債券にはリスクの高さを示す「格付け」があります。リスクが高いほど、デフォルト(債務不履行)のリスクが高い代わりに、リターンも大きくなります。
実際に格付けが違うと、値動きの仕方が大きく変わってくるので、投資の目的に合わせて選ばなければなりません。高い利回りだけを見て、ジャンク債に手を出すのはNGです!
この記事では、
- 債券の格付けの定義
- 債券格付けによるデフォルト率
- 格付けによってリスク・リターンがどう変わるか?
を解説しています。
債券投資をする上で、格付けは非常に重要なファクターです。この記事を読めば、あなたがどの格付けの債券を選べば良いか、判断できるようになるはず。
ぜひ最後までチェックしてみてくださいね。
なお「債券の基本的な用語」や「利率と利回りの違い」「債券価格と金利の関係」が、いまいちピンと来ない人は、債券の基礎を解説した記事をサッと目を通してもらうと理解が捗ると思います。
債券の格付けの定義
債券には信用力に応じた「格付け」がされています。
信用力とは、要するに「借金を返済する能力」。「格付けが高い=信用力が高い=財務基盤がしっかりしている=ちゃんとお金を返してくれる」というロジックです。
グローバルで代表的な格付け会社には、
- S&Pグローバルレーティング社
- Moody’s(ムーディーズ)社
- フィッチ・レーティングス社
があります。
それぞれで格付けの表現の仕方が微妙に異なりますが、
- BBB、Baa以上:投資適格債券
- BB、Ba以下:ハイイールド債(ジャンク債)
と呼ばれています。
債券投資は金貸しなので、本来はちゃんと返してくれる相手に、ほどほどの利子を求めます。真っ当な債券投資には、BBB以上の投資適格債券が選ばれます。
その下のハイイールド債は、利回りは高いものの、お金が返ってこないリスクがあります。債券投資にしては高いリスクを負うので、「ジャンク債」と不名誉な別名がついています。
より細かい格付けの定義
ちょっと感覚値っぽいところはありますが、格付けには次のような定義づけがされています。(格付け会社によって表現は異なります)
格付け | 定義 |
AAA | 債務を履行する能力は極めて高い。 |
AA | 債務を履行する能力は非常に高く、「AAA」との差は小さい。 |
A | 債務を履行する能力は高いが、事業環境や経済状況の悪化の影響をやや受けやすい。 |
BBB | 財務内容は適切であるが、事業環境や経済状況の悪化によって債務を履行する能力が低下する可能性がより高い。 |
BB | 他の「投機的」格付けに比べて債務不履行になる蓋然性は低いが、債務者は高い不確実性や、事業環境、金融情勢、または経済状況の悪化に対する脆弱性を有している。状況によっては債務を履行する能力が不十分となる可能性がある。 |
B | 現時点では債務を履行する能力を有しているが、不履行になる蓋然性は「BB」に格付けされた債務よりも高い。事業環境、金融情勢、または経済状況が悪化した場合には、債務を履行する能力や意思が損なわれやすい。 |
CCC | 債務が不履行になる蓋然性は現時点で高く、債務の履行は、良好な事業環境、金融情勢、および経済状況に依存している。事業環境、金融情勢、または経済状況が悪化した場合に、債務者が債務を履行する能力を失う可能性が高い。 |
CC | 債務が不履行になる蓋然性は現時点で非常に高い。 |
C | 債務は、不履行になる蓋然性が現時点で非常に高いうえに、より高い格付けの債務に比べて優先順位が低い、または最終的な回収見通しが低いと予想される。 |
D | 当該債務の支払いが行われていないか、S&Pが想定した約束に違反があることを示す。(中略)また、倒産申請あるいはそれに類似した手続きが取られ、例えば自動的停止によって債務不履行が事実上確実である場合にも用いられる。 |
*S&Pグローバル・レーティング・ジャパン株式会社の長期個別債務格付けを引用し、一部の表現を修正しています。全文は公式サイトをご確認ください。
格付け毎のデフォルトリスク
格付けとは言い換えれば、債券の「デフォルト(債務不履行)のしやすさ度合いをランク分けしたもの」です。
というわけで、それぞれの格付けでは、それぞれどのくらいの確率でデフォルトになってしまうのか、ぜひ知っておきたいところですね。
次の表はS&Pグローバルレーティング社が公表している格付け毎のデフォルト率です。
年 | AAA | AA+ AA AA- |
A+ A A- |
BBB+ BBB BBB- |
BB+ BB BB- |
B+ B B- |
CCC+ から C |
2000 | 0 | 0 | 0.27 | 0.37 | 1.16 | 7.71 | 35.96 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
2001 | 0 | 0 | 0.27 | 0.34 | 2.98 | 11.56 | 45.45 |
2002 | 0 | 0 | 0 | 1.02 | 2.90 | 8.20 | 44.44 |
2003 | 0 | 0 | 0 | 0.23 | 0.59 | 4.07 | 32.93 |
2004 | 0 | 0 | 0.08 | 0 | 0.44 | 1.45 | 16.30 |
2005 | 0 | 0 | 0 | 0.07 | 0.31 | 1.75 | 9.09 |
2006 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0.30 | 0.82 | 13.33 |
2007 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0.20 | 0.25 | 15.24 |
