よく投資信託やETFで「セクター比率」が出てきますよね。スルーしている人や、「ふーん、そうなんだ」と何となく見た気になっている人が多いのではないでしょうか?
米国株の場合は全部で11のセクターがあり、その下にさらに細かい分類があります。例えば、「金融」「不動産」「エネルギー」といった具合です。
「S&P500」や「全世界株式」のような広く分散できる商品に投資している人は、セクター比率を気にしていない人も多いかと。ですが、分散しているように見えて、セクター比率が偏っている商品もあるんですよね。
なぜみんながセクター比率を気にしているかというと、景気動向によって、株価が上がるセクターが変わってくるからです。好況で伸びるセクターもあれば、不況に強いセクターもあるわけです。
この記事では、
- 米国株で用いられる11種のセクターとは?
- セクター毎の伸びるタイミング(セクターローテーション)とは?
- セクターを意識すべき人・そうでない人
- 各セクターに投資できる代表的なETF
を解説しています。
個別株に投資している人はもちろんですが、意識が薄くなりがちなインデックス投資や高配当ETFをやっている人は、ぜひチェックしてもらえればと思います。
米国株における全11セクター
米国株におけるセクターの分類には、「GICS(ギックス)」が使われます。「GICS」は、”Global Industry Classification Standard”の略で、日本語では「世界産業分類基準」と呼びます。
1999年に米国の格付け会社「S&P(スタンダード&プアーズ)」と、機関投資家向けの指数を提供している「MSCI(モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル)」が開発した産業分類です。
世界中の産業を、
- 大項目:11のセクター
- 中項目:24の産業グループ
- 小項目:69の産業
- さらに小項目:158の産業サブグループ
に分類しています。ピラミッド状に、次のような構造をイメージしてもらえればと。
GICSの11のセクター
- Energy(エネルギー)
- Materials(素材)
- Industrials(資本財)
- Consumer Discretionary(一般消費財)
- Consumer Staples(生活必需品)
- Health Care(ヘルスケア)
- Financials(金融)
- Information Technology(情報技術)
- Communication Services(コミュニケーションサービス)
- Utilities(公益事業)
- Real Estate(不動産)
なお米国株には、「全世界株式」や「新興国株式」といった米国以外に投資できる商品もありますが、セクターの考え方は同様です。日本のファンドが取り扱っている外国株の投資信託も、ほぼ同じと思って大丈夫です。
それでは各セクター毎の特徴や、代表的な銘柄を見ていきましょう。
1.Energy(エネルギー)
エネルギーはイメージしやすいと思います。よりイメージしやすいように、下位の分類と一緒に見ていきましょう。
セクター | 産業グループ | 産業 |
ENERGY(エネルギー) | ENERGY(エネルギー) | ENERGY EQUIPMENT & SERVICES(エネルギー設備・サービス) |
OIL, GAS & CONSUMABLE FUELS(石油・ガス・消耗燃料) |
「ENERGY EQUIPMENT & SERVICES」は、石油やガスの掘削をする業者や、掘削に用いる機器を製造する業者のこと。エネルギーの周辺産業ですね。
「OIL, GAS & CONSUMABLE FUELS」石油とガスの探査や生産、精製、販売といったエネルギーそのものを扱う産業です。
代表的なエネルギーセクター銘柄
- Exxon Mobil Corporation
- Chevron Corporation
- ConocoPhillips
2.Materials(素材)
日本でイメージされる「素材」よりも広い概念です。
セクター | 産業グループ | 産業 |
MATERIALS(素材) | MATERIALS(素材) | CHEMICALS(化学) |
CONSTRUCTION MATERIALS(建設資材) | ||
CONTAINERS & PACKAGING(容器・包装) | ||
METALS & MINING(金属・鉱業) | ||
PAPER & FOREST PRODUCTS(紙製品・林産品) |
化学、建材、容器、鉄鋼、林業、製紙業などがまるっと入っているイメージです。日本で言えば、信越化学工業や三菱ケミカル、AGC、日本製鉄といったところでしょう。
代表的な素材セクター銘柄
- Linde plc
- Sherwin-Williams Company
- Air Products and Chemicals Inc.
