日本人投資家に大人気の「全世界株式」。これ一つ買うだけで全世界に投資できる、とんでもない優れものです。ETFなら「VT」の一択でしょう。
全世界株式派が、一度騙されたと思って検討してみて欲しいのが、
- VTI:全米株式インデックス
- VEA:米国以外の先進国株式インデックス
- VWO:新興国株式インデックス
の組み合わせです。「VT」とほぼ同じカバー範囲をバラで買うイメージですね。
世間では経費率をちょっと下げられるアイデアとして紹介されますが、ぶっちゃけ大した節約にはなりません。経費率で考えるのはナンセンスかなと。
大事なのは、「1本で済ませたいから全世界なのか?」「分散投資をしたいから全世界なのか?」、どちらの動機かということ。
もし1本で済ませたいなら、迷わず「VT」です。ですが、分散投資によってリスクをコントロールしたいと思うなら、「VTI+VEA+VWO」の組み合わせは大いにアリ。
この記事を読めば、あなたが「VT1本」 と「VTI・VEA・VWOの組み合わせ」のどちらに向いているか判断できます。
まずは「VT」「VTI・VEA・VWO」の基本情報から
まずはそれぞれのETFの概要を見ていきましょう(知っている人はスキップしてOK!)。
運用会社 | バンガード |
商品名 | バンガード・トータル・ワールド・ストックETF |
ティッカー | VT |
ベンチマーク | FTSEグローバル・オールキャップ・インデックス |
投資対象 | 先進国&新興国市場の大型・中型・小型株(時価総額上位98%) |
配当利回り | 1.5〜2.5%程度 |
経費率 | 0.08% |
分配月 | 3月・6月・9月・12月 |
純資産総額 | 約330億ドル |
設定日 | 2007/7/20 |
*VT参考サイト:バンガードHP
運用会社 | バンガード | バンガード | バンガード |
商品名 | バンガード・トータル・ストック・マーケットETF | バンガード・FTSE先進国市場(除く米国)ETF | バンガード・FTSE・エマージング・マーケッツETF |
ティッカー | VTI | VEA | VWO |
ベンチマーク | CRSP USトータル・マーケット・インデックス | FTSE先進国オールキャップ(除く米国)インデックス | FTSEエマージング・マーケッツ・オールキャップ(含む中国A株)インデックス |
投資対象 | 全米の上場企業約4,000社 | 米国を除く先進国市場の大型・中型・小型株(時価総額上位98%) | 新興国市場の大型・中型・小型株(時価総額上位98%) |
配当利回り | 1〜2%程度 | 2.5〜3.5%程度 | 2〜3%程度 |
経費率 | 0.03% | 0.05% | 0.10% |
分配月 | 3月・6月・9月・12月 | 3月・6月・9月・12月 | 3月・6月・9月・12月 |
純資産総額 | 約1.3兆ドル | 約1,600億ドル | 約1,100億ドル |
設定日 | 2001/5/24 | 2007/7/20 | 2005/3/4 |
*VTI参考サイト:バンガードHP
*VEA参考サイト:バンガードHP
*VWO参考サイト:バンガードHP
全世界株式「VT」の構成国割合
まずは全世界に丸っと投資できる「VT」の構成国の割合を押さえておきましょう。
「VTI+VEA+VWO」を組み合わせる場合、出発点は「VT」の比率になります。その通りにするもよし、手心を加えてしっくりくる割合に調整するもよしです。
以下は、「eMAXIS Slim 全世界株式」などで採用されているベンチマークの構成国割合です。「VT」とは別のベンチマークですが、ほぼ同じと思って差し支えありません。
インデックス投資のほとんどは、時価総額加重平均を採用しています。時価総額が大きい銘柄や国の割合が、自動的に大きくなるように計算されます。
この円グラフだと全部は読み取れませんが、
- 米国株:55〜60%
- 米国以外の先進国株:30%
- 新興国株:10〜15%
が大体の目安になります。結果として、米国が過半数を超える割合となっています。
もちろん今後に中国やインドが大きく伸びれば、新興国の割合が大きくなります。というわけで、ほったらかしでも世界の経済成長を取りこぼさないのが、「VT」のコンセプトです。
【備考】カバー範囲はちょっとだけ違う
「VT」と「VTI+VEA+VWO」は、ほぼ同じカバー範囲になりますが、厳密には違います。少々細かい話になりますが、知っておくと良いでしょう。
「VT」がベンチマークとしている、「FTSEグローバル・オールキャップ・インデックス」は全世界の株式の時価総額上位98%をカバーしています。全世界の大型株・中型株・小型株が含まれます。
