株式には、「景気敏感銘柄」と「ディフェンシブ銘柄」という2つの属性が存在します。どちらが良い悪いということではなく、どちらにもメリット・デメリットがあります。
例えば、「ホンダ」は景気敏感銘柄で、「NTT」はディフェンシブ銘柄です。ただ初見では、どの銘柄が景気敏感で、どの銘柄がディフェンシブなのかさっぱりわかりませんよね。
この記事では、
- 景気敏感銘柄とディフェンシブ銘柄の本質的な違い
- 景気敏感銘柄とディフェンシブ銘柄の見分け方
- 両者をどのように使いこなすか?
を解説しています。
今まで意識していなかった人は、ぜひチェックしてもらえればと思います。
景気敏感銘柄とディフェンシブ銘柄の違い
最初に両者の違いをざっと確認しておきましょう。次の通りです。
景気敏感銘柄 | ディフェンシブ銘柄 | |
景気との連動性 | 連動しやすい | 連動しづらい |
値動きの大きさ | 大きい | 小さい |
得られるリターン | キャピタルゲイン (値上がり益) |
インカムゲイン (配当) |
両者の見分け方は、「その企業の製品に対する需要が、景気の良し悪しによって変わるか否か」にかかっています。本質的な違いはこれだけです。
- 景気がよくなったときに、財布の紐が緩くなって買うようなものを売っている企業なら、その銘柄は「景気敏感銘柄」です。
- 景気がよかろうが悪かろうが、需要が変わらない商品を扱っている企業なら「ディフェンシブ銘柄」です。
実際には個別銘柄ごとに「景気敏感」か「ディフェンシブ」かが分かれるというよりは、業種(セクター)ごとに分かれているというのが一般的な考え方です。
もしかしたらNTTとKDDIでは、同じ業種でも中身が違うので、厳密には景気によって左右される売上の割合も異なるかもしれません。
ただ投資家は、同じ業種であれば同じように動くだろうと予想します。そもそも社内関係者ですら事業の行く末を正確に掴めないのに、外野にできるわけもなく。そんなわけで、値動きは業種ごとに連動する傾向があります。
景気敏感銘柄(シクリカル銘柄)とは?
まずは景気の良し悪しで業績が変わりやすい「景気敏感銘柄」から見ていきましょう。
景気敏感銘柄は、「景気循環銘柄」とも呼ばれます。景気循環を指す英単語が”cyclical(シクリカル)”であることから、「シクリカル銘柄」とも呼ばれています。
日米の代表的な景気循環銘柄の業種は、次の通りです。
日本 | 米国 |
鉄鋼 | 素材 |
化学 | |
紙パルプ | |
精密機械 | 資本財 |
運輸 | |
自動車などの各種メーカー | 一般消費財 |
銀行 | 金融 |
米国と日本で、業種(セクター)を括る大項目が異なります。
米国のセクターは、日本でいうところの大項目を括る「大々項目」があると思っていただければと。中に入ってくる個々の企業の性質は同じです。
景気循環銘柄を理解するためのストーリー
これらの業種(セクター)が景気によって需要が左右される理由は、ストーリー仕立てで考えるとわかりやすいと思います。
まず、景気が良くなって給料やボーナスが増えたとしましょう。そんなときに買うものはなんでしょうか?
「今より良い車」「最新の家電」「ブランド物」といったところではないでしょうか?これらは生活に必須ではなく、余裕があれば買いたいと思うものです。つまり景気に需要が左右されているわけです。
次に出てくるのは、その車やら、家電やら、ブランド物の服やバッグを作っているメーカーが、需要増に応えるために何をするかを考えてみましょう。
メーカーは原材料を仕入れる必要がありますね。「鉄鋼」「素材」「繊維」などなど。車や家電であれば、半導体のような「精密機械」なんかも必要です。これらも連動して、景気によって需要が変わります。
さらにメーカーが増産するためには、資金調達しなければならないため、「銀行」もこのサイクルの中に入ってきます。加えて、原材料や商品を運ぶための「運輸」も絡んできます。
このような一連の流れに含まれる業種(セクター)が、「景気敏感銘柄」となります。
景気敏感銘柄のメリット/デメリット
景気敏感銘柄のメリットは、うまく景気の波を掴めれば、大きなキャピタルゲイン(株価の値上がり益)を期待できることです。
景気が冷えているうちに景気敏感銘柄を買っておき、景気が過熱する兆候が見えて、株価が上がったところで売るイメージです。
裏を返せば景気が悪くなると株価が下がってしまい損失が出てしまうので、売り買いのタイミングを見誤らないようにしなければなりません。ここがデメリットになってきます。
ディフェンシブ銘柄とは?
