よく「もう株価には織り込まれている」という言葉を耳にしますね。株価は、現在の情報をもとに、ある程度将来を反映した価格が織り込まれています。
この織り込み現象を説明する理論が、「効率的市場仮説」です。ざっくり言えば、株価にはあらゆる情報が瞬時に織り込まれるので、超過リターン(平均を超えるリターン)は出せないという説です。
ということは、頑張って市場を先読みして一儲けしようとしても、瞬時に株価に織り込まれてしまうので、そのような努力は無駄ということになります。
であるなら、「労せず市場平均のリターンを得るのが1番だよね」となるので、インデックス投資が推奨される根拠にもなっています。
現実には、「効率的市場仮説」が100%正しいことはなく、抜け目なく超過リターンを得られる投資家もいます。ただしほんのひと握りですが。
個人的には、100%ではないにしても「効率的市場仮説」は相当程度に機能していると思います。結果として、素人(わたし自身も)が超過リターンを得る可能性はかなり低いと考えています。
この記事では、「効率的市場仮説」をわかりやすく解説しています。そして、絶対ではないにしても、ある程度は効率的な市場で、我々素人がどう振る舞うべきかも意見を述べています。
株式市場に参加する人の一般常識として、ぜひ最後までチェックしてみてください。
効率的市場仮説とは?
まずはざっくりと「効率的市場仮説(Efficient-market hypothesis)」の概要をさらっていきましょう。
同仮説によれば、株式市場には、現時点で利用可能な情報が全て瞬時に織り込まれています。気づいたときには、あらゆる情報が株価に織り込まれているので、「頑張って情報収集したところで、ムダ(超過リターンは取れない)だよ」という話です。
株価が上がりそうな好材料が出た場合、即座に株価は上がります。
もちろん、1番最初に情報を見つけて行動した人は、上がる前の株価で買って、その後の値上がり益を享受できます。ただしそれは一瞬の出来事で、狙ってできることではありません。
同仮説に従えば、市場を先取りするためのあらゆる努力は徒労に終わるので、専門知識を持ったアナリストは全くの無力ということになります。
効率的市場仮説と深く関わるランダムウォーク仮説
となれば、未来の株価は完全にランダムに動いていることになってしまいますね。このような考え方を「ランダムウォーク仮説」と呼びます。
未来の株価は上がるも下がるも1/2の確率。当てずっぽうなので、専門知識を持ったファンドマネージャーでも、猿が投げたダーツで投資しても、リターンは変わらないという話です。
もちろんそれでも勝つ人はいます。例えば、100万人でジャンケントーナメントをやったとしましょう。15回戦(15連勝)までいくと30人まで絞られます。確率的に勝ち上がる人は出てきますが、この30人がジャンケンに勝てる能力があるわけではないですよね。
ただし、株価の上がり下がりはランダムであっても、長期で見れば、市場全体は右肩上がりで上がっていくことがわかっています。これは明確な事実です。
そのため、「市場全体に投資して、チマチマトレードなんてせずに、ずっと持っておくのが1番だよね」という結論になります。つまり、インデックスの長期投資です。
効率的市場仮説の3つのタイプ
そんな効率的市場仮説は、次の3つの段階があるとされています。
効率的市場仮説の3つの段階
- ウィーク型:
過去の株価から未来の株価は予測できない - セミストロング型:
企業情報や、ニュースなどの公開情報は株価に織り込まれている - ストロング型:
未公開情報も株価には織り込まれている
それぞれ見ていきましょう。
①ウィーク型
効率的市場仮説の第1段階は、「ウィーク型」。過去の株価情報は、全て現在の株価に織り込まれているという考え方です。
というわけで、過去の株価をいくら検証しても、将来の株価を予測することはできないということです。端的に言えば、チャートを読むテクニカル分析は意味がないとしています。
3段階の中では1番マイルドで、専門家も賛同するところが大きいのがウィーク型です。
②セミストロング型
第2段階の「セミストロング型」は、企業の公開情報や、政治経済ニュースといった、誰でも取得可能な情報は、直ちに株価に織り込まれているという考え方です。
つまり公開情報を追って、いくら綿密に調べたところで、将来の株価を予測することはできないとする考え方。端的に言えば、ファンダメンタル分析は意味がないとしています。
ここは専門家の間でも意見が分かれるところ。実際には市場参加者によって、企業情報やニュースの捉え方が異なるので、株価への織り込みが瞬時に行われるかは怪しい気がします。
ただファンダメンタル分析を拠り所としている多くの機関投資家が、市場平均を越えられないところを見るに、セミストロング型は概ね正しいように思えてきます。
ファンダメンタル分析は、年々効果がなくなっている?
