投資信託やETFで「先進国株式」や「新興国株式」ってありますよね。ですが、どこまでが先進国で、どこからどこまでが新興国か、意識している人は少ないのではないでしょうか?
実は先進国と新興国の違いに、明確な区別はありません。ですが、何かしらの分け方がないと、「先進国株式」や「新興国株式」という商品はできないですよね。
この記事では、投資の世界で「先進国」と「新興国」が、どのように分けられているかを解説します。世間一般では「OECD加盟国=先進国」と思われていますが、投資の世界ではその限りではありません。
この記事を読むと、同じ「先進国株式」を謳っている商品でも、カバーしている国が異なることに気がつきます。(もちろん「新興国株式」も同様です)
知らなかったとしても致命的ではありませんが、何百万円をつぎ込むかもしれないものをキチンと理解していないのは、あまり健全ではないですよね。
インデックス投資をする人は、知っておきたい内容です。ぜひ最後までチェックしてみてくださいね。
「先進国」と「新興国」の明確な区別はない
大雑把に分類すると、
- 先進国以外を「発展途上国」と呼び、
- 発展途上国の中で成長著しい国を「新興国」と呼びます。
もし国の規模で考えるなら、人口やGDPが高い国が「先進国」ということになります。
そうすると中国やインドやブラジルは先進国で、シンガポールのような物理的に小さな国は先進国ではないことになります。
結論を先に言ってしまうと、「先進国」と「新興国」の絶対唯一の線引きはありません。使う文脈によって定義がバラけていて、ニュースで聞く先進国と、投資の世界の先進国では、意味が違ってきます。
一般的な先進国は「OECD加盟国」
投資の話はいったん脇に置いて、現状もっともそれっぽい先進国の定義が、経済協力開発機構(OECD)の加盟国になっているかです。
めちゃくちゃラフに言うと、「世界をリードしている俺たち先進国で、どうなったら世界がもっと良くなるか話し合おうぜ!」という会がOECDです。
もう少しちゃんとした言い方をするならば、OECDは、先進国間の自由な意見交換・情報交換を通じて、
- 経済成長
- 開発途上国の支援
- 多角的な自由貿易の拡大
に貢献するための国際組織です。実際には経済のみならず社会全般の様々なテーマを話し合う場となっています。
加盟国は次の通り。
●EU諸国
ドイツ、フランス、イタリア、オランダ、ベルギー、ルクセンブルク、フィンランド、スウェーデン、オーストリア、デンマーク、スペイン、ポルトガル、ギリシャ、アイルランド、チェコ、ハンガリー、ポーランド、スロヴァキア、エストニア、スロベニア、ラトビア、リトアニア
●それ以外
日本、イギリス、アメリカ合衆国、カナダ、メキシコ、オーストラリア、ニュージーランド、スイス、ノルウェー、アイスランド、トルコ、韓国、チリ、イスラエル、コロンビア、コスタリカ
これらの38か国が、グローバル基準で先進国の定義にもっとも近い国々です。
実は投資の世界では、OECD加盟国であっても、「先進国」のランクからバッサリ切り捨てられている国がたくさんあります。
投資における「先進国」と「新興国」の定義は、別に存在しているのです。
投資の世界で「先進国」と「新興国」を分ける線引き
「先進国株式インデックス」と「新興国株式インデックス」が別々の商品として売られています。これを見るに、投資の世界では、両者に何らか明確な区分けがされているよう。
インデックス投資には、必ず目標とする指数(インデックス)やベンチマークと呼ばれる存在があります。例えば日本のTOPIXや、アメリカのS&P500のことですね。
TOPIXに連動するインデックス投資であれば、トヨタ株が時価総額が増えれば、その分トヨタ株がポートフォリオに占める割合が増えます。日産の時価総額は下がれば、日産が占める割合は減ります。
TOPIXの場合はイメージしやすいですが、これが「先進国株式」や「新興国株式」のインデックス投資だった場合、どこに連動させるのでしょうか?
答えは、世界中の国をまたいで指数を算出している会社があるのです。
- モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル(略称:MSCI)
- FTSEインターナショナル(略称:FTSE)
が代表的な2社です。
日本で人気のある「先進国株式」「新興国株式」、加えて「全世界株式」は、この2社のどちらかの指数を採用しています。
言い換えれば、この2社が定義している「先進国」と「新興国」が、そのまま投資の世界の定義になるということになりますね。
投資における「先進国」はどこまでか?