景気敏感銘柄の対義語が、「ディフェンシブ銘柄」です。ディフェンシブという名の通り、守りが強い銘柄です。
何を守っているかというと、景気の良し悪しによる株価の変動からあなたを守ってくれます。より具体的には、不況で相場が暴落するシーンからあなたの資産を守ってくれる存在です。
ディフェンシブ銘柄には、景気によって需要が左右されづらい銘柄がノミネートされます。
日本 | 米国 |
食品 | 生活必需品 |
小売 | |
医薬品 | ヘルスケア |
通信 | コミュニケーションサービス |
電力 | 公益事業 |
ガス | |
鉄道 | – |
こちらも日米で業種の括りっぷりが異なりますが、中身はおおよそ同じと思っていただければと。
ただし米国では、「鉄道」は景気敏感銘柄に当たる「資本財」の方に入っています。米国における鉄道は、物を運ぶための物流産業がメインと考えられているのかもしれません。
ディフェンシブ銘柄を理解するためのストーリー
今度は、給料が減って財布の紐が固くなっても、変わらず買い続けるものを想像してみましょう。
例えば、「電気」「ガス」「通信」といった生活インフラですね。これらは生きていきために必要だから、インフラと呼ばれているわけです。これらは不況でも売上が落ちづらい業種です。
同じインフラ繋がりで、不況だろうが会社や学校には行かなければならないので、「鉄道」もディフェンシブ銘柄に入ってきます。
加えて、「食料品」も減らすわけにはいきません。それを購入するための「小売」もそうです。医薬品などの「ヘルスケア」も削れませんね。
ディフェンシブ銘柄のメリット/デメリット
ディフェンシブ銘柄は、景気の波による値動きが少ないので、大きな損失を出しづらい傾向があります。売り買いのタイミングで、大きな損失を被りづらいメリットがあります。
加えて、安定したビジネスを展開する大企業が多いので、比較的安定した配当を得られるメリットもあります。
ただ株式の世界は基本的に、
キャピタルゲイン(値上がり益) > インカムゲイン(配当)
なので、トータルリターンでは景気敏感銘柄に分があります。ディフェンシブ銘柄は、良くも悪くも(景気敏感銘柄に比べて)ローリスク・ローリターンなのです。
【注意!】ディフェンシブ銘柄といえど集中投資は危険
ローリスクローリターンになりやすいディフェンシブ銘柄は、投資に慣れていない人も比較的扱いやすい銘柄です。
以前は東京電力の株を買っておけば、値下がりせずに永遠に配当をもらえると言うことで、退職金のほとんどをぶち込む人が結構いたそうです。
ですが結果は周知の通り。どんなに安定した大企業でもリスクはあるのです。これは事前に目利きをしておけば避けられる類のリスクではありません。
大事なことは、一つのカゴに全ての卵を盛らないこと。ディフェンシブ銘柄であっても一極集中投資はかなり危険です。分散投資を心がけたいですね。
景気敏感銘柄とディフェンシブ銘柄をチャートで確認
実際にチャート「景気敏感銘柄」と「ディフェンシブ銘柄」で、チャートがどのくらい違うのかをチェックしてみましょう。
個別銘柄だとバラツキが出そうなので、米国のセクターETFの推移を見てみたいと思います。セクターETFとは、その業種の個別株に丸っと投資できる、詰め合わせパックみたいな株のことです。
わかりやすい対比として、
- 一般消費財セクターのETF「XLY」
:車、ブランド物、外食などが入っている
- 生活必需品セクターのETF「XLP」
:日用品、飲料、スーパーマーケットなどが入っている
で比べてみたいと思います。
やっぱりディフェンシブ銘柄の方が、角度がなだらかですね。
続いて2008年ごろのリーマンショック前後にフォーカスして見てみましょう。
ディフェンシブな「XLP」の方が値下がり幅が小さいことがよくわかりますね。
景気敏感銘柄とディフェンシブ銘柄の使い分け方
- まだリタイアまで時間がある人は、「景気敏感銘柄」で大きなリターンを狙う。
- すでにリタイアした人やリタイアが近い人は、リスクを抑えて「ディフェンシブ銘柄」から配当をもらう。
これがよくある使い分けかなと思います。
そのほかには両者の良さを組み合わせて、もっと高いリターンをあげる方法もあります。
セクターローテーションの波に乗ってリターンを最大化する
景気の良し悪しは、ランダムに訪れるわけではなく、一定の周期で巡り巡っているという考え方があります。これを「セクターローテーション」と呼びます。
セクターローテーションの波に乗る事で、景気が良いときは「景気敏感銘柄」でガッツリ儲けて、景気が悪いときは「ディフェンシブ株」で手堅く増やしいく戦略を取れるようになります。
セクターやセクターローテーションについては、「米国株の全セクターとは?セクターローテーションを意識したポートフォリオを持とう!」で詳細に解説しています。
個別銘柄が面倒ならセクターETFはいかが?
セクターローテーションの波に乗るとしても、個別株を選りすぐるのは大変ですよね。
そもそもセクターローテーションの波を見極めるのもカンタンな事ではないので、個別銘柄まで選ぶなんてもう上級者編ですね。
個別銘柄を選ぶのが難しい人や、面倒に感じる人には、セクター別のETFをオススメします。
セクター | ステートストリート | バンガード |
エネルギー | XLE | VDE |
素材 | VAW | XLB |
資本財 | XLI | VIS |
一般消費財 | XLY | VCR |
生活必需品 | XLP | VDC |
ヘルスケア | XLV | VHT |
金融 | XLF | VFH |
情報技術 | XLK | VGT |
コミュニケーションサービス | XLC | VOX |
公益事業 | XLU | VPU |
不動産 | XLRE | なし |
ぱっと見で中身がよくわからないセクターもあると思いますが、その辺りはセクター解説の関連記事をチェックしてみてください。
全部面倒ならインデックスにお任せで
という人はインデックス投資がオススメです。米国の「S&P500」や「全米株式」などです。「全世界株式」も良いですね。
この手のインデックスは「時価総額加重平均型」になっていて、カンタンにいえば時価総額が大きい銘柄がより大きな構成を占めるようになっています。
景気のローテーションによって、景気敏感銘柄が伸びれば、自然とその投資割合も大きくなります。不況で景気敏感銘柄が落ち目になったら、自然と投資割合を減らしてくれます。
セクターETFで波を狙って投資するよりもリターンはマイルドになりますが、ポートフォリオを手動で調整する必要がないので、初心者でも何ら難しいことはありません。