高配当ETFの期待利回りは年3〜5%ですが、中には10%を超えるような配当お化け銘柄も存在します。その一つが「QYLD」。
QYLDが特徴的なのは、「カバードコール戦略」を行うETFということです。カバードコール戦略を一言で言えば、「自分が持っている資産を、決まった価格で買える『権利』を売ること」。
普通の高配当ETFは、投資先銘柄の配当が、そのまま我々が受け取る配当の源泉になるわけですが、「QYLD」の場合はカバードコール戦略で受け取る手数料から配当を出していることになります。
本記事では、「QYLD」の
- 特徴であるカバードコール戦略とは何か?
- トータルリターンは?
- 超高配当に対するリスクはどこにあるか?
を解説していきます。
インカム狙いの投資をしている人は、ぜひ一度チェックしてみてください。そして飛びつく前に一度中身を吟味してみましょう。
超高配当ETF「QYLD」の基本情報
まずは「QYLD」の基本スペックを見ていきましょう。運用会社は「グローバルX」です。
運用会社 | グローバルX |
商品名 | グローバルX NASDAQ100・カバード・コール ETF |
ティッカー | QYLD |
ベンチマーク | CBOE NASDAQ-100・バイライト・V2・インデックス |
投資対象 | NASDAQの上位100銘柄 |
配当利回り | 8〜12%程度 |
経費率 | 0.6% |
分配月 | 毎月 |
純資産総額 | 約40億ドル |
設定日 | 2013/12/11 |
*参考サイト:グローバルXHP
純資産総額はそこそこ高く、日本国内のトップ投資信託と同じくらいの規模感。世界レベルではこれより遥かに大きいファンドもたくさんありますが、一定の人気はある銘柄のようです。
特徴はなんといってもカバードコール戦略を行うETFであること、加えて配当が2桁という破格の利回りです。
経費率は高めの0.6%。100万円投資したら年6,000円徴収されます。メインどころの高配当ETF【SPYD・HDV・VYM】の約10倍に相当。グローバルX社の規模が大きくなれば下がる余地もあるかも?
運用会社のグローバルXとは?
さて、この運用会社であるグローバルX社は、あまり馴染みがないかもしれません。同社は2008年にニューヨークで設立された比較的新しいETF運用会社です。
2018年に韓国のMirae Asset Global Investments(親会社は未来アセット金融グループ)に買収されています。未来アセットは韓国ではかなり大きな金融系グループです。
かなりエッジの効いた商品を取り扱っており、一風変わった高配当な銘柄も多数取り揃えています。「QYLD」もその一つですね。
Global X Japan(株)という日本法人もあり、大和系列との合弁会社となっています。日本法人の公式サイトはこちらになります。
NASDAQ100に連動
QYLDは「CBOE NASDAQ-100・バイライト・V2・インデックス」に連動するETFです。簡単にいえばNASDAQの時価総額が大きい順並べた100社が投資対象になります。
同じようにNASDAQの上位100社に投資するETFは「QQQ」が有名。配当はほとんどなく、もっぱらキャピタルゲイン(株価の値上がり益)を狙う商品です。シンプルにNASDAQ銘柄に投資する「QQQ」が本家です。
NASDAQはハイテク企業が集まる証券取引所で、GAFAMやTeslaやNVIDIAなどのイケイケ銘柄がこぞって上位に鎮座しています。この手の成長著しい企業は、配当よりも事業投資を優先するため、本来は低配当です。
投資対象は同じでも、QYLDはカバードコール戦略を使い、インカムゲイン(配当)を狙う商品に様変わりしています。この辺りのカラクリをよく理解しておく必要があるでしょう。
カバードコール戦略とは?
さてここで「カバードコール戦略とは何か?」についてざっくり説明します。商品の仕組みを理解することは、QYLDのリスクを判断するために非常に重要です。
順を追っていくで、まずはカバードコール戦略の上位概念にあたる「オプション取引」から見ていきましょう。
①オプション取引とは?