3.Industrials(資本財)
「資本財」はあまり聴き慣れない言葉ですね。資本財は経済学用語で、最終的な商品を作るまでの生産過程に必要なもの全般(ただし、土地と人間の労働力は除く)を指します。
セクター | 産業グループ | 産業 |
INDUSTRIALS(資本財) |
CAPITAL GOODS(資本財) |
AEROSPACE & DEFENSE(航空宇宙・防衛) |
BUILDING PRODUCTS(建設関連製品) | ||
CONSTRUCTION & ENGINEERING(建設・土木) | ||
ELECTRICAL EQUIPMENT(電気設備) | ||
INDUSTRIAL CONGLOMERATES(コングロマリット) | ||
MACHINERY(機械) | ||
TRADING COMPANIES & DISTRIBUTORS(商社・流通業) | ||
COMMERCIAL & PROFESSIONAL SERVICES(商業・専門サービス) | COMMERCIAL SERVICES & SUPPLIES商業サービス・用品) |
|
PROFESSIONAL SERVICES(専門サービス) | ||
TRANSPORTATION(運輸) |
AIR FREIGHT & LOGISTICS(航空貨物・物流サービス) | |
AIRLINES(旅客航空輸送業) | ||
MARINE(海運業) | ||
ROAD & RAIL(陸運・鉄道) | ||
TRANSPORTATION INFRASTRUCTURE(運送インフラ) |
「CAPITAL GOODS」が典型的な資本財で、工業用機械や建設機械、重工業などが含まれます。ここがメインどころになってきます。
他には事務用品や、物流など幅広い分野にまたがっています。
代表的な資本財セクター銘柄
- United Parcel Service Inc.
- Honeywell International Inc.
- Union Pacific Corporation
- Boeing Company
4.Consumer Discretionary(一般消費財)
「一般消費財」も経済学用語で、イマイチ中身がピンと来づらいと思います。
まず「消費財」とは、一般消費者が購入する最終的に出来上がった製品のこと。個人がお店やネットで購入できるものは、みな消費財です。基本的にはBtoCの産業です。
「一般消費財」は、景気によって需要が左右される消費財を指しています。カンタンに言えば、ボーナスが出たら買いたくなり、給料が下がったら買い控えるようなものです。
セクター | 産業グループ | 産業 |
CONSUMER DISCRETIONARY(一般消費財) |
AUTOMOBILES & COMPONENTS(自動車・自動車部品) |
AUTO COMPONENTS(自動車部品) |
AUTOMOBILES(自動車) | ||
CONSUMER DURABLES & APPAREL(耐久消費財・アパレル) | HOUSEHOLD DURABLES(家庭用耐久財) | |
LEISURE PRODUCTS(レジャー用品) | ||
TEXTILES, APPAREL & LUXURY GOODS(繊維・アパレル・贅沢品) | ||
CONSUMER SERVICES(消費者サービス) | HOTELS, RESTAURANTS & LEISURE(ホテル・レストラン・レジャー) | |
DIVERSIFIED CONSUMER SERVICES(各種消費者サービス) | ||
RETAILING(小売) |
DISTRIBUTORS(販売) | |
INTERNET & DIRECT MARKETING RETAIL(インターネット販売・通信販売) | ||
MULTILINE RETAIL(複合小売) | ||
SPECIALTY RETAIL(専門小売) |
一般消費者に馴染みのある産業ばかりなので、名前を見れば、大体中身が想像できるのではないでしょうか。いずれもお財布事情で、買うor買わないが別れやすい産業ですね。
代表的な一般消費財セクター銘柄
- Amazon.com Inc.
- Tesla Inc
- Home Depot Inc.
- NIKE Inc.
- McDonald’s Corporation
5.Consumer Staples(生活必需品)
「生活必需品」は、景気が良かろうが悪かろうが、関係なく買われる消費財です。
セクター | 産業グループ | 産業 |
CONSUMER STAPLES(生活必需品) | FOOD & STAPLES RETAILING(食品・生活必需品小売) | FOOD & STAPLES RETAILING(食品・生活必需品小売) |
FOOD, BEVERAGE & TOBACCO(食品・飲料・タバコ) | BEVERAGES(飲料) | |
FOOD PRODUCTS(食品) | ||
TOBACCO(タバコ) | ||
HOUSEHOLD & PERSONAL PRODUCTS(家庭用品・パーソナル用品) | HOUSEHOLD PRODUCTS(家庭用品) | |
PERSONAL PRODUCTS(パーソナル用品) |
一般消費者にもイメージしやすい、スーパーマーケットや飲料メーカー、洗剤やシャンプーなどの日用品が含まれています。
代表的な生活必需品セクター銘柄
- Procter & Gamble Company
- Coca-Cola Company
- PepsiCo Inc.
