層急になるのが「ベアスティープ」です。

株式市場では…

ここからの株式市場は、しばらく好況が続くでしょう。株式投資を始めるのに、これ以上に良いタイミングはありません。

ニュースでは、「長短金利差が拡大し、〜」と聞こえるようになり、株式市場に活気が出てきます。逆に債券は「要らない子」扱いされるようになります。

長短金利差が逆転した「逆イールド」は不況の兆し

そうそう起こることではありませんが、イールドカーブが右下がりの曲線になることがあります。この現象は「逆イールド」と呼ばれます。

逆イールドは、通常は「短期金利<長期金利」のところ、「短期金利>長期金利」に逆転している状態です。

珍しい出来事であり、その後の景気を占う象徴的な出来事でもあるので、逆イールドが発生すると、経済ニュースで取り上げられます。「長短金利差がマイナス」とか「長短スプレッドが逆転」と表現されます。

サラリーマン
サラリーマン
皆既日食みたいな感じだね
なお
なお
確かにノリはそんな感じですね

逆イールドの発生は、リセッション(景気後退)のサインです。米国債のイールドカーブは過去50年間、各リセッションの前に逆イールドが発生しています。シグナルとして間違っていたのは一度だけでした。

どんなときに逆イールドが発生するのか?

逆イールドが発生するのは、市場が近い将来に強い景気後退を予測したときです。

近い将来の景気に、強い不安を感じた投資家は、株式から長期国債に比重を移します。需要が増えた長期国債の価格は上がります。

金利は価格と逆に動くので、長期金利は下がりますね。長期金利の下がりっぷりが非常に強くなったときが、逆イールドです。

カンタンに言えば、投資家が景気に対して、ものすごく先行き不安になっていると逆イールドが起こるという感じです。

相場は投資家の心理が具現化したものでもあります。不安に駆られた投資家が、ますます株式から資金を引き上げていくので、自己実現的にリセッションの様相を帯びる側面もあります。

サラリーマン
サラリーマン
短期の借金より、長期の借金の方がリスク&リターンが低いってこと?普通に考えるとあり得なくない?
なお
なお
短期金利と長期金利は、別の力学で動いているので、こういうことも起こります。短期国債と長期国債は、別の資産クラスと考えても良いかもしれません

ただし逆イールドの期間は長くは続かず、せいぜい1年くらい。その後は長期金利が上がり、元の順イールドに戻ります。

逆イールドの間は、弱気の株式を買うチャンス、強気の長期国債を売るチャンスと捉えられるかもしれません。

まとめ

今回は債券の世界における重要概念、「イールドカーブ」を解説しました。合わせて深く関わってくる、短期金利と長期金利の違いも解説しました。

イールドカーブとは?

  • 同じ程度の信用の債権について、残存期間と利回りの関係を曲線で表したもの
  • 一般的には国債のイールドカーブが経済指標となっている
  • 通常は右上がりの「順イールド」だが、強い景気後退が危惧されるときは右下がりの「逆イールド」になる

短期金利とは?

  • 残存期間が短い債券の利回り。一般的には2年国債の利回りを指す
  • 中央銀行が調整する政策金利の影響を受ける
  • 政策金利と同じ方向に動く

長期金利とは?

  • 残存期間が短い債券の利回り。一般的には10年国債の利回りを指す
  • 投資家の景気予測を反映した債券市場の需給関係によって決まる
  • 好況なら金利が上がり、不況なら金利が下がる

とはいえ、少々面倒くさい内容だったと思います。頭がこんがらがりそうですよね。

そんな人は、次の内容だけでも覚えていってもらえればと思います。

ここだけは押さえておこう!

  • 長期金利が上がったとき、投資家は景気の先行きが良いと考えている。株式市場は上昇が期待できる
  • 長期金利が下がったとき、投資家は景気の先行きが悪いと考えている。株式市場は低迷が危惧される
  • 長期金利と短期金利の差(いわゆる長短金利差)が縮まったときは、景気後退が危惧される。株式市場も低迷が危惧される

ここを知っているだけでも、経済ニュースで得られるものが段違いに増えるはず!

なおイールドカーブは債券の知識ではありますが、実際には株式相場の行方を占う指標です。同じように使える経済指標は他にもあり、ファンダメンタル分析の解説記事で紹介しています。

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