まず株式には、実際に保有している株を売買する「現物取引」があります。ここはイメージつくと思うので、問題ないでしょう。
それとは別に、株を買ったり売ったりする権利を売買する「オプション取引」があります。より正確にいうと、「決まった期日に、決まった価格で、その株を売買する権利」ですね。
そんなオプション取引には、
決まった価格で買う権利 = コールオプション
決まった価格で売る権利 = プットオプション
の2種類があります。まずはここまでを押さえておきましょう。
②コールオプションとは?
「QYLD」が関連するのはコールオプションの方です。QYLDは「コールオプション」を売るETFです。
言い換えると、「保有しているNASDAQ銘柄を、決まった日に、決まった価格で買う権利」を他の投資家に売っていることになります。
コールオプションを売ると、「プレミアム」と呼ばれるオプション料(手数料みたいなもの)をゲットできます。
具体的なケースがあったほうがイメージしやすいですね。
コールオプションの具体例(株価が値上がりした場合)
あなたは、現在株価1,000円のApple株を持っています。
このApple株を「1300円で買えるコールオプション(権利)」を「オプション料50円」で売りしました。
1ヶ月後にApple株が2,000円になっていたら、コールオプションを買った人はその権利を行使して、
あなたは「行使価格1,300円+オプション料50円=1,350円」をゲットして350円の儲け
コールオプションを買った人は、「売却益2,000円−(1,300円+50円)」で650円の儲け
になります。
コールオプションを買う人は、50円の参加料だけでこの取引に参加できます。手元資金がなくても利益が出せることが、オプション取引に参加するインセンティブになっています。
コールオプションの具体例(株価が値下がりした場合)
もし1ヶ月後のApple株が800円に値下がっていた場合はどうなるでしょうか。
権利を行使したらコールオプションを買った人が損してしまうので、このコールオプションは行使されません。
ただしコールオプション(Apple株を買う権利)は行使されなくても、オプション料はもらえます。
結果として、
あなたは「含み損−200円+オプション料50円」で−150円の損失で済みます。
コールオプションを買った人はオプション料の−50円の損失で済みます。
ここまでをざっくりまとめると、ざっと次のような感じです。
メリット | デメリット | |
コールオプションを売る側 | 株価が下がったら、損失を軽減できる | 株価が上がったら、行使価格を超えた値上がり分は放棄しなければならない |
コールオプションを買う側 | 株価が上がったら、手元の資金が少なくても大きな利益が狙える
株価が下がっても、損失はオプション料だけで済む |
プレミアムを支払っているので、値上がり幅が小さすぎると、儲けを出せない |
コールオプションの具体例(ネイキッドコール)
オプション取引は、現物(実際に株)を持っていなくても取引可能です。この場合これまでの例とはかなり景色が変わってきます。
現在1,000円のApple株を「1300円で買えるコールオプション(権利)」を「オプション料50円」で売りました。
1ヶ月後にApple株が2,000円になっていたら、コールオプションを買った人はその権利を行使して、
あなたは「買付金額−2,000+(1,300円+50円)」で−650円の損失
コールオプションを買った人は、「売却益2,000円−(1,300円+50円)」で650円の儲け
になります。
このような株式の現物を持たずにするオプション取引を「ネイキッドコール」と呼びます。ネイキッドコールは、予想以上に株価が値上がりしてしまった場合に、損失を被るリスクがあります。
③カバードコール戦略とは?
