投資信託やETFで大人気な「全世界株式インデックス」。全世界株式インデックスを標榜している商品はたくさんありますが、実は中身は同じじゃないって知ってました?
同じ全世界株式でも目指しているベンチマークに違いがあり、大きく2つの流派に大別できます。追いかけているベンチマークが異なると、結構大きな違いが出てきます。
この記事では、日本でよく聞く「全世界株式インデックス」が、どちらの流派に属していて、どんな違いがあるのか解説します。
先に結論を言ってしまうと、両者の違いを知らなくても大勢に影響はありません。ただ数百万円単位でお金を注ぐのに、中身を知らずに買うのってあまり良いことではないですよね。
全世界株式に投資しようと思っている人、あるいはすでに投資している人は、ぜひチェックしてみてください。インデックス投資家なら知っておきたい内容になっています!
全世界株式には2種類の代表的なベンチマークがある
「全世界株式インデックス」と聞くと、それ以上に大きい括りが存在しないように感じますね。
と思ってしまうのは無理ないこと。
証券会社のサイトで「全世界株式インデックス」を標榜する商品をよく見てみましょう。
- MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス
- FTSEグローバル・オールキャップ・インデックス
のどちらかをベンチマークにしている、と書いてあるはずです。
投資(主に投資信託)の世界におけるベンチマークとは、運用の目安としている指数のこと。わかりやすいベンチマークは日本の「TOPIX」、米国の「S&P500」などですね。
TOPIXやS&P500は、日本と米国でそれぞれ国を代表する株価指数なので、イメージがつきやすいと思います。ですが、全世界を代表する指数ってピンとこないですよね。
実はそれが上記の長い名前の2つなのです。
人気の投資信託・ETFはどちらに属している?
それでは日本でもよく聞く銘柄が、どちらをベンチマークにしているのか見てきましょう。
ベンチマーク | MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス | FTSEグローバル・オールキャップ・インデックス |
ETF | MAXIS 全世界株式(オール・カントリー)上場投信 | バンガード・トータル・ワールド・ストック ETF (VT) |
投資信託 | eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー) | SBI・全世界株式インデックス・ファンド |
たわらノーロード 全世界株式 | 楽天・全世界株式インデックス・ファンド |
ETFの「VT」と、投資信託の「eMAXIS Slim 全世界株式」は特に人気がある商品。実は同じような商品に見えて、ベンチマークは異なります。
MSCIオールカントリーワールドインデックス(ACWI)とは?
まずは「eMAXIS Slim 全世界株式」がベンチマークにしている「MSCIオールカントリーワールドインデックス」とはなんぞやを見ていきましょう。
まず「MSCI」の部分は社名です。モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル(Morgan Stanley Capital International)の略称。同社は主に株価指数の算出をしている会社です。
見ての通りMSCI社は、元々はモルガン・スタンレーの資本が入っていました。2009年に売却されているので、現在はモルガン・スタンレーとは無関係となっています。
そして「オールカントリーワールドインデックス」の部分が指数の名前です。邦訳したら全世界株式指数となりますね。英語では”All Country World Index”と書くので、「ACWI」と略されます。
「MSCI社のACWIという株価指数」と覚えておきましょう。ACWIは同社を代表する株価指数となっています。
詳細はMSCIのHPを参照ください
FTSEグローバル・オールキャップ・インデックスとは?
