VIX指数は、別名「恐怖指数」と呼ばれています。なぜなら、VIX指数が上昇すると、株式市場に大暴落が訪れる可能性が高まるからです。
VIX指数は平時は10〜20の範囲で推移していますが、20を超えたら要注意。暴落への備えをしましょう。
この記事では、
- VIX指数がなぜ恐怖指数と呼ばれているのか?
- VIX指数はどのように算出されているのか?
- VIX指数を投資にどのように活用できるか?
を解説しています。
この手の指標は、中身のロジックを理解しておくことが大切。機械的に「20越えたら〜」ではなく、自分の頭で理解して使わなければ事故の元。
VIX指数はかなり難解な数式を使っていますが、この記事では数式には深く触れずに、基本的なロジックを解説しています。直感的にわかりやすい内容になっているかなと。
米国株を中心としたインデックス投資をしている人は、VIX指数の影響をモロに受けます。暴落のピンチをチャンスに変えたい人は、ぜひチェックしてみてください。
VIX指数(別名:恐怖指数)とは何か?
VIX指数は、正式名称「CBOE(シカゴ・オプション取引所)ボラティリティ指数」。ボラティリティとは、値動きの激しさを意味しています。
VIX指数は、米国の代表的な株価指数である「S&P500」に対し、「投資家がどれほど先行きが不透明と感じているか」を示すバロメーターとなっています。
VIX指数の数値が上がるほど、投資家は近い未来の株価が大きく変動すると予測していることになります。この変動は主に悪い意味で捉えられており、VIX指数が高まると暴落の可能性が高まります。
VIX指数の計算式
こういった指数を投資の参考にする場合は、計算根拠を理解することが大切です。ただVIX指数はかなり難解な計算式になっているので、全ての理解は難しいでしょう。
VIX指数は「投資家がどれほど先行きが不透明と感じているか」を数値化しています。どうすれば、このような心理を数値化できるのでしょうか?
VIX指数を一言で表現するなら、「S&P500のオプション取引における、今後30日間のインプライド・ボラティリティを指数化したもの」です。
難しい言葉が並んでいますね。ひとつひとつ紐解いていきましょう。
オプション取引とは何か?
まずはVIX指数の大前提となるオプションと取引とは何かを押さえていきましょう。
オプション取引とは、「ある金融商品を、未来の決められた日に、決まった値段で売買する権利」を売買する取引です。
具体例を使ってイメージを湧かせましょう。
例えばあなたが、今1,000円の株が、30日後に1,500円に上がると予想したとします。そして30日後に1,200円で買う権利をオプション料50円で買ったとします。
本当に1,500円に値上がりすれば、行使価格1,200円+オプション料50円=合計1,250円を支払い、250円の利益をゲットできます。
逆に800円に値下がりしてしまった場合は、1,200円で買う権利を行使すると損してしまいます。そのためこの権利は行使せず、オプション料の50円だけ支払うことになります。
株価1,000円で現物を買っていれば-200円の損失になるはずのところが、出費はオプション料50円だけで済んでいます。
オプションを買う側は、予想に反して株が値下がりしたときの保険として、オプション取引を利用します。オプション料は、カンタンに言えば保険料と言えるでしょう
金融資産を売買するとき、狙いと逆の値動きをされると損失が出ます。その損失を軽減するための保険料がオプション料で、オプション料を売買するのがオプション取引と思えば大体OKです。
ただオプション取引は買う側だけでなく、売る側の人もいなければ成立しません。オプションを売る側は、行使価格を超えた値上がり益は放棄しなければならない代わりに、株価がどうなろうが、必ずオプション料を貰えます。
なおオプション取引には、
- 買う権利を売買する「コールオプション」
- 売る権利を売買する「プットオプション」
の2種類があり、先ほどの例はコールオプションの場合です。ここではこういうオプション取引の種類があるんだな、と思ってもらえれば大丈夫です。
そしてオプション料は常に一定ではなく、市況によって変動します。変数には、残存日数や金利など色々とありますが、その一つが「IV(インプライド・ボラティリティ)」です。
IV(インプライド・ボラティリティ)とは何か?