- Walmart Inc.
6.Health Care(ヘルスケア)
「ヘルスケア」は、読んで字のごとくヘルスケア関連のセクターです。
セクター | 産業グループ | 産業 |
HEALTH CARE(ヘルスケア) | HEALTH CARE EQUIPMENT & SERVICES(ヘルスケア機器・サービス) | HEALTH CARE EQUIPMENT & SUPPLIES(ヘルスケア機器・用品) |
HEALTH CARE PROVIDERS & SERVICES(ヘルスケア・プロバイダー/ヘルスケア・サービス) | ||
HEALTH CARE TECHNOLOGY(ヘルスケア・テクノロジー) | ||
PHARMACEUTICALS, BIOTECHNOLOGY & LIFE SCIENCES(医薬品・バイオテクノロジー・ライフサイエンス) | BIOTECHNOLOGY(バイオテクノロジー) | |
PHARMACEUTICALS(医薬品) | ||
LIFE SCIENCES TOOLS & SERVICES(ライフサイエンス・ツール/サービス) |
ヘルスケアセクターでは、医薬品の企業が上位に来ている印象です。
代表的なヘルスケアセクター銘柄
- Johnson & Johnson
- UnitedHealth Group Incorporated
- Pfizer Inc.
7.Financials(金融)
「金融」は、日本でイメージする金融業界とほとんど同じです。
セクター | 産業グループ | 産業 |
FINANCIALS(金融) | BANKS(銀行) | BANKS(銀行) |
THRIFTS & MORTGAGE FINANCE(貯蓄・抵当・不動産金融) | ||
DIVERSIFIED FINANCIALS(各種金融) |
DIVERSIFIED FINANCIAL SERVICES(各種金融サービス) | |
CONSUMER FINANCE(消費者金融) | ||
CAPITAL MARKETS(資本市場) | ||
MORTGAGE REAL ESTATE INVESTMENT TRUSTS (REITS) | ||
INSURANCE(保険) | INSURANCE(保険) |
銀行や、保険、投資会社が含まれています。
代表的なヘルスケアセクター銘柄
- Berkshire Hathaway Inc.
- JPMorgan Chase & Co.
- Bank of America Corp
8.Information Technology(情報技術)
「情報通信」は、すなわちITのことです。
セクター | 産業グループ | 産業 |
INFORMATION TECHNOLOGY(情報技術) | SOFTWARE & SERVICES(ソフトウェア・サービス) | IT SERVICES(情報技術サービス) |
SOFTWARE(ソフトウェア) | ||
TECHNOLOGY HARDWARE & EQUIPMENT | COMMUNICATIONS EQUIPMENT(通信機器) | |
TECHNOLOGY HARDWARE, STORAGE & PERIPHERALS(コンピュータ・周辺機器) | ||
ELECTRONIC EQUIPMENT, INSTRUMENTS & COMPONENTS(電子装置・機器・部品) | ||
SEMICONDUCTORS & SEMICONDUCTOR EQUIPMENT(半導体・半導体製造装置) | SEMICONDUCTORS & SEMICONDUCTOR EQUIPMENT(半導体・半導体製造装置) |
ハードウェアや半導体のメーカー、OSやBtoB向けソフトウェアメーカーは、「情報技術セクター」に含まれています。AppleとMicrosoftの2枚看板となっています。
「IT」と聞くと、GAFAMが全部入ってくるのかなと思いきや、そうではありません。一般消費者が使うインターネットサービスは、お次の「通信サービスセクター」に含まれます。GoogleやFacebookはそちら側になります。
代表的な情報技術セクター銘柄
- Apple Inc.
- Microsoft Corporation
- NVIDIA Corporation
- Visa Inc.
