高配当系ETFの中の一ジャンルに「新興国債券」があります。代表的なETFは「EMB」と「VWOB」。どちらも4〜5%程度の配当を狙えます。
この記事では、
- 新興国債券ってどんな債券なの?
- 「EMB」と「VWOB」のパフォーマンス(配当&株価)
- 「EMB」と「VWOB」のメリット・デメリット
を解説しています。
インカム狙いの投資をしている人は、一つの選択として知っておいても良いでしょう。ぜひ参考にしてみてください。
新興国債券ETF「EMB」「VWOB」基本情報
まずは「EMB」と「VWOB」の基本情報をざっと見ていきましょう。
投資先は新興国でも、運用しているのは米国の優良運用会社なので、ここは安心材料です。
運用会社 | ブラックロック | バンガード |
商品名 | iシェアーズ J.P.モルガン・米ドル建てエマージング・マーケット債券 ETF | バンガード・米ドル建て新興国政府債券ETF |
ティッカー | EMB | VWOB |
ベンチマーク | J.P. モルガン・エマージング・マーケッツ・ボンド・インデックス・グローバル・コア・インデックス | バークレイズ米ドル建て新興市場政府債RIC基準インデックス |
投資対象 | 新興国の米ドル建て債券 | 新興国の米ドル建て債券 |
格付け | AA〜Bと幅広い | AA〜Bと幅広い |
平均残存年数 | 13.55年 | 13.6年 |
デュレーション | 8.52年 | 8.5年 |
配当利回り | 4〜5%程度 | 4〜5%程度 |
経費率 | 0.39% | 0.25% |
分配月 | 毎月 | 毎月 |
純資産総額 | 約200億ドル | 約33億ドル |
設定日 | 2007/12/17 | 2013/5/31 |
*EMB参考サイト:ブラックロックHP
*VWOB参考サイト:バンガードHP
どちらも新興国の国債を中心としたETFです。基本的には民間会社の社債ではなく、公的機関が発行した債券が対象です。
どちらも4〜5%程度の利回りが期待できる高配当銘柄で、毎月分配となっています。債券ETFは毎月分配が多いですね。
このジャンルの雄は「EMB」で、純資産総額は債券ETFの中で上位の人気銘柄となっています。後を追う形で誕生したのが、「VWOB」となっています。
経費率は、「VWOB」の方が抑えられています。ETFの経費率は最安で0.03%なので決して安くないですが、ややマニアックな新興国債券というジャンルを鑑みるとお手頃なのかもしれません。
特徴①:新興国の国債に投資する
「EMB」も「VWOB」も、債券ETFとしては高い配当利回りを期待できます。これはもちろんリスクがそれなりに高いからです。
本来国債はデフォルトの可能性が非常に低いので、利回りも小さくなります。米国や日本の国債であれば、そこまで高い利回りはまず期待できません。
しかしながらそこは新興国。国債と言えど踏み倒される可能性があります。これには新興国のカントリーリスク(政治や社会、軍事の混乱により、証券価格に影響が出るリスク)が絡んできます。
ただし広く分散投資できるETFなので、どこか一国の影響で壊滅的なダメージを負うことはないでしょう。加えてリスクが高まった債券は買い手がつかずに、売りたくても売れない事態が起こり得ますが、ETFならその心配もありません。
ただし不況や何らか国際的なニュースの影響で、債券にしては大きく値を下げるリスクはあります。ここはよくよく理解しておきたいところです。
新興国投資のリスクについては、「新興国株は不要なのか?新興国株投資が思ったより伸びづらい4つの理由」で詳しく解説しています。主に新興国株式の話ですが、債券にも共通する部分があります。
特徴②:米ドル建て債券である
「EMB」も「VWOB」も、投資対象は「米ドル建ての新興国債券」となっています。ここは大きなポイントになってきます。
どういうことかと言うと、新興国が債券を発行する際は、
- 自国の通貨建てで発行する
- 米ドル建てで発行する
- それ以外の通貨(円とかユーロとか)建てで発行する
の選択肢があります。