もう一つは人気ETFの「バンガード トータル ワールド ストックETF(VT)」でも採用されている「FTSEグローバル・オールキャップ・インデックス」ですね。
こちらも頭の「FTSE」は社名です。正式には「FTSEインターナショナル」という、ロンドンを本拠地とする会社です。ちなみにFTSEは「フッツィー」と発音します。
「グローバル・オールキャップ・インデックス」の部分が指数の名前になっています。FTSE社の全世界株式指数に相当します。
詳細はFTSEのHPを参照ください。
【MSCIとFTSE】全世界株式の構成国を比較
まずは「MSCI社」と「FTSE社」の全世界株式がカバーしている国・地域を比べてみましょう。
国・地域 | MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス | FTSEグローバル・オールキャップ・インデックス | |
北アメリカ | アメリカ | ◯ | ◯ |
カナダ | ◯ | ◯ | |
南アメリカ | アルゼンチン | ◯ | – |
ブラジル | ◯ | ◯ | |
チリ | ◯ | ◯ | |
コロンビア | ◯ | ◯ | |
メキシコ | ◯ | ◯ | |
ペルー | ◯ | – | |
ヨーロッパ | オーストリア | ◯ | ◯ |
ベルギー | ◯ | ◯ | |
デンマーク | ◯ | ◯ | |
フィンランド | ◯ | ◯ | |
フランス | ◯ | ◯ | |
ドイツ | ◯ | ◯ | |
アイルランド | ◯ | ◯ | |
イタリア | ◯ | ◯ | |
オランダ | ◯ | ◯ | |
ノルウェー | ◯ | ◯ | |
ポルトガル | ◯ | ◯ | |
スペイン | ◯ | ◯ | |
スウェーデン | ◯ | ◯ | |
スイス | ◯ | ◯ | |
イギリス | ◯ | ◯ | |
チェコ | ◯ | ◯ | |
ギリシャ | ◯ | ◯ | |
ハンガリー | ◯ | ◯ | |
ポーランド | ◯ | ◯ | |
ロシア | ◯ | ◯ | |
トルコ | ◯ | ◯ | |
ルーマニア | – | ◯ | |
アジア・太平洋 | オーストラリア | ◯ | ◯ |
ニュージーランド | ◯ | ◯ | |
日本 | ◯ | ◯ | |
香港 | ◯ | ◯ | |
中国 | ◯ | ◯ | |
韓国 | ◯ | ◯ | |
台湾 | ◯ | ◯ | |
インド | ◯ | ◯ | |
パキスタン | ◯ | ◯ | |
東南アジア | シンガポール | ◯ | ◯ |
インドネシア | ◯ | ◯ | |
マレーシア | ◯ | ◯ | |
フィリピン | ◯ | ◯ | |
タイ | ◯ | ◯ | |
中東 | イスラエル | ◯ | ◯ |
クウェート | ◯ | ◯ | |
カタール | ◯ | ◯ | |
サウジアラビア | ◯ | ◯ | |
アラブ首長国連邦 | ◯ | ◯ | |
アフリカ | エジプト | ◯ | ◯ |
南アフリカ | ◯ | ◯ | |
合計 | 50ヵ国・地域 | 49ヵ国・地域 |
概ね同じではありますが、微妙にフォローしている国が違いますね。ただしこの差は、ほとんど無視できるレベルです(対象の国に関わりがある人にはスミマセン)。
国別の構成比率
どちらのベンチマークも、時価総額加重平均型のインデックスです。時価総額の高い国・銘柄ほど構成比率が大きく、アメリカだけで半分以上を占めています。
アメリカの影響が非常に強いので、アメリカの調子が良ければパフォーマンスは上がりますし、逆にアメリカがコケれば全世界株式もコケます。
全世界株式だからといって、全世界に分散しているかと言うと、そうでもないことがわかりますね。ただしアメリカ抜きに安定した高いリターンは期待できないのも事実です。
時価総額加重平均型の計算方法は、「世界の主流「時価総額加重平均型株価指数」とは?「株価平均型株価指数」とはどう違うの?」で詳しく解説しています。興味があればどうぞ。
全世界株式は、実は全世界はフォローしていない!?