一昔前は、ファンダメンタル分析は確実に有効でした。なぜなら、インターネットが普及する前は、情報伝達のスピードが遅かったため、素早く情報をキャッチできた人が市場を出し抜くことができたからです。
ですが、現在はインターネットの普及により、公開情報は即座に全世界の投資家に広くあまねく伝わります。というわけで、ファンダメンタル分析は、年々効果が薄れてきているのです。
③ストロング型
第3段階の「ストロング型」は、未公開の情報もすでに株価に織り込まれているとする考え方です。端的に言えば、インサイダー取引がまかり通っているという話になります。
これは大分行き過ぎた考え方で、否定的な見方をされることが多いです。もしストロング型が存在するならば、市場にサプライズは起きないことになります。
実際には、政治経済や企業の決算結果が市場の予想とズレていて、相場が1日で大きく動くことがままあります。というわけで、実際の市場でもストロング型には至っていないように思います。
実際の市場で起こる現象
では、効率的な市場ではどのような現象が起こるのでしょうか?
よく見られるのが、
- 織り込み済みで、株価が変わらなかった
- 織り込み過ぎからの材料出尽くしで反発
の2つです。
実際の市場で起こること①:織り込み済みで株価動かず
1つ目は、いわゆる「織り込み済み」というヤツ。
例えば、良い決算が出たのに、その企業の株価が上がらなかいケースですね。これは決算前にアナリストがしていた予測が正しかった場合に起こります。すでに好決算は織り込まれていた格好。
他にも、金融政策(緩和or引き締め)は、株式市場全体に大きな影響を与えますが、状況証拠的が積み上がって予め予測されていれば、株価には織り込まれ済み。結果として、正式な発表があっても株価が動かないことがあります。
実際の市場で起こること②:織り込み過ぎ→材料出尽くし
2つ目は、株価が織り込み過ぎた結果、好材料または悪材料が出尽くしたところで、株価が反転する現象です。
どういうことかというと、まず、株価は将来を織り込んで形成されるので、多分に予測が混じっています。
例えば、政治に混乱があったり、原材料費が高騰したりと、先行き不安な材料が多くあれば、業績低下を織り込んで株価はドンドン下がっていきます。
そういった悪材料が一つ、また一つと明るみになって、とうとう最後の一つまで出てしまうと、「これ以上下がる要素はないな」と逆に反発して、株価上昇に転じることがあるのです。
これは投資家が業績低下の予想を織り込み過ぎた結果、株価が下がり過ぎてしまった格好。株式市場は効率的に動こうとする(実際に効率的なときもある)けど、完全には効率的ではないことの表れですね。
【反論】現実の市場は効率的ではない?