両ETFは米ドル建て債券を対象にしているので、新興国側は利子も元本も米ドルで支払わなければなりません。自国通貨が安くなっても、決まった金額を米ドル支払わなければならないため、為替リスクは新興国側が負っている格好です。
もし新興国の通貨建て債券だった場合は、為替リスクは投資家が負うことになります。新興国の現地通貨が安くなったときに、利子や元本を現地通貨で受け取ると、ドルや円に換金したときにかなり損してしまうからです。
新興国各国の通貨事情に明るい人なら、どっちでも良いのかもしれません。わたし含め新興国の通貨にそこまで信頼を置けない人は、基軸通貨の米ドル建ての方が安心できると思います。
国別構成比
順位 | EMB | VWOB |
1位 | カタール (3.94%) |
メキシコ (9.9%) |
2位 | サウジアラビア (3.92%) |
サウジアラビア (8.7%) |
3位 | トルコ (3.70%) |
インドネシア (6.8%) |
4位 | ロシア (3.54%) |
トルコ (5.8%) |
5位 | フィリピン (3.38%) |
アラブ首長国連邦 (5.7%) |
6位 | ブラジル (3.29%) |
ブラジル (4.9%) |
7位 | コロンビア (3.21%) |
カタール (4.6%) |
8位 | ドミニカ共和国 (3.01%) |
ロシア (4.0%) |
9位 | インドネシア (2.91%) |
中国 (3.9%) |
10位 | エジプト (2.91%) |
コロンビア (3.6%) |
格付け別の構成比率
格付け | EMB | VWOB |
キャッシュ・デリバティブ | 0.58% | 0% |
AA | 7.97% | 9.0% |
A | 13.67% | 15.1% |
BBB | 33.79% | 32.9% |
BB以下 | 43.39% | 42.6% |
格付けなし | 0.62% | 0.4% |
両方とも、半数近くは「ジャンク債」となっています。
ジャンク債とは、格付け「BB」以下の債券の総称。デフォルトの確率が比較的高く、債券投資にしてはリスクが高い債券を指します。新興国は、政府系の債権でもデフォルトのリスクがあるということですね。
債券の格付けのより詳しい定義は、格付けの詳細記事で詳しく解説しています。ジャンク債がどれくらいのリスクがあるのか知りたい人は、こちらもチェックしてみてください。
配当実績
年 | 配当(米ドル) | 期末株価(米ドル) | 配当利回り |
2020 | 4.496 | 115.91 | 3.88% |
2019 | 5.17 | 114.55 | 4.51% |
2018 | 5.864 | 103.91 | 5.64% |
2017 | 5.273 | 116.1 | 4.54% |
2016 | 5.325 | 110.22 | 4.83% |
2015 | 5.118 | 105.78 | 4.84% |
2014 | 5.003 | 109.71 | 4.56% |
2013 | 5.142 | 108.16 | 4.75% |
2012 | 5.123 | 122.79 | 4.17% |
2011 | 5.303 | 109.75 | 4.83% |
EMBは大体4%台後半の配当利回りとなっています。2020年は減配ですが、それまではまずまず安定した配当を出していますね。
年 | 配当(米ドル) | 期末株価(米ドル) | 配当利回り |
2020 | 3.4372 | 82.3 | 4.18% |
2019 | 3.7256 | 81.41 | 4.58% |
2018 | 3.3726 | 74.54 | 4.52% |
2017 | 3.7025 | 80.27 | 4.61% |
2016 | 3.654 | 77.54 | 4.71% |
2015 | 3.646 | 73.96 | 4.93% |
2014 | 3.425 | 76.36 | 4.49% |
VWOBもおおむねEMBと同じような推移を辿っています。配当は安定しているようですね。
チャート
凸凹はありつつも、暴落後もちゃんと回復しているので、価格は維持していますね。
