短期の株価は「投資家の心理」で動いていると言われています。そして、相場を動かしているのは心理はたったの2つ。「恐怖」と「強欲」です。
市場が「恐怖」で支配されているときは、暴落を恐れる投資家は売り急ぎます。市場が「強欲」で支配されているときは、更なる追加利益を貪るため、株式市場にどんどんお金が流れ込みます。
ですが、投資の格言にもある通り、「悲観で買って、楽観で売る」が利益を上げるには一番効果的。市場が恐怖で包まれている中で買い進め、市場が有頂天のときに売るのがベストです。
そんな逆張り投資に使えるのが、「恐怖・強欲指数(Fear & Greed Index)」。現在の市場が「恐怖」と「強欲」のどちらに傾いているかを、数値化して教えてくれる指標です。
この記事ではそんな「恐怖・強欲指数(Fear & Greed Index)」がどのようなロジックで計算されているのか?どのように活用できるのか?を解説しています。
米国株を中心としたインデックス投資をしている人は、恐怖・強欲指数の影響をモロに受けます。暴落のピンチをチャンスに変えたい人は、ぜひチェックしてみてください。
恐怖・強欲指数(Fear & Greed Index)とは?
恐怖・強欲指数(Fear & Greed Index)は、米国メディアのCNNが発表している一風変わった経済指標です。
CNNの専用ページから随時チェックできます。
米国の株式市場に対し、投資家が「強欲」に走って買い増しているのか、「恐怖」を感じて売りに回っているのかを0〜100の数値で教えてくれます。
見方は次の通りで、100に近いほど「強欲」を、0に近いほど「恐怖」を感じています。
恐怖・強欲指数の見方
- 0〜25:恐怖の極み(Extremely Fear)
- 26〜49:中立よりも恐怖寄り(Fear)
- 50:中立(Neutral)
- 51〜74:中立よりも強欲寄り(Greed)
- 75〜100:強欲の極み(Extremely Greed)
いわゆる「ブル・ベア」みたいな感じで、「強欲=強気のブル」「恐怖=弱気のベア」と捉えても良いかもしれません。
恐怖・強欲指数の7つの構成要素
恐怖・強欲指数(Fear & Greed Index)は、次の7つの指標の合成指標となっています。
恐怖・強欲指数を構成する7つの指標
- Stock Price Momentum(株価の勢い)
- Stock Price Strength(株価の強さ)
- Stock Price Breadth(株価の振れ幅)
- Put and Call Options(プット&コールオプション)
- Junk Bond Demand(ジャンク債の需要)
- Market Volatility(株価の変動率)
- Safe Haven Demand(安全資産の需要)
この手の指数を参考にする場合は、中身のロジックを理解しておくことが大切です。
細かい計算方法はさておき(というかわからないので)、各要素の意味はぜひ押さえておきましょう。
①Stock Price Momentum(株価の勢い)
モメンタム(momentum)は「勢い」という意味の英単語。投資の世界ではよく使われる用語で、株価の長期トレンドに対し、短期トレンドがどれほど上昇ないしは下落に勢いづいているかを表します。
恐怖・強欲指数(Fear & Greed Index)では、直近S&P500を125日移動平均線と比較し、どれほど乖離があるかを見ています。乖離が大きいほどモメンタム(勢い)が強いと判断されます。
直近のS&P500が125日移動平均線の上に来ていれば、買い圧力が強い、つまり「強欲」と判断されます。逆に125日移動平均線の下に来ていれば、売り圧力が強く、「恐怖」と判断されます。
②Stock Price Strength(株価の強さ)
ニューヨーク証券取引所(NYSE)の銘柄のうち、52週間(つまり直近1年間)の高値を更新した銘柄数と、安値を更新した銘柄数を比較しています。
もちろん、高値を更新した銘柄の数が勝れば「強欲」、安値を更新した銘柄数が勝れば「恐怖」と判断されます。
なおNYSEは米国の二大証券取引所の1つで、もう1つはNASDAQです。AppleやGoogleのようなハイテク企業はNASDAQに上場するケースが多く、NYSEは昔ながら産業が多めです。
③Stock Price Breadth(株価の振れ幅)
株価の上昇局面・下落局面での取引量を比較しています。
上昇局面での取引量が多ければ「強欲」、下落局面での取引量が多ければ「恐怖」と判断されます。
④Put and Call Options(プット&コールオプション)
プットオプションとコールオプションの出来高を比較しています。オプション取引とは、「決まった日に、決まった価格で、株を売買する権利」を売買する取引のこと。
それぞれ、
- 買う権利を売買する「コールオプション」
- 売る権利を売買する「プットオプション」
となります。
細かい話は蛇足になるのでここでは触れませんが、株価上昇を期待するコールオプションは「強欲」、株価下落を期待するプットオプションは「恐怖」を表しています。
⑤Junk Bond Demand(ジャンク債の需要)
「ジャンク債」と「投資適格債券」の利回り(イールド)の差を見ています。
ジャンク債とは格付けが低く、デフォルト(債務不履行)の可能性が相対的に高い債券のこと。投資適格債券と比べてリスクが高いので、ジャンク債の利回りは高くなります。
ジャンク債が買われて価格が上がると、利回りは下がっていき、投資適格債券との利回り差が小さくなります。リスクのあるジャンク債が買われている状況は「強欲」と判断できるでしょう。
ジャンク債が手放されて価格が下がると、利回りは上がり、投資適格債券との利回り差が大きくなります。リスク債券が嫌われる状況は「恐怖」と判断できます。実際にジャンク債の値下がりは、株価暴落の予兆になり得ます。