2008 | 0 | 0.38 | 0.39 | 0.49 | 0.81 | 4.11 | 27.27 |
2009 | 0 | 0 | 0.22 | 0.55 | 0.75 | 11.03 | 49.46 |
2010 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0.58 | 0.87 | 22.83 |
2011 | 0 | 0 | 0 | 0.07 | 0.00 | 1.68 | 16.42 |
2012 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0.30 | 1.58 | 27.52 |
2013 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0.10 | 1.65 | 24.67 |
2014 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0.00 | 0.78 | 17.51 |
2015 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0.16 | 2.42 | 26.67 |
2016 | 0 | 0 | 0 | 0.06 | 0.47 | 3.76 | 33.17 |
2017 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0.08 | 1.00 | 26.56 |
2018 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0.00 | 0.99 | 27.18 |
2019 | 0 | 0 | 0 | 0.11 | 0.00 | 1.49 | 29.76 |
2020 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0.93 | 3.52 | 47.48 |
*出典:2020 Annual Global Corporate Default And Rating Transition Study(リンク)
BBB以上の投資適格債券は、ほっとんどデフォルトしていませんね。A以上は歴史的な不況に陥ったときだけ、わずかにデフォルトがあり得るという感じです。
投資不適格とされるBBでもそこまで高くはありません。CCC以下は本当にヤバくて、ジャンケンに負けたらデフォルトするくらいの確率です。
格付けと利回りの関係
投資の世界では、「リスクの大きさ」と「リターンの大きさ」は正比例の関係にあります。(実際には投資以外の世界も大抵そうですが)
というわけで、
- 格付けが高い債券:ローリスク・ローリターン
- 格付けが低い債券:ハイリスク・ハイリターン
ということになります。
債券におけるリターンは、「利回り(金利)」です。格付けが低いほど、ハイリスクな債券になるので、利回りは高くなります。ジャンク債は、とりわけ高い利回りになります。
これだけだと、単にリスク・リターンのバランスを考えようという話で終わってしまうのですが、そうは行かないのが面白いところです。
債券の格付けが変わると、値動きの仕方が全く変わってきます。ここも加味して、格付けを選ばなければなりません。次の章で詳しく見ていきましょう。
格付けと債券価格の関係
債券は、発行時点で利子と償還金額が決まっています。将来もらえるお金が決まっているので、株式のように大きく値動きしません。
そのため、株式と債券を組み合わせたポートフォリオにすることで、株式相場が暴落したときに、債券が資産を下支えする役割を果たします。これが一般的な債券の使い方でしょう。
ただ株式の暴落時に、債券価格がどれほど持ち堪えてくれるかは、債券の格付けに大きく左右されます。
格付けが高い債券は、株式と逆の値動きになる
格付けが高い債券は、期待通りの働きをしてくれます。株価暴落時に価格が下がらないばかりか、むしろ価格が上がります。
格付けが高い債券は、不況だろうがなんだろうが、潰れずに借金をちゃんと返せると評価されているわけです。例えば日本や米国が破綻するとは考えられないですよね。
限りなく100%に近い確率で、債券の額面通りにお金を支払ってくれるなら、不況で価格が下がる理由はありません。
直感的にわかりやすいのは、株式市場の先行きに悲観的になった投資家が、資金を株式から債券に移すからです。
債券は安全資産の代表選手なので、株式から引き上げたお金がいの一番に集まります。株式が売られて、債券が買われるので、債券価格は上がるのです。
なお格付けが高い債券でも、値動きの大きさにはかなり差が出ます。結論だけ言ってしまうと、残存期間が長い債券ほど値動きが大きくなり、株価暴落のカバーをしやすくなります。
債券の値動きの激しさは、「デュレーション」という尺度が使われます。これは格付けと同じくらい重要。デュレーションの解説記事も合わせてチェックしてみてください。
格付けが低い債券は、株式と一緒に値下がりする
信用力が低い発行体は、不況になると資金繰りが悪化しやすくなります。つまり格付けが低く、不況になるとデフォルト(債務不履行)のリスクが出てきてしまうのです。
もしあなたが格付けの低い債券を持っていたとして、不況に突入したらどう感じるでしょう?発行体が潰れてしまえば大損です。
もちろん早く手放したくなりますよね。そんなわけで、格付けが低い債券ほど不況期に早々に売られ、価格が下がりやすくなります。
格付けが高い債券は、純粋に金利によって価格が変動します。格付けが低い債券ほど、景気の影響を受けやすくなります。