- PayPal Holdings Inc
9.Communication Services(コミュニケーションサービス)
「通信サービス」と聞くと、電話やインターネットの通信キャリアを思い浮かべますが、ここでは個人向けのインターネットサービスも含んだ概念になっています。
セクター | 産業グループ | 産業 |
COMMUNICATION SERVICES(コミュニケーション・サービス) | TELECOMMUNICATION SERVICES(通信サービス) | DIVERSIFIED TELECOMMUNICATION SERVICES(各種電気通信サービス) |
WIRELESS TELECOMMUNICATION SERVICES(無線通信サービス) | ||
MEDIA & ENTERTAINMENT(メディア・エンターテイメント) | MEDIA(メディア) | |
ENTERTAINMENT(エンターテインメント) | ||
INTERACTIVE MEDIA & SERVICES(インタラクティブ・メディアおよびサービス) |
FacebookとGoogleが、「通信サービスセクター」の2枚看板になっています。ディズニーやNetflixなんかもこのセクターに含まれます。
他には、ベライゾンなどの大手通信キャリア(日本で言うところのNTT、KDDI、ソフトバンク)が入ってきます。
代表的な通信サービスセクター銘柄
- Facebook Inc.
- Alphabet Inc.
- Charter Communications Inc.
- Comcast Corporation
10.Utilities(公益事業)
「公益事業」は、通信を除いた生活インフラ系の産業です。
セクター | 産業グループ | 産業 |
UTILITIES(公益事業) | UTILITIES(公益事業) | ELECTRIC UTILITIES(電力) |
GAS UTILITIES(ガス) | ||
MULTI-UTILITIES(複合公益事業) | ||
WATER UTILITIES(水道) | ||
INDEPENDENT POWER AND RENEWABLE ELECTRICITY PRODUCERS(独立系発電事業者・エネルギー販売業者) |
この辺りも日本の電力・ガス会社と同じと思ってもらえれば良いかと。日本の場合、水道は自治体が運営しているので、ここはちょっと事情が違いますね。
代表的な公益事業セクター銘柄
- NextEra Energy Inc.
- Duke Energy Corporation
- Southern Company
11.Real Estate(不動産)
「不動産」は、イメージ通りの不動産業界です。
セクター | 産業グループ | 産業 |
REAL ESTATE(不動産) | REAL ESTATE(不動産) | EQUITY REAL ESTATE INVESTMENT TRUSTS (REITS)(エクイティ不動産投資信託) |
REAL ESTATE MANAGEMENT & DEVELOPMENT(不動産管理・開発) |
もっと色々分類できそうですが、投資の世界ではそこまで細かい分類は重要ではないのかもしれません。
代表的な公益事業セクター銘柄
- American Tower Corporation
- Prologis Inc.
- Crown Castle International Corp
なお各セクターの代表的な銘柄は、「Finviz」というサイトで一望できます。
ヒートマップになっていて、面積が大きいセクターは、それだけ時価総額の割合が大きいセクターとなっています。
各セクターの中で面積の大きい銘柄は、そのセクターの中で時価総額が大きい代表選手ということになります。
なお、「Consumer Discretionary(一般消費財)」は、「Consumer Cyclical」と表現されています。”Cyclical(シクリカル)”とは、循環的な景気変動を指す用語。意訳するなら、「景気敏感消費財」ってところです。
対比になる「Consumer Staples(生活必需品)」は、「Consumer Defensive」と書かれています。生活必需品は、景気によって需要が変わらない不況に強い銘柄なので、「ディフェンシブ消費財」と表現されています。
(参考)ちなみに日本株は全33セクターある
日本で使われているセクターの分類(産業分類)は、別の指標が使われています。
東京証券取引所を運営している日本取引所グループ(JPX)では、総務省が定める「日本標準産業分類」に基づき、33の業種に分類しています。
水産・農林業 | 鉄鋼 | 空運業 |
鉱業 | 非鉄金属 | 倉庫・運輸関連業 |
建設業 | 金属製品 | 情報・通信業 |
食料品 | 機械 | 卸売業 |
繊維製品 | 電気機器 | 小売業 |
パルプ・紙 | 輸送用機器 | 銀行業 |
化学 | 精密機器 | 証券、商品先物取引業 |
医薬品 | その他製品 | 保険業 |
石油・石炭製品 | 電気・ガス業 | その他金融業 |
ゴム製品 | 陸運業 | 不動産業 |
ガラス・土石製品 | 海運業 | サービス業 |
JPXのサイトから、「リアルタイム株価指数値一覧」から、各業種の最新情報をチェックできます。
セクターローテーションとは?