やっとカバードコール戦略の話になりました。
カバードコール戦略とは、現物の株式を持った状態で、コールオプションを売る戦略です。「ネイキッドコール」は使わないので、大きな損失を出すリスクは取りません。
すでに見てもらったように、現物株式でコールオプションを売る分には、普通に株式を運用しているよりも損失を軽減できます。ただし、一定以上の値上がり益は放棄しなければなりません。
そのためカバードコール戦略は、普通に株を持っているだけよりも低リスク低リターンになります。カバードコール戦略は決して怪しいものではなく、それ自体に大したリスクはありません。
セクター比率
セクター比率は、次の通りでNASDAQ100のまんまです。
情報技術セクターに寄っているので、歪と言えば歪ですが、ここは本家の「QQQ」と変わりません。
セクター比率の見方は、「米国株の全11セクターとは?セクターローテーションを意識したポートフォリオを持とう!」で解説しています。
構成銘柄TOP10
順位 | 銘柄 |
1位 | Apple Inc. |
2位 | Microsoft Corp |
3位 | Amazon.com Inc |
4位 | Alphabet Inc C |
5位 | Facebook Inc A |
6位 | Tesla, Inc |
7位 | Nvidia Corp |
8位 | Alphabet Inc A |
9位 | Paypal Holdings Inc |
10位 | Adobe Inc |
構成銘柄の上位は、やはりNASDAQ100のまんまです。
ここも本家「QQQ」と概ね同じです。
配当実績
年 | 年間配当(米ドル) | 12月末株価(米ドル) | 配当利回り |
2016 | 2.04 | 22.35 | 9.15% |
2017 | 1.89 | 24.53 | 7.69% |
2018 | 2.65 | 21.31 | 12.44% |
2019 | 2.32 | 23.61 | 9.84% |
2020 | 2.54 | 22.8 | 11.16% |
「QYLD」の配当実績を見ていきましょう。
配当は年によって結構バラツキがありますが、安定して高配当です。
チャート
チャートを見ると、上下しつつもダウントレンドになっていることが分かります。設定来からはマイナスになっていますね。
本家「QQQ」と比較してみると、対照的な結果です。
設定されてからまだ日が浅いので、判断はしづらいのですが、この間のNASDAQ100が爆上がりしていたことを鑑みると不安材料です。
トータルリターン
トータルリターンも「QQQ」と比較してみましょう。トータルリターンは、株価の値上がりと配当の両方を加味した、総合リターンのことです。
「QQQ」が絶好調すぎるからというのもありますが、リターンでは大きく負けてしまっています。
ただ年平均8.6%の成長は、十分に優れたパフォーマンス。トータルリターンは、今のところは上々なようです。
「QYLD」のメリット/デメリット
ざっと「QYLD」がどんなETFかわかったところで、この商品のメリットとデメリットを考えてみましょう。
「QYLD」のメリット
メリットはズバリ、法外に高い配当です。3〜5%程度が相場で、5%でも十分高配当な部類です。QYLDの配当利回り10%は破格と言えるでしょう。
トータルリターンでは「QQQ」に劣っているので、現金が必要な人以外にはメリットはありません。現金が必要な理由は人によって異なりますが、FIRE(早期リタイア)に現金はありがたい存在です。
FIREでリタイア直後に、株式暴落の憂き目にあってしまった場合は、相場が元に戻るまでは資産を取り崩さずに、現金でやり過ごす必要が出てきます。この間を耐え抜く手段として、高配当株は有効な手立てです。
FIREと高配当銘柄の相性については、「【ちょっと待った!】FIREに高配当株は最適なのか?リターンを最大化する高配当株との付き合い方」で詳しく解説しています。
「QYLD」のデメリット
デメリットはいくつかあるので、それぞれ解説していきます。
仕組みの理解が難しい
仕組みが複雑になればなるほど、その商品のリスクに市場が気づきづらくなり、何かの拍子に突然暴落する危険性を孕んでしまいます。
カバードコール戦略それ自体は、それほどリスクのあるものではありません。ただ、自分でオプション取引をしていないので、裏でどうなっているかが見えづらいのではないでしょうか。
分かりやすい銘柄(「S&P500」や「全世界株式」など)で、あなたがその銘柄の未来を信じているなら、暴落しても耐えられます。しかしよく分からない商品であれば、狼狽売りに走りやすくなってしまうのです。
少なくとも、ポートフォリオのメインを預けられる商品ではないでしょう。
経費率が高い
経費率0.6%はシンプルに高いです。配当が高いので見過ごされそうですが、株価自体がダウントレンドなので、決して安くない経費率だと思います。
代表的な高配当ETFである【SPYD・HDV・VYM】は、株価の上昇も期待ができて、経費率は10分の1です。
株価の値上がりは期待できず、QQQのリターンに負ける可能性が高い
QYLDはカバードコール戦略をとっている以上、一定以上のキャピタルゲイン(株価値上がり益)は放棄しなければなりません。
投資対象のNASDAQ100は、比較的値動きが激しく、急上昇することも予想されます。そうなったときは、本家「QQQ」の方がリターンが良くなります。
実際にトータルリターンでは「QQQ」の圧勝なので、同じNASDAQ100を投資対象とするなら「QQQ」の方が優れた選択肢と言えそうです。
「QYLD」の懸念材料
デメリットの続きにもなりますが、「QYLD」はその構造上、NASDAQ100にただ投資する場合とは別の懸念材料があります。
この辺りもよくよく理解しておきたいところです。
懸念①:NASDAQ100が今後も魅力的な投資対象であるか?