「IV(インプライド・ボラティリティ)」とは、将来の価格変動率を予測したもので、予想変動率とも呼ばれます。
対義語は「ヒストリカル・ボラティリティ」で、過去の相場で観測された実際の変動率を指します。
インプライド・ボラティリティとは要するに、投資家が近い将来の価格がどれくらい変動するかを予測したもの。
先行きが不透明になれば、インプライド・ボラティリティが上昇し、保険料であるオプション料は高くなります。逆に市況が安定している場合は、インプライド・ボラティリティは低くなり、保険料であるオプション料も安くなります。
市場で取引されているオプション料から逆算すれば、インプライド・ボラティリティを求めることができます。
まとめると、投資家がオプション取引を通じて、「S&P500が今後30日の間にどれだけ値動きがありそうか?」を予想したものがインプライド・ボラティリティ。それをさらに指数化したものがVIX指数なのです。
VIX指数の見方
VIX指数が何を表しているかがわかったところで、VIX指数の数字の見方を押さえていきましょう。
見方はちょっと癖があり、VIX指数を12の平方根で割った値が、S&P500の今後30日間で予想されているボラティリティ(値動きする範囲)となります。
VIX指数 | S&P500の予想変動率 |
10 | ±2.9% |
15 | ±4.3% |
20 | ±5.8% |
25 | ±7.2% |
30 | ±8.7% |
35 | ±10.1% |
本来の意味でのボラティリティは、「上昇する可能性」と「下落する可能性」が同時に存在するという概念なので、値は±で表されます。
ただ株価は下がるときは一気に下がり、上がるときは徐々に上がる傾向があります。実際にはプラスに転じるよりも、マイナスに転じる方が危惧されます。
目安は20を超えたら注意
VIX指数は10〜20が正常な範囲とされています。この間であれば、市場参加者は心理的に安定していると言えるでしょう。実際にほとんどのシーンは、この範囲内に収まっています。
VIX指数が20を超えたときは、その後の相場暴落が危惧されるので注意したいところ。投資家が相場の先行きに不安を覚えるような要因があるということです。
ただ20くらいだと、ふとした拍子に届いてしまうこともあり、実際には何も起きない場合が多いでしょう。30を超えると、ちょっと只事ではないなという感覚値です。
VIX指数が一桁になっても注意?
機会としては多くありませんが、VIX指数が10を下回ることもあります。
先行きが非常に安定しているとも取れますが、市場が楽観視している、あるいは市場が潜在するリスクに気づいていないとも取れます。
過去の傾向から、VIX指数が10を下回ったあとは、相場が荒れる可能性が危惧されます。低すぎるVIX指数は「嵐の前の静けさ」であり、相場が動く前兆と捉えても良いかもしれません。
VIX指数が高値をつけた過去のイベント
実際にVIX指数が高い値を示したイベントを、時系列であげてみました。
時期 | イベント | VIX指数の高値 |
1997年10月 | アジア通貨危機 | 48.64 |
2001年9月 | アメリカ同時多発テロ | 49.35 |
2002年7月 | エンロン不正会計事件 | 48.46 |
2003年3月 | イラク侵攻 | 34.40 |
2008年10月 | リーマンショック | 89.53 |
2011年10月 | 欧州債務危機 | 46.88 |
2015年8月 | チャイナショック | 53.29 |
2018年2月 | アメリカ金利急上昇 | 50.30 |
2020年3月 | コロナショック | 85.47 |
株価が急上昇するイベントではなく、急降下するイベントでVIX指数が上昇していることがわかりますね。リーマンショックとコロナショックは80超まで急上昇しました。
VIX指数とS&P500のチャートを比較
VIX指数とS&P500のチャートを見比べてみましょう。ざっくりと、VIX指数が上がっているときほど、S&P500が下がっているように見えますね。
やはりVIX指数が高まったときは、株価は下落する傾向があります。
VIXとS&P500は負の相関関係にある
VIX指数とS&P500の動きをより厳密に検証するために、相関係数をチェックしてみました。相関係数とは、2つのデータがどれほど連動しているかを表しています。
目安は次の通り。
相関係数の目安
- 1:完全に一緒に動いている
- 0.7以上:かなり連動して動いている
- 0.5前後:やや連動している
- 0:全く連動していない
- -1:完全に逆に動いている
ほとんどの期間で、相関係数がマイナスになっています。つまりVIX指数が上がると、S&P500は下がるという、負の相関関係が見て取れます。
相関係数が-0.5を下回る期間が長いので、相当程度に負の相関関係があると言えるでしょう。
VIX指数をどう投資に活用するか?
ここまでで、VIX指数の概要は伝えきれたかなと思います。ここからはVIX指数を、我々のような個人投資家がどのように活用するかを考えていきたいと思います。
もっとも有効活用できるのは、米国のインデックス投資をしている人。「S&P500インデックス」や「全米株式インデックス」なんかですね。ここはドンピシャで当てはまります。
他にも「先進国株式インデックス」や「全世界株式インデックス」に投資している人も、大部分はS&P500銘柄が占めているので、同様に有効でしょう。
少し距離はありますが、日本株に投資をしている人も、S&P500の影響で株価が変動するので、チェックしておいて損はないと思います。
活用方法①:VIX指数が低いときに投資する
VIX指数はほとんどの場合で、10〜20の間で推移しています。市場がネガティブな要因を予想していないことになるので、株価は上昇トレンドが期待できるでしょう。
というわけで、VIX指数が20以下のときに投資するのがベターです。VIX指数とS&P500は負の相関があるので、VIX指数が10台前半と特に低くなっているときに投資をするのがベストでしょう。
ただしVIX指数が下がり続け10を割り込んだときは、その後に相場が荒れる可能性があるので要注意。一旦投資を控えるなり、利益確定するのが良いと思います。
活用方法②:逆張り投資に使う
いわゆる火中の栗を拾いにいくやり方です。VIX指数が大きく上昇したとき、例えば30を超えるようなシーンは、大きく株価が下がる可能性があります。
空売りをするのも一つの手ですし、十分に株価が下がったところで割安で買うのも一つの手でしょう。
なおドルコスト平均法で一定