このチャートはEMBの設定以来から引っ張っているので、後追いのVWOBは途中からになっていますが、スタート地点を合わせると両者はほぼ同じ推移になります。
価格の上下の仕方は、EMBもVWOBも変わりません。
「HYG」と「JNK」の設定以来のチャートを、
- 国債を中心とした低リスク債券ETF「AGG」
- 代表的なジャンク債ETF「HYG」
と比較するとこんな感じになります。
2008〜2009年のリーマンショック時と、2020年のコロナショック時の暴落に注目しましょう。
格付けが高いAGGはほとんど影響がありません。それに比べると、EMBとVWOBはきっちり値下がりしています。そのため、暴落時に資産を守る役目は期待できそうにありません。
ただジャンク債のHYGと比べると、一度下がった価格が回復するまでにかかる時間が短いことがわかります。EMBもVWOBも半分以上は投資適格債券なので、この辺りで違いが出ていると思います。
トータルリターン
EMBとVWOBのトータルリターンを、ジャンク債ETF「HYG」と比較していました。トータルリターンとは、株価の値上がりと配当を足した、総合リターンのことです。
EMBとVWOBはどちらを選んでも変わりません。そしてHYGよりも高いパフォーマンスとなっています。
新興国債券ETFのメリット/デメリット
新興国債券ETF「EMB」と「VWOB」の特徴は概ね掴めましたね。続いてメリット/デメリットを考えてみましょう。
メリデメは両者で共通です。
新興国債券のメリット
安定して4〜5%の高配当を狙える
過去に株式市場の暴落を複数経験していますが、継続して4〜5%の高い配当が出ています。現金が必要な人には有力な選択肢でしょう。
現金が必要な理由は人によって異なりますが、FIRE(早期リタイア)に現金はありがたい存在です。
FIREでリタイア直後に、株式暴落の憂き目にあってしまった場合は、相場が元に戻るまでは資産を取り崩さずに、現金でやり過ごす必要が出てきます。この間を耐え抜く手段として、高配当は有効な手立てです。
FIREと高配当銘柄の相性については、「【ちょっと待った!】FIREに高配当株は最適なのか?リターンを最大化する高配当株との付き合い方」で詳しく解説しています。
値動きが小さい
値動きが小さいので、日頃の値動きに一喜一憂せず、枕を高くして寝られるのは、一つのメリットと言えるでしょう。ただリスクが低い反面、価格の上昇も見込めないというデメリットにもなります。
理想は、価格が下がったときにガバッと買って、あとは半永久的にマネーマシーンとしてお金を産み続けることでしょうか。
新興国債券のデメリット
債券に期待する役割は果たせない
あえて高リターンの株式ではない別の資産をポートフォリオに入れるのは、リスクをなだらかにしたいからですね。
その代表格が債券です。国債などの低リスクな債券は、株価が暴落したときにも価格を維持してくれるため、暴落時に資産を守る保険になります。
新興国債券も、株式の値動きよりはずっとなだらかです。ただし不況期には株式と一緒に値下がりする傾向があるので、保険の役割は果たしてくれそうにありません。
投資適格債券よりも高配当をゲットしつつ、投資適格債券と同じようなリスクヘッジを狙うことはできません。
それにしてはリターンが物足りない
基本的には、株式の方が債券よりもハイリターンになります。元本は一切保証されない株式の方がよりハイリスクになるため、よりハイリターンでなければ成立しないからです。
と言っても、ETFであれば数百〜数千銘柄に分散投資できるので、株が紙切れになるリスクは限りなく0。10年以上の長期スパンで考えれば、元本割れの可能性も限りなく低いです。
こうなると、株式ETFのリスクは、もっぱら暴落時に資産が著しく減ってしまうことです。ここで踏ん張ってくれる格付けの高い債券であれば、リターンが低いのは納得できます。
ですが、株と一緒に値崩れしてしまうにしては、新興国債券のリターンは物足りないかなと。だったらもっとハイリターンな「S&P500」や「全米株式」などの株式インデックスに回したいです。