鋭い人はお気づきと思いますが、全世界と言いつつ足りない国が結構あるんです。アフリカなんかはほとんど含まれてないですよね。
投資の世界では、アフリカ諸国などは「フロンティア国」と分類されています。「新興国」のさらに下に位置するグループです。
実は全世界株式は、「先進国」+「新興国」の株式が対象なので、「フロンティア国」は含んでいません。文字通りの意味での全世界にはなっていないことは知っておいた方が良いでしょう。
まず「フロンティア国」全体が、世界の時価総額に占める割合は1%にも届きません。株式の世界では、フロンティア国全部を足しても、Apple1社に及ばないのです。
さらに今後「フロンティア国」に含まれるどこかの国が、目覚ましい発展を遂げることになれば、「新興国」に格上げされます。新興国に格上げされれば、「全世界株式」の対象に含まれます。
そんなわけで、「全世界株式」は世界地図的な意味ではフォローしていない国が多数ありますが、株式の時価総額の面での取りこぼしは、無視できるレベルと言えるでしょう。
フロンティア国の詳細は、「【新興国のさらに先】フロンティア国への投資はあり?ETFをチェックしてみよう」で解説しています。
本記事では触れていませんが、先進国と新興国の違いについては、「【素朴な疑問】投資における先進国と新興国の違いって何?」で触れています。
「先進国株式」や「新興国株式」に投資するなら、是非知っておきたい内容となっています。
【MSCIとFTSE】全世界株式の構成銘柄を比較
続いて「MSCI社」と「FTSE社」の全世界株式がカバーしている銘柄の違いを確認しましょう。
「FTSE」の方は、「MSCI」にはない小型株まで含んでいるのが大きな違いです。
ベンチマーク | MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス | FTSEグローバル・オールキャップ・インデックス |
対象株式 | 大型株・中型株 | 大型株・中型株・小型株 |
対象銘柄数 | 約3,000銘柄 | 約8,000銘柄 |
対象国の時価総額に対するカバー率 | 約85% | 約98% |
指数の算出方法 | 時価総額加重平均型 | 時価総額加重平均型 |
小型株まで含んでいる「FTSE」は、全世界約8,000銘柄で98%をカバーしています。対象国の銘柄ほぼ全てを網羅していると言っても過言ではないでしょう。
一方で大型株と中型株までの「MSCI」は、約3,000銘柄で85%。全て網羅しているとは言いづらい感があります。
少々突っ込んだ話になりますが、大型とか小型とか、サイズの定義が気になる人は、「大型株・中型株・小型株の違いとは?日本株と外国株の定義の違いも解説」もチェックしてみてください。
MSCIとFTSEの構成銘柄TOP10
それぞれで、具体的にどんな銘柄が上位に来ているのか見てみましょう。
順位 | MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス | FTSEグローバル・オールキャップ・インデックス |
1位 | Apple Inc. (3.18%) |
Apple Inc. (2.86%) |
2位 | Microsoft Corp (2.72%) |
Microsoft Corp (2.71%) |
3位 | Amazon.Com (2.1%) |
Amazon.Com (1.98%) |
4位 | Facebook Class A (1.2%) |
Facebook Class A (1.11%) |
5位 | Alphabet Class C (1.08%) |
Alphabet Class A (0.98%) |
6位 | Alphabet Class A (1.08%) |
Alphabet Class C (0.94%) |
7位 | Taiwan Semiconductor Manufacturing (0.81%) |
Tesla (0.7%) |
8位 | JPMorgan Chase & Co (0.76%) |
Taiwan Semiconductor Manufacturing (0.68%) |
9位 | Tesla (0.73%) |
Nvidia (0.64%) |
10位 | TENCENT HOLDINGS LI (0.7%) |
JPMorgan Chase & Co (0.62%) |
*上位銘柄の顔ぶれや構成比率は、市況によって変化します
構成銘柄は似通っていますが、構成比を見ると、「FTSE」の方が上位陣が全体に占める割合が低くなっています。つまり分散が効いているということですね。
これは「FTSE」が、「MSCI」にはない小型株まで含んでいるためです。より分散を求めるなら「FTSE」の方が優れていると言えそうです。
【MSCIとFTSE】全世界株式のリターンを比較
一番気になるリターンも見てみましょう。
年 | MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス | FTSEグローバル・オールキャップ・インデックス |
2011年 | -7.35% | -7.6% |
2012年 | 16.13% | 17.2% |
2013年 | 22.80% | 23.9% |
2014年 | 4.16% | 4.5% |
2015年 | -2.36% | -1.7% |
2016年 | 7.86% | 9.0% |
2017年 | 23.97% | 24.4% |
2018年 | -9.41% | -9.6% |
2019年 | 26.60% | 27.1% |
2020年 | 16.25% | 16.8% |
かなり近似しているように見えますが、「FTSE」の方がボラティリティ(値動きの激しさ)が少しだけ高いようです。
この辺りが、小型株が加わったことによる違いなのでしょう。とは言えどちらを選んでもリターンに大きな違いはなさそうです。
まとめ
今回は、全世界株式の二大ベンチマークである、
- MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス
- FTSEグローバル・オールキャップ・インデックス
の違いを紹介しました。
1番の違いは、「FTSEグローバル・オールキャップ・インデックス」の方は、小型株まで含んでおり、より分散の効いた構成になっています。
ただ総論としては「どちらを選んでも、そんなに変わらない」と言って良さそうです。
知っていたからといって、どうということはないかもしれませんが、知らなかった人には有意義な内容だったのではないでしょうか?
ぜひ全世界株式の運用を検討している人は、参考にしてみてください!