なぜわざわざセクターをチェックしているかというと、景気動向とそれに反応した金融政策によって、儲かるセクターが変わってくるからです。
景気動向によって投資するセクターを切り替える投資戦略を、「セクターローテーション」と呼びます。
セクターローテーションでは、「景気動向」と「金利」により、
- 成熟期
- 後退期
- 停滞期
- 拡大期
の4象限を区分し、それぞれでどのセクターが伸びやすいかを図示しています。
景気の良い「成熟期」であれば、お財布に余裕があるので、車や家電といった「一般消費財」が買われるように。それを作るため、「素材」や「資本財」も連動して業績が良くなります。
これらのセクターは、「景気敏感銘柄」や「シクリカル銘柄」と呼ばれます。(シクリカル=”Cyclical”は、循環的な景気変動を指す用語)
景気後退が進み「停滞期」に入ると、財布の紐は堅くなります。ただし、食品や洗剤などの「生活必需品」は買わないわけにはいきません。「公益事業(電気・ガス・水道)」も使わないわけにはいきません。
これらのセクターは、「ディフェンシブ銘柄」と呼ばれます。
両者の違いは、景気敏感銘柄とディフェンシブ銘柄の解説記事で、より詳しく説明しています。
なお今現在の相場が、4象限のどこに位置しているかを示す絶対的な指標はありません。
どのセクターが伸びているかを観察して、4象限のどこにいるのかを逆引きするのも一つの手でしょう。金利の上がり下がりをウォッチするのも良いでしょう。
なぜ「成熟」「後退」「停滞」「拡大」の循環を辿るのか?
なぜこのような循環を辿るのか疑問に感じる人もいると思うので、軽く触れておきます。
①成熟期
まず「成熟期」で景気が良いと、物がよく売れて物価が上がる「インフレ」の状態になります。緩やかにインフレしていくのが経済の理想的な状態です。
ほどほどのインフレなら良いのですが、インフレが加速しそうになると、政府や中央銀行はセーブをかけるために金利を引き上げます。これを「金融引き締め」と呼びます。
②後退期
金利が上がると、会社はお金を借りて事業に投資がしづらくなり、個人はローンを組むような買い物は控えるようになります。
結果として加熱した景気は鎮静化。加熱した景気は一転して後退していきます。
③停滞期
景気が悪くなれば、だんだん需要が減って、物が売れなくなっていきます。物が売れなくなれば、会社の給料も減ってしまい、ますます需要は減ってしまうでしょう。
そうなると物価が下がる「デフレ」に突入します。デフレを放置すると、景気が連鎖的に悪くなる「デフレスパイラル」に発展します。
デフレは政府や中央銀行がもっとも恐れる状態。そのため、今度は金利を下げて、需要を喚起させようとします。これを「金融緩和」と呼びます。
④拡大期
金利が下がり、需要が戻ってきたことで、一度後退しかけた景気は正常に戻っていきます。そうなると景気はどんどん良くなって、物価が上がる「インフレ」に突入します。
以降は「①成熟期」に戻って、これを延々と循環することになります。
なおこの景気循環は、株式市場の「金融相場」「業績相場」の循環と重なります。株式相場のサイクルを解説している記事も参考にしてもらえればと思います。
セクターを意識しすべき人・気にしなくても良い人
まず短期・中期のトレードをしている人であれば、セクターは意識しておきたいところ。
長期投資をしている人でも、個別銘柄に投資をしているならセクターを意識した方が良いでしょう。自分のポートフォリオのセクター比率をチェックして、偏っていないかチェックしたいですね。
ここまではイメージしやすいと思いますが、投資信託やETFで運用している人はどうでしょうか?