同様に、「VEA」は米国以外の先進国の上位98%、「VWO」は新興国の上位98%をカバーしています。
しかしながら「VTI」がベンチマークにしている「CRSP USトータル・マーケット・インデックス」は、米国上場企業のほぼ100%をカバーしています。大型株・中型株・小型株に加え、超小型株まで含んでいます。
理論的には小規模の株式ほどハイリスク・ハイリターンになるので、若干パフォーマンスにも影響するでしょう。
細かい話は、株式のサイズの解説記事をチェックしてみてください。サイズの定義や、リターンの違いを解説しています。
経費率比較
「VT」と「VTI+VEA+VWO」で、経費率にどれほど差が出るかもチェックしてみましょう。
「VT」は1銘柄なので、経費率はそのままです。
銘柄 | 経費率 | 構成割合 | 加重平均 |
VT | 0.08% | 100% | 0.08% |
合計 | 100% | 0.08% |
「VTI+VEA+VWO」は、組み合わせる比率によって微妙に変わります。仮に「60:30:10」としてみましょう。
銘柄 | 経費率 | 構成割合 | 加重平均 |
VTI | 0.03% | 60% | 0.018% |
VEA | 0.05% | 30% | 0.015% |
VWO | 0.10% | 10% | 0.01% |
合計 | 100% | 0.043% |
というわけで、「VTI+VEA+VWO」の方が経費率は安く収まりそうです。
ただ「VT」の経費率も十分に低いと言えるでしょう。100万円投資して年間の経費が800円か430円かの違い。
このレベルの経費率の違いで判断するような話ではありません。
「VT一本」のメリット・デメリット
まずは全世界株式「VT一本」で投資するメリットとデメリットから。
「VT一本」のメリット
- ほったらかせる(リバランスが不要)
「VT一本」のデメリット
- 自分で割合を調整できない
- 新興国の成長実感は、ほぼなし
それぞれ見ていきましょう。
メリット:ほったらかせる(リバランスが不要)
「VT」の唯一にして至高のメリットは、これ一本でほったらかせるところ。
時価総額加重平均で全世界に分散投資するということは、全世界の人類の発展に丸ごとベットしているのと同じ。投資はギャンブルとは異なり期待値がプラスなので、全部の目にベットしてもプラスのリターンを得られます。
インデックス投資をする人の中には、本業で忙しくしていて、日頃チャートや経済ニュースのチェックに時間を割けない人もいます。
でも現金のままでは機会損失になってしまうので、投資はしたい。でも時間はかけられない。そういう人には、全世界株式の「VT」は、誂え向きの銘柄です。
デメリット①:自分で割合を調整できない
メリットの裏返しになりますが、「VT」は全世界の株式がパッケージになってしまっているので、個別の国や地域の割合を、増やしたり減らしたりでがきません。
もしどこかの国で、株価を大きく下げる出来事があったとしましょう。個別に投資していれば早めに売って資金回収できます。ところが「VT」は個々の国を切り離せないので、ノーガードで損失を受け入れるしかなくなります。
また新興国が伸びそうだから割合を増やしたいと思っても、そのような調整はできません。ちなみに「VT」とは別に、新興国株「VWO」を買う手もありますが、これは推奨できません。
「VT」の中にも新興国株が含まれており、かつ株式市場の趨勢によって割合が変わります。そうすると、ポートフォリオ内の新興国の割合を調整する作業が、非常に煩雑になってしまうからです。
デメリット②:新興国の成長実感は、ほぼなし
現状は、全世界の株式市場に占める、新興国株の割合は10%程度しかありません。
もちろん、中国やインド、ブラジル、インドネシアなどが成長すれば、全世界に占める割合も増えていきます。ただ、新興諸国の成長過程のリターン実感はほぼないと思われます。
例えば、中国の時価総額が3年で+100%(つまり2倍)成長したとしましょう。これはとんでもない成長率です。ですが、全世界株式のリターンは+5%かそこらにしかなりません。
一方で過半数を占める米国が、これまでの平均通りに1年間で+10%成長すれば、1年間で+5%のリターンになります。
「VTI・VEA・VWOの組み合わせ」のメリット・デメリット
続いて「VTI+VEA+VWO」で投資するメリットとデメリットです。
「VTI+VEA+VWO」のメリット
- 自分で割合を調整できる
- リターンを大きくできる可能性がある
- より相場感が身に付く
「VTI+VEA+VWO」のデメリット
- リバランスを自分で行う必要がある
それぞれ見ていきましょう。
メリット①:自分で割合を調整できる