「効率的市場仮説」は絶対じゃないため、反対意見もあります。もし、市場が完全に効率的なら起こらないような現象が、現実には観測されています。
効率的市場仮説への反論①:バブルの発生
資産価格が本来の適正価格を大きく超えてしまう現象を「バブル」と呼びます。もし市場が効率的なら、株価は瞬時に適正価格に調整されるため、バブルになるはずはありません。
バブル発生のメカニズムは、心理的な作用によるところが大きいと言われています。言い換えれば、人間の心の弱さや、欲深さと言いましょうか。
資産価格が適正かどうかはさておき、この先も買い手がうじゃうじゃ湧いて来るなら価格は上がる。ならば乗るしかない。そう考えるのも無理はありません。
自分はそんな狂騒には浮かれないと心に決めていても、隣人が大儲けしたと耳に入れば面白くないですよね。危ない橋とわかっていても、資産を突っ込みたくなるのが人情です。
「効率市場仮説」は、市場参加者は冷徹で、絶対に間違った判断はしないという前提のもとで成り立っています。ですが実際の人間は感情的で、失敗することもあるわけです。
効率的市場仮説への反論②:摩訶不思議なアノマリー
市場には、科学的には説明がつかないけど、たびたび観測される現象「アノマリー」があります。anomalyは「変異性」という意味の英単語。
例えば、次のようなアノマリーがあります。
よく耳にするアノマリー
- 1月効果:
米国株では他の月と比べて1月のリターンが高い傾向にある - Sell in May(5月に売り抜けろ):
米国株は6月から9月頃まで調整で株価が下がる傾向があるので、5月の高いうちに売り抜けようという意味 - リターンリバーサル:
大きく値上がりした株は、その後大きく下がりやすいという意味。いわゆる「逆張り投資」の考え方 - 小型株効果:
株式時価総額の小さい小型株のリターンが、大型株よりも高くなる傾向がある
ここにもやや心理的な要因が絡んでように思います。
1月効果は、「よし新年だし、気持ちを切り替えていくぞ!」という感情が買いに向かっているようにも思います。リターンリバーサルも、「これだけ上がったら、そろそろ下がるでしょ」と思うのが人情。
もし市場が効率的に動いているのであれば、このような本質的には株価と関係ないのに、株価が影響を受ける現象は起きません。
効率的市場仮説を知って投資にどう活かすか?
ここまでで「効率的市場仮説」の何ぞやは概ねお伝えできたと思います。株価に全ての情報が100%織り込まれるわけではありませんが、相当程度は織り込まれていると言えそうですね。
これを知って、我々個人投資家はどのように行動すれば良いのでしょうか?
【実はある】効率的な市場でも勝てる方法
「効率的市場仮説」を逆に利用して、そこそこ勝算がある投資方法があります。それは、機関投資家に右に倣えで投資をするという案です。
機関投資家とは、法人で投資を行う大口投資家のこと。個人投資家とは0が3つも4つも違う桁で投資をしています。
例えば企業決算や政治経済で、予測されていなかった良いサプライズが起こったとき、世界中の投資家が一斉に売りを入れます。市場が効率的に動こうとしています。
ですが、機関投資家の買い注文は1日では終わらず、数日に分割されることが多々あります。結果として、株価には瞬時に織り込まれるのではなく、数日かけて織り込まれていきます。
初日の上昇分は取れないと思いますが、そこで「もう株価あがっちゃったから、やーめた」と諦めず、恥を忍んで買いを入れてみましょう。翌日以降も機関投資家が買い増しを行うので、その後の上昇分はしっかり取れる算段です。
ちなみに機関投資家は投資金額が大きいので、市場に与える影響が大きいのですが、組織の都合上、個人のように自由に振る舞えないシーンがあります。
この歪みを狙うのは、一つの戦術としてはあり得ます(実際にアノマリーのいくつかは、機関投資家に端を発している感があるように感じます)。
個人投資家と機関投資家の違いを解説した記事も参考にしてみてください。
茨の道のアクティブ投資か、開き直ってインデックスか
「効率的市場仮説」はあくまで仮説であり、科学的に立証されているわけではありません。実際に、仮説通りにならないケースはままあります。
ですが、実際の市場を観察していると、株価は相当程度、将来の期待を織り込んで推移しています。その証拠に安定して市場平均を超えるリターンを出している人はかなり少数。
艱難辛苦を乗り越えて、アクティブ投資で超過リターンを出すよりも、効率的市場仮説があるものとして、開き直って市場についていくやり方が良いのではないでしょうか?
ほとんどの人は、投資で一山当てたいとか、専業トレーダーになりたいわけではなく、着実に資産を増やしたいだけですよね。そういう人は、投資に時間を使うよりも、他の研鑽に時間を使う方が良いように思います。
効率的市場仮説を前提にした「現代ポートフォリオ理論」では、市場全体の銘柄に時価総額の比率通りに投資をするのが、もっともリスク・リターンのバランスが良いと結論づけられています。
つまり、インデックス投資ですね。そして、短期の売ったり買ったりで売買差益を狙うのではなく、長期保有で資産を太らせるのが最も確実です。