「S&P500」や「全世界株式」なら気にしなくても良い
インデックス投資の代表格が、「S&P500」や「全世界株式」です。他には「全米株式」「先進国株式」に投資をしている人も多いと思います。
結論を先に言うと、この辺りのインデックスに投資している人は、セクター比率を気にする必要はないと思います。
例えば「S&P500」は全米のTOP500社を集めた株価指数。各セクターがごちゃ混ぜに入っており、時価総額が大きい会社ほど大きな割合になるよう(時価総額加重平均)になっています。
そのため何もしなくても、自然と伸びているセクターの比率が高くなるように調整されます。市場の生態系に任せておけば、自然と最適な状態が保たれるイメージですね。
もしかしたらバランス悪く見えるかもしれませんが、これが標準的なセクター比率と考えるのが妥当でしょう。
カバーする範囲は異なりますが、「全世界株式」などの他のインデックスも同じ構造です。同様にセクター比率を意識する必要はないと思われます。
特定のテーマで括られた投資信託やETFは、セクター比率に注意
「高配当ETF」や、「NASDAQ100」といった、特定のテーマに沿って銘柄選定されている商品に投資をしている場合は、セクター比率を意識した方が良いと思います。
例えば、高配当ETFで人気がある「SPYD」は、金融・不動産に寄ったセクター比率になっています。
S&P500が自然な状態だとすれば、少々歪ですね。好況期ではハイテク株のリターンを取りこぼすかも。
もう一つの例は、NASDAQ100に投資できるETFの代表格「QQQ」。NASDAQはハイテク企業が集まる証券取引所です。
当然ながらITに大きく偏ったセクター比率に。景気が悪くなり、生活必需品やエネルギーなどのディフェンシブ株が強いタイミングでは、ズタボロになっているかも。
なおこれらの商品が悪いわけでは決してありません。むしろとても優れた商品だと思います。
言いたいのは、「これらの商品に投資するなら、ポートフォリオ全体でセクター比率を考えましょう」ということです。S&P500のセクター比率が、一つの解になるかなと思います。
各セクターにまるっと投資できるETF
セクターローテーションに則って投資をするとしても、個別銘柄まで選定するのはカンタンではありません。全体的には調子が良いセクターでも、中には株価が下がってしまう銘柄もあるでしょう。
そんなわけで、セクターに投資する場合はETFがオススメ。ETFを使えば、そのセクターに含まれる銘柄にまとめて投資できるからです。個別銘柄まで選ばなくても良いのです。
そんなセクター別に投資できるETFは、
- ステートストリート
- バンガード
の2社の商品が代表選手です。
それぞれ次のような名前のラインナップになっています。
セクター | ステートストリート | バンガード |
エネルギー | XLE | VDE |
素材 | VAW | XLB |
資本財 | XLI | VIS |
一般消費財 | XLY | VCR |
生活必需品 | XLP | VDC |
ヘルスケア | XLV | VHT |
金融 | XLF | VFH |
情報技術 | XLK | VGT |
コミュニケーションサービス | XLC | VOX |
公益事業 | XLU | VPU |
不動産 | XLRE | なし |
ステートストリート | バンガード | |
経費率 | 0.12% | 0.1% |
対象銘柄 | S&P500の大型株 | 全米の大型・中型・小型株 |
経費率はバンガードの方が低くなっていますが、どちらも十分低コストと言えるでしょう。
両者の大きな違いは、カバーする銘柄の分散具合です。
ステートストリート社の方は、「S&P500」に含まれる500社を、各セクターに分割しています。
単純計算するなら、「500社 ÷ 11セクター = 1セクターあたり平均45社」に分散投資することになります。
バンガードの方は、全米の大型・中型・小型株が対象。全米4,000の上場企業の、総時価総額の98〜99%までカバーしています。そこから11セクターに分割している格好です。
とはいえ、S&P500だけで、全米の時価総額の85%を占めると言われているので、どちらに投資をしてもパフォーマンスに大きな違いは出ないでしょう。
ITに投資すれば「アップル」の割合が大きく、エネルギーに投資すれば「エクソンモービル」の割合が大きいことに変わりありません。バンガードの方が、ちょこっと割合が小さくなるくらい。
まとめ
今回は米国株の、全部で11業種のセクターについて解説してみました。
もう一度おさらいしましょう。
GICSの11のセクター
- Energy(エネルギー)
- Materials(素材)
- Industrials(資本財)
- Consumer Discretionary(一般消費財)
- Consumer Staples(生活必需品)
- Health Care(ヘルスケア)
- Financials(金融)
- Information Technology(情報技術)
- Communication Services(コミュニケーションサービス)
- Utilities(公益事業)
- Real Estate(不動産)
「セクターローテーション」により、各セクターがリターンを上げやすいタイミングは異なります。個別株に投資する人や、市場平均より高いリターンを出したい人は押さえておきたいですね。
「S&P500」や「全世界株式」のような、銘柄選定に手心が加わっていない投資信託やETFであれば、セクター比率は気にしなくても問題ないでしょう。市場の生態系によって自然とセクター比率が調整されます。
ただし「高配当ETF」のような、何かしらのテーマで括られた商品は注意が必要。特定のセクターに偏っているケースがあるためです。タイミングによっては、市場平均よりリターンが低くなる可能性があります。
投資信託やETFであっても、「分散投資できるから大丈夫♪」と慢心せず、セクター比率を気にして投資するのが良いのではないかと思います。
と思ったら、S&P500のような総合的なインデックスファンドに投資するのがオススメです。