ジャンク債は初心者には扱いが難しい
特に格付けが低いジャンク債は、株価ほどではないにしても、不況期には結構ガッツリ値下がりします。価格の回復にも時間がかかります。
しかしながら、将来得られる利子や償還金額は決まってしまっているので、株価のように価格が青天井に上昇することはありません。
つまり価格が下がりやすいのに、上がりにくい、という構図になっています。この構図がジャンク債投資を難しくています。
景気の良いタイミングで高い利回りをゲットしつつも、不況で価格が下がりそうになったらサッサと売り抜ける、という立ち回りが必要になってきます。
ジャンク債の価格は、景気の先行指標になる
近い将来の景気を占う指標はいくつかありますが、ジャンク債の価格その一つです。ジャンク債の価格推移を見ることで、株式相場の市況をある程度推測できます。
ジャンク債の価格が上がっているとき、つまりジャンク債に資金が集まっているときは、投資家の先行きが楽観的と捉えられます。景気は上向いていると推測できます。
逆にジャンク債の価格が下がったときは、十分に警戒しなければなりません。景気の先行きに不安を感じた投資家が、暴落前にジャンク債を売り抜けようとしているからです。
なおジャンク債の価格ではなく、利回りの方を見ているケースもよく見られます。債券価格と利回りは逆に動くので、どちらを見ても良いでしょう。
格付け別にリターンを比較してみよう
まず、米国の代表的な3つの債券ETFの価格推移を比べてみましょう。いずれも業界大手のブラックロック社が運用する超メジャー商品です。
- AGG:米国債中心。主にAAA格
- LQD:投資適格社債。主にBBB格
- HYG:ジャンク債。主にB〜BB格
格付けが高いほど、値動きが緩やかになっています。また格付けが高い方が、下落からの立ち直りが早いのもポイントでしょう。これはどのような期間でも基本的に同じです。
そして、投資適格債券のAGG・LQDと、ジャンク債のHYGの値動きの違いが、非常に気になります。
投資適格債券であるAGGとLQDは、値動きの程度には差があるものの、同じような推移をしています。下値を切り上げていっているので、なかなかいい具合に見えます。
ジャンク債のHYGの価格は、リーマンショックから回復し切らないうちに、チャイナショックの暴落を迎え、価格は徐々に下がってしまっています。ジャンク債は、長期保有を前提とした投資には適さないのかもしれません。
AGGとLQDの価格が上昇しているときに、HYGが下落しているシーンも見受けられます。やはり同じ債券でも、投資適格債券とジャンク債は別物なんだなと感じます。
次にトータルリターン(配当+値上がり益)を比較していきましょう。ETFなので、配当と値上がり益という言葉を使いましたが、利回りのことと思っていただければOKです。
AGG(主にAAA) | LQD(主にBBB) | HYG(ジャンク債) | |
年平均成長率 | 3.92% | 5.87% | 5.59% |
最も伸びた年 | 8.45% | 17.37% | 28.57% |
最も落ち込んだ年 | -1.98% | -3.79% | -17.58% |
最大下落幅 | -4.31% | -15.11% | -29.81% |
シャープレシオ | 0.89 | 0.70 | 0.48 |
*青字は三者の中でパフォーマンスが最も良い。赤字はパフォーマンスが最も悪い。
格付けが高いAGGのリターンが最も低くなっています。これは通常の動きで、リスクが低いのでリターンも低くなっています。
本来であれば、最もリスクが高いHYGが勝っても良さそうですが、価格が軟調だったので伸び悩んでいますね。
安定してそこそこのリターンを得るなら、投資適格債券でありながらも、格付けが高すぎないLQDが良さげな感じですね。チャートも信頼できそうな感じでしたし。
まとめ
今回は債券の格付けにフォーカスして解説してみました。
ざっとまとめましょう。
格付けとは?
- 格付けとは、借金を返す能力がどれほどあるかを示している
- 「投資適格債」と「ハイイールド債(ジャンク債)」に二分される
格付けが高いと?
- 格付けが高い債券は、デフォルトリスクが低いので、リターンである利回りも小さくなる
- 格付けが高い債券の価格は、主に金利によって変動する
- 格付けが高い債券の価格は、株価と逆に動く傾向がある
格付けが低いと?
- 格付けが低いほど、デフォルトリスクが高くなるので、リターンである利回りも高くなる
- 格付けが低い債券の価格は、主に景気によって変動する
- 格付けが低い債券の価格は、株価と一緒に動く傾向がある
格付けが高い国債などの債券と、格付けが低いジャンク債は、全く別の性質を持っています。別の資産クラスと思って投資した方が良いとさえ思ってしまいます。
投資の目安としては、次のような感じになると思います。
①株価暴落時に資産を守りたい人
- 格付け目安:A〜AAAの高格付け債券
- 対象債券:米国債など
- 該当するETF:AGG、BND、TLT
②資産価格は下げたくないけど、一時の下落は許容できる人
- 格付け目安:BBB〜Aの投資適格債券
- 対象債券:比較的財務が健全な社債など
- 該当するETF:LQD
③とにかく高い利回りが欲しい人。暴落前に売り抜けられる人
- 格付け目安:BB以下のジャンク債
- 対象債券:財務に懸念がある社債、新興国債など
- 該当するETF:HYG、JNK、EMB
ちなみに債券はその性質上、一発当てて大儲けというシナリオが存在しないので、個別銘柄に投資する意味がほとんどありません。分散投資できるETFが最適です。
米国の債券ETFを選ぶ際は、「債券はETF一択!定番の米国債券ETFを一挙紹介」も参考にしてみてください。