なお現金が必要な場合も、配当と株価値上がりの両方が期待できる【VYM・HDV・SPYD】の方が、魅力的な選択肢かもしれません。これらは米国の普通株を対象とした高配当ETFです。
VYM・HDV・SPYDの詳しい内容は「【大解剖】高配当ETF「VYM・HDV・SPYD」を徹底比較!」で解説しています。
経費率がやや高い
それぞれ経費率が、
- EMB:0.39%
- VWOB:0.25%
となっており、まずまず高いですね。
5%の利回りであれば、結果的に4.6〜4.7%くらいになってしまうということです。
代表的な高配当ETFである【SPYD・HDV・VYM】は、株価の上昇も期待ができて、経費率は10分の1程度です。
加えて、【AGG・BND】といった代表的な債券ETFもやはり経費率は10分の1程度です。この辺りと比べると、どうしても見劣りしてしまいます。
類似の債券ETF【HYG・JNK】
EMBとVWOBによく似た性質を持っているのが、ジャンク債ETFの「HYG」「JNK」です。
こちらは主に米国の社債を対象としたETFで、格付けはほぼ全て「BB」以下のジャンク債となっています。
運用会社 | ブラックロック | ステートストリート |
商品名 | iシェアーズ iBoxx米ドル建てハイイールド社債ETF | SPDR ブルームバーグ・バークレイズ・ハイ・イールド債券ETF |
ティッカー | HYG | JNK |
ベンチマーク | Markit iBoxx米ドル建てリキッド ハイイールド指数 | Bloomberg Barclays High Yield Very Liquid Index |
投資対象 | 配当利回りが高い先進国の米ドル建て社債 | 配当利回りが高い米ドル建て社債 |
格付け | BB、Bが中心 | BB、Bが中心 |
平均残存年数 | 3.96年 | 6.23年 |
デュレーション | 3.78年 | 3.60年 |
配当利回り | 4.5〜6%程度 | 5〜7%程度 |
経費率 | 0.48% | 0.4% |
分配月 | 毎月 | 毎月 |
純資産総額 | 約200億ドル | 約95億ドル |
設定日 | 2007/4/4 | 2007/11/28 |
*HYG参考サイト:ブラックロックHP
*JNK参考サイト:ステートストリートHP
こちらも高配当系のETFとしては、とても人気のあるジャンルです。EMBやVWOBを検討するときは、一緒に比べてみると良いと思います。
詳細は「【ジャンク債は怖い?】ハイイールド債ETF「HYG」「JNK」を解説」をチェックしてみてください。
まとめ:安く買えるタイミングがあれば
今回は新興国債券ETFの「EMB」「VWOB」を紹介しました。
ざっとポイントをおさらいしましょう。
- 主に新興国の国債に投資するETF
- 中身は米ドル建て債券なので、為替リスクは限定的
- 半分近くは格付けが低いジャンク債
- 4〜5%の高い配当が期待できる
- 平時の値動きはなだらかだが、不況時は株と一緒に値下がりする
「EMB」も「VWOB」もパフォーマンスの上ではほとんど違いがありません。強いていうなら、経費率が低いVWOBの方を選ぶのが良いかと思います。
まずます高い配当を期待できますが、トータルリターンでは株式には勝てません。同じインカム系ETFなら、配当と値上がりも期待できる【SPYD・HDV・VYM】の方が高いリターンを期待できます。
債券特有の、株式の暴落時に資産を守る役割を果たしてくれるなら、アリな選択肢だったのですが、そんなに美味しい話はありませんでした。
そんなわけで個人的には購入予定はありません。ただ比較的値動きが安定はしてはいるので、安いときに買えるなら、半永久的なマネーマシーンとして持っておくのもアリでしょう。
高配当ETFには色々と種類があります。「金の卵を産む「米国高配当ETF」を一挙紹介!」では、定番からややマイナーなものまで紹介しています。
インカム重視で投資する人は、こちらもチェックしてみてくださいね。
もし資産を守るための債券をお探しであれば、もっと格付けが高い債券が向いています。「債券はETF一択!定番の米国債券ETFを一挙紹介」から探してみてください。