投資の世界で先進国は、「Developed Markets(ディベロップド・マーケッツ)」と呼ばれています。
「MSCI社」と「FTSE社」にはそれぞれ、次の指数があります。
この指数に含まれている国が、投資における先進国ということになります。
国・地域 | MSCIディベロップド・マーケッツ・インデックス | FTSEディベロップド・オールキャップ・インデックス | |
北アメリカ | アメリカ | ◯ | ◯ |
カナダ | ◯ | ◯ | |
ヨーロッパ | オーストリア | ◯ | ◯ |
ベルギー | ◯ | ◯ | |
デンマーク | ◯ | ◯ | |
フィンランド | ◯ | ◯ | |
フランス | ◯ | ◯ | |
ドイツ | ◯ | ◯ | |
アイルランド | ◯ | ◯ | |
イタリア | ◯ | ◯ | |
オランダ | ◯ | ◯ | |
ノルウェー | ◯ | ◯ | |
ポーランド | 新興国扱い | ◯ | |
ポルトガル | ◯ | ◯ | |
スペイン | ◯ | ◯ | |
スウェーデン | ◯ | ◯ | |
スイス | ◯ | ◯ | |
イギリス | ◯ | ◯ | |
アジア・太平洋 | オーストラリア | ◯ | ◯ |
ニュージーランド | ◯ | ◯ | |
日本 | ◯ | ◯ | |
韓国 | 新興国扱い | ◯ | |
香港 | ◯ | ◯ | |
東南アジア | シンガポール | ◯ | ◯ |
中東 | イスラエル | ◯ | ◯ |
合計 | 23ヵ国・地域 | 25ヵ国・地域 |
両者の違いは、「MSCI」は【韓国とポーランド】を先進国としていないのに対し、「FTSE」はこの2か国を先進国としている点です。
代表的な「先進国株式インデックス」の商品
日本で人気の「先進国株式インデックス」が、それぞれどちらの指数をベンチマークにしているか見ていきましょう。
ベンチマーク |
MSCIコクサイ・インデックス | FTSEディベロップド・オールキャップ・インデックス |
日本を含まない | 日本を含む | |
ETF | 外国株式(為替ヘッジなし)ETF 外国株式(為替ヘッジあり)ETF |
– |
投資信託 | eMAXIS Slim先進国株式インデックス | SBI・先進国株式インデックス・ファンド |
<購入・換金手数料なし>ニッセイ外国株式インデックスファンド | – | |
たわらノーロード 先進国株式 | – |
ここで一つ知っておきたいポイントがあります。
「MSCI社」の指数をベンチマークにしている日本の投資信託は、「MSCIコクサイ・インデックス」という別の指数を使っているケースが多くあります。
「コクサイ」という日本語が使われていることから分かる通り、これは日本人投資家向けに作られた指数です。MSCI社の先進国株式指数全体から「日本」を除いた指数になっています。
日本を除く理由は、日本人投資家は、他で日本株に投資していることが多いからです。ポートフォリオの日本株割合が増えないように、あえて日本を抜いた指数になっているわけですね。
今後の日本市場が魅力的かどうかは、人によって意見が分かれるところ。日本も投資先に含めたいなら「FTSE」を、含めたくないなら「MSCI」をベンチマークにしている商品を選びましょう。
投資における「新興国」はどこまでか?
投資の世界で新興国は、「Emerging Markets(エマージング・マーケッツ)」と呼ばれています。
「MSCI社」と「FTSE社」にはそれぞれ、次の指数があります。
この指数に含まれている国が、投資における新興国ということになります。
国・地域 | MSCIエマージング・マーケッツ・インデックス | FTSEエマージング・オールキャップ・インデックス | |
南アメリカ | アルゼンチン | ◯ | – |
ブラジル | ◯ | ◯ | |
チリ | ◯ | ◯ | |
コロンビア | ◯ | ◯ | |
メキシコ | ◯ | ◯ | |
ペルー | ◯ | – | |
ヨーロッパ | チェコ | ◯ | ◯ |
ギリシャ | ◯ | ◯ | |
ハンガリー | ◯ | ◯ | |
ポーランド | ◯ | 先進国扱い | |
ロシア | ◯ | ◯ | |
トルコ | ◯ | ◯ | |
ルーマニア | – | ◯ | |
アジア・太平洋 | 中国 | ◯ | ◯ |
韓国 | ◯ | 先進国扱い | |
台湾 | ◯ | ◯ | |
インド | ◯ | ◯ | |
パキスタン | ◯ | ◯ | |
東南アジア | インドネシア | ◯ | ◯ |
マレーシア | ◯ | ◯ | |
フィリピン | ◯ | ◯ | |
タイ | ◯ | ◯ | |
中東 | クウェート | ◯ | ◯ |
カタール | ◯ | ◯ | |
サウジアラビア | ◯ | ◯ | |
アラブ首長国連邦 | ◯ | ◯ | |
アフリカ | エジプト | ◯ | ◯ |
南アフリカ | ◯ | ◯ | |
合計 | 27ヵ国・地域 | 24ヵ国・地域 |
【アルゼンチン、ペルー、ルーマニア】は片方の指数でしか新興国の扱いになっていませんが、ここは新興国という扱いで良さそうです。
先進国で触れた通り、【韓国とポーランド】は、先進国なのか新興国なのか、判断が分かれるところです。
代表的な「新興国株式インデックス 」の商品
日本で人気の「新興国株式インデックス」が、それぞれどちらの指数をベンチマークにしているか見ていきましょう。
ベンチマーク |
MSCIエマージング・マーケッツ・インデックス | FTSEエマージング・オールキャップ・インデックス |
韓国を含む | 韓国を含まない | |
ETF | iシェアーズ MSCI エマージング ETF(EEM) | バンガード・FTSE・エマージング・マーケッツETF(VWO) |
投資信託 | eMAXIS Slim新興国株式インデックス | SBI・新興国株式インデックス・ファンド |
<購入・換金手数料なし>ニッセイ新興国株式インデックスファンド | 楽天・新興国株式インデックス・ファンド |
ここでのポイントは、韓国を含むかどうかですね。
新興国株式は、【中国、韓国、台湾、インド】が四大勢力。その一角を含めるかどうかは、結構大きな違いです。「サムスン」のようなグローバルで影響を持つ韓国企業を含めたいかどうかですね。
ただ事実として、韓国を含まなければ他の国の影響力が増すので、韓国が入っている「MSCI」の方が分散が効いていると言えそうです。
先進国でもない新興国でもない「フロンティア国」とは?