カバードコール戦略が有効に働くのは、持っている株式が、今後も順調に伸びていく場合です。もし落ち目の株であれば、コールオプションを買う人がいなくなってしまいます。
もう少し具体的に言えば、この先もNASDAQ100銘柄が成長し続けられるかどうかが、「QYLD」の死活問題になってきます。
2010年代にNASDAQ銘柄が猛威を奮っていたので、今後は伸び悩むという見方もあります。一方で、ITは今後も世界の産業をリードし続けるという見方もあります。
ハイテク企業の未来を信じられるかどうかにかかっているわけですが、個人的にはITの分野はもっと伸びると思っているので、この懸念はあまり感じていません。
懸念②:配当の原資は運用益から出ているのか?
次に気になるのは、「QYLD」の高配当はどこから来ているかということです。
NASDAQ100銘柄は新興企業が多く、儲けた分は事業に再投資する傾向があるので、配当はほとんどないはず。実際にNASDAQ100の本家「QQQ」の配当利回りは1%未満です。
となると、残る原資は「株価の値上がり益」と「カバードコールのオプション益」。この2つの原資で10%の利回りを実現できているなら、今後も継続的な利回りが期待できます。
もしも、万が一、投資元本を取り崩して配当を出しているとなれば、いずれ立ち行かなくなるでしょう。ここに一抹の懸念を感じます。
QYLDの運用報告書を見てみると、、、、
公式サイトからQYLDの運用報告書を閲覧できるので見てみました。
見方が正しいか自信がないのですが、分配金の構成要素のうち、
- 「正味投資利益による分配」
- 「キャピタル・ゲインによる分配」
だけでは足りない分を、
- 「資本の払い戻し」
で補填しているように見えました。
正確にわかる人がいれば教えて欲しいところですが、これは投資元本を取り崩しているということになるのではないでしょうか…?
万が一そうであれば、投資信託で悪名高い「特別分配金」と同じタコ足分配です。しばらくは配当が出続けるかもしれませんが、そのうち大幅減配になったり、突然株価が大幅に下落したりといったリスクが…。
ちなみにタコ足分配のタチの悪さは、「【毎月分配の闇】特別分配金とは?タコ足分配の投資信託を見分けて回避しよう!」で詳しく解説しています。
まとめ:正直ちょっと怖い
今回は超高配当ETFの「QYLD」を紹介しました。カバードコールを行うETFという、ちょっとクセのある商品ですが、同戦略自体にはさほどリスクはありません。
気になるのは、投資対象のNASDAQ100が上昇している間も、株価が下がっている傾向にあることです。加えて、配当の原資に、投資元本の取り崩しを充てている可能性があるのが、非常に気がかりです。
最初にこの銘柄を見たときは、アリかなと思っていたのですが、適正なリスクとは判断しきれなかったので、投資は見送ることにしました。
「QYLD」への投資を考えている人は、ぜひ参考にしてみてください。少なくとも、高配当に目が眩んで、よく理解していないのに飛びつくのはやめておきましょう。
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