債券の格付けが違いが何を意味しているのか、いまいちピンと来ない人は、債券の格付けを解説した記事を参考にしてみてください。
⑥Market Volatility(株価の変動率)
ボラティリティ(volatility)は、「変動性」という意味の単語。投資の世界では値動きの激しさを表しています。
恐怖・強欲指数(Fear & Greed Index)では、「VIX指数」がボラティリティの尺度になっています。VIX指数自体も、恐怖・強欲指数と似た性質を持っています。
VIX指数は、投資家がS&P500が向こう30日にどれほど値動きがあるかの予想を数値化したもの。VIX指数が高まると暴落の予兆になるので、「恐怖指数」とも呼ばれています。
VIX指数が高いときは、投資家は株式市場の先行きを不透明に感じていて、「恐怖」と捉えられています。VIX指数が低いときは、市場に不安要素がなく、「強欲」と捉えられます。
恐怖・強欲指数よりも、VIX指数の方が広く使われています。重要な指標なので日頃からウォッチしておきたいところ。詳細は、VIX指数の解説記事をチェックしてみてください。
⑦Safe Haven Demand(安全資産の需要)
安全資産の代表は債券。ここでは債券と株式のリターンを比較しています。市場が強気の時ほど株式にお金が集まり、弱気のときは債券にお金が流れていきます。
株式のリターンが高い方が「強欲」、債券のリターンが高い方が「恐怖」と捉えられます。
恐怖・強欲指数を投資に生かす方法
恐怖・強欲指数(Fear & Greed Index)は、オシレーター指標として使うことができます。
「買われ過ぎ」「売られ過ぎ」を見極める分析指標は「オシレータ系」と呼ばれています。買われ過ぎているときは割高と捉え、売りシグナルと判断します。逆に売られ過ぎているときは割安と捉え、買いシグナルと判断します。
このような「逆張り投資」に使えるのが、オシレーター系指標であり、恐怖・強欲指数(Fear & Greed Index)もそれと同じ使い方ができそうです。
活用方法①:75以上の「強欲の極み」は売りシグナル
恐怖・強欲指数(Fear & Greed Index)が75以上で推移しているときは、市場がかなり強気になっていると言えそうです。株価は上昇トレンドにあり、含み益が出ていることでしょう。
ただし傾向として強気相場の後には、いずれ必ず弱気相場が訪れます。市場が強欲の極みで支配されているときはバブル気味になっている可能性があり、暴落の前兆と考えられるでしょう。
高値のうちに利益確定するのが良いと思われます。もし買い増しを考えている場合は、避けた方が良いタイミングかもしれません。
活用方法②:25以下の「恐怖の極み」は買いシグナル
恐怖・強欲指数(Fear & Greed Index)が25以下で推移しているときは、市場がかなり弱気になっています。つまり株価が割安になっている可能性が高いということです。
実際に、リーマンショック時の2008年9月17日にS&P500が3年ぶりの安値に急落したときは、同指数は12まで下落しました。同指数が28まで回復したのち株価は底を打ち、以降は強気相場が続きました。
そんなわけで、市場が強い恐怖に侵されているときは、絶好の買い場になるでしょう。
ちなみに、株価を予測する手法は、一般に「テクニカル分析」と呼ばれます。恐怖・強欲指数はテクニカル分析に括られてはいませんが、実際にはテクニカル分析に近い存在。
代表的なテクニカル分析は「【知らなきゃいつか損する】長期投資でもテクニカル分析が使える理由とオススメ分析」で解説しています。どれも長期投資でも利用できる代物です。
恐怖・強欲指数は、ゴリゴリ分析して売買タイミングを図るというよりは、現在の投資家の心理を知る術といった感じ。恐怖・強欲指数だけでは偏った見方になる恐れがあるので、他のテクニカル分析も併用しましょう。
仮想通貨版の恐怖・強欲指数もあるぞ
恐怖・強欲指数(Fear & Greed Index)の本家は米国株式を対象としたものですが、仮想通貨版の「Crypto Fear & Greed Index」も存在します。対象はビットコイン。
提供元はCNNではなく、Alternative.meという別の組織。見た目は本家とそっくりで、指数の見方も同じなので、本家をオマージュして作っていると思われます。
ただし当然ながら株式とビットコインは市場の成り立ちが異なるので、指数の構成内容も異なります。
ビットコインの恐怖・強欲指数は次の6つで構成されています。
Volatility (25%)
現在のビットコイン価格と、直近30日&90日の平均価格の値動きを比較します。ボラティリティが高いほど、「恐怖」を感じていることになります。
Market Momentum/Volume (25%)
出来高と価格上昇率を直近30日&90日の平均と比較します。それぞれが大きいほど「強欲」となります。
Social Media (15%)
Twitter上でビットコイン関連の投稿に対し、反応の量や速度を測っています。反応が強いときは、「強欲」と判断されます。
Surveys (15%) *現在停止中
市場参加者にアンケートを実施します。
Dominance (10%)
仮想通貨全体に占めるビットコインの時価総額の比率を算出します。ビットコインは仮想通貨の中では安全資産と考えられているので、ビットコインの比率が高いときは「恐怖」と考えられます。
Trends (10%)
ビットコインに関するGoogle検索ワードのボリュームをチェックします。例えばネガティブなキーワードで検索回数が上がると「恐怖」と判断されます。
SNSやGoogle検索を使うあたり、本家よりも緩い指標に見えます。ただ仮想通貨は株式と異なり歴史が浅いので、こういった情報を使うのもアリでしょう。
仮想通貨に投資する人は、こちらもチェックしてみてください。