やはりポートフォリオの割合を任意に調整できるのが、「VTI+VEA+VWO」の最大のメリットでしょう。
新興国を増やしたいと思えば「VWO」を増やします。逆に減らしたい人もいるので、それなら割合を減らせば良いだけ。自分の投資哲学やリスク許容度によって、柔軟な対応が可能です。
またどこかの国で株価が大きく下がりそうなニュースがあったときは、サッと売却して資金を避難させることも可能です。このような自由が効くのも大きなメリットです。
「VTI+VEA+VWO」ではなく、もっと細かく分けるのもありだと思います。中国株とインド株を分けたり。ただ分割するほど管理は面倒になるので、「VTI+VEA+VWO」は絶妙なラインかと。
メリット②:リターンを大きくできる可能性がある
実は、「VTI+VEA+VWO」の組み合わせにしたほうがリターンが大きくなる可能性があります。
割高になった銘柄を売却して、割安になった銘柄を購入することができるからです。
試しに、「VT一本」と「VTI:60+VEA:30+VWO:10」の組み合わせのリターンを比較してみましょう。(リバランスは年に1回と仮定)
VT | VTI+VEA+VWO | |
年平均成長率 | 12.10% | 13.21% |
*2009年1月〜2021年8月
ちなみにリバランスは、「割高になった銘柄を売り、割安になった銘柄を買う」を機械的に行う作業です。難しいことは何もなく、最初に決めた比率からズレた分を元に戻すだけ。
また一つ上のメリットでも紹介している通り、しばらく落ち目になりそうな銘柄を減らしたり、逆に伸びそうな銘柄を増やしたりできます。ポートフォリオの比率を変更することで、リターンを伸ばせる可能性があります。
メリット③:より相場感が身に付く
人間の脳は、日常目に入るあらゆる情報の中から、興味がある情報だけを取捨選択しています。心理学では「カラーバス効果」と呼ばれています。
投資においては、自分が保有している銘柄ほど、日頃の値動きが目に入るもの。何かしら株を持っている人は、自然とその銘柄だけ相場感が身についていることに気づくでしょう。
「VT」は良くも悪くも、全ての株式が一緒くたになっているので、「VT」以外の値動きに無頓着になりがちです。投資に脳のリソースを極力割きたくない人にはメリットかもしれませんが。
「VTI+VEA+VWO」の組み合わせで保有していれば、各国の値動きに敏感になります。自然と経済ニュースにも耳を傾けるようになるでしょう。いろんな銘柄に投資している方が、間違いなく金融リテラシーは上がります。
デメリット:リバランスを自分で行う必要がある
「VTI+VEA+VWO」の組み合わせの唯一のデメリットは、リバランスを自分で行わなければならない点です。
何年もほったらかしてしまうと、最初に想定していた各国の比率からズレが生じてしまうので、元の比率に調整しなければなりません。通常は半年か1年に1回リバランスを行います。
まとめ:ほったらかす or コントロールする
今回は、全世界株式に投資する場合に、「VT一本で行くか」「VTI+VEA+VWOの組み合わせでいくか」というややマニアックなテーマを解説してみました。
どちらを選ぶ人も、全世界に投資することには変わりませんが、重視するポイントによってどちらを選ぶかが変わります。
ほったらかし派には「VT」
面倒くさいからほったらかしたい人には、「VT」は最高の商品でしょう。時価総額加重平均の計算により、勝手に世界の株式市場の割合に調整されるからです。ほったらかしても取りこぼしはありません。
VTのコンセプトは、これ1本で地球に丸ごと投資するインデックスなので、基本的には他のインデックスと組み合わせることはしません。これ一本でドーンと構えるスタイルになります。
コントロールしたい派には「VTI+VEA+VWO」
一方で、よりポートフォリオをコントロールしたいなら、「VTI+VEA+VWO」がオススメ。
VTの場合、もし米国が落ち目になったとしたら、ただただ値下がっていくのを横目で見ていくことになります。「VTI+VEA+VWO」なら、米国を早めに切って、他の国の比率を増やす調整ができます。
新興国の雲行きが怪しくなったときも同じです。VTなら損失を受け入れるしかありませんが、「VTI+VEA+VWO」なら下がる前に早めに切ることができます。
長い目で見て、よりリスクを抑えた立ち回りができるのは「VTI+VEA+VWOの組み合わせ」でしょう。個人的にはこちらの方がメリットが大きいと思います。
なお「全世界株式」にするか、「米国株式オンリー」でいくかというのは、さらに白熱する議論のテーマとなっています。
興味があるの人は、「全世界株式 vs 米国株式オンリー」のどちらを選ぶべきかを解説した記事もチェックしてみてください。