鋭い人は気づいたかもしれませんが、先進国にも新興国にもノミネートされていない国がたくさんあります。アフリカ大陸の国はほとんど入っていませんでした。
実は、世界には「先進国」にも「新興国」にも属さない「フロンティア国」があります。投資の世界では、“Frontier Markets(フロンティア マーケッツ)”と呼ばれています。
例えば東南アジアのベトナムや、ITの世界では先端を行くエストニアは、「フロンティア国」に該当します。
特にアフリカ大陸は、広大な土地に10億人を超える人が暮らしています。アフリカは世界でもっとも人口が爆発的に増える地域であり、投資による恩恵も期待できるのではないでしょうか。
フロンティア国の詳細は、「【新興国のさらに先】フロンティア国への投資はあり?ETFをチェックしてみよう」で解説しています。
人気の「全世界株式」は、実は全世界をカバーしていない!?
「全世界株式インデックス」は、全世界にいっぺんに投資できるとあって、非常に人気があります。つみたてNISAやiDeCoで、全世界株式1本で投資している人も多いのではないでしょうか?
数十年後を見据えた長期投資では、アメリカだけでなく全世界に張っている方がメリットが大きいかもしれません。そう感じる投資家が好んでいるのが「全世界株式インデックス」です。
おそらくほとんどの人は、「全世界株式インデックス」は文字通り全世界に投資していると思っていますが、実はそうではありません。
「全世界株式インデックス」の投資対象は、「先進国」と「新興国」です。「フロンティア国」は含まれていません。つまり本来の意味での全世界ではないのです。
まず「フロンティア国」全体が、世界の時価総額に占める割合は1%にも届きません。株式の世界では、フロンティア国全部を足しても、Apple1社に及ばないのです。
さらに今後「フロンティア国」に含まれるどこかの国が、目覚ましい発展を遂げることになれば、「新興国」に格上げされます。新興国に格上げされれば、「全世界株式」の対象に含まれます。
そんなわけで、「全世界株式」は世界地図的な意味ではフォローしていない国が多数ありますが、株式の時価総額の面での取りこぼしは、無視できるレベルと言えるでしょう。
本記事のテーマではないので割愛しますが、全世界株式にも、ベンチマークにする指数によって大きな違いが出ます。
詳細は「【全世界株式は2種類ある!】MSCIオールカントリーワールドインデックスとFTSEグローバルオールキャップインデックスの違い」で解説しています。
まとめ
今回は知っているようで実は知らない、「先進国」と「新興国」の違いを、投資家の目線で解説しました。
もっとも一般的な考え方は、「OECDに加盟している国=先進国」ですが、投資の世界ではその限りではありません。
世界にまたがって指数を算出している会社があり、「先進国株式」や「新興国株式」は彼らの指数を頼ってインデックス投資の商品開発をしています。ここが投資の世界での「先進国」と「新興国」の線引きです。
ただし、指数を算出している会社は1社だけではありません。代表的な2社が「MSCI社」と「FTSE社」ですが、両者の指数で「先進国」と「新興国」の線引きが異なります。
単に「先進国株式」「新興国株式」という言葉だけでなく、指数の中身まで理解して商品を選びたいですね。場合によっては何百万円も投じるかもしれないわけですから。
そして、世界の国々は、「先進国」と「新興国」の2つだけではありません。まだ新興国には満たないが、今後に経済発展が期待できる「フロンティア国」があります。
ぜひ「先進国」「新興国」「フロンティア国」の違いを意識して、インデックス投資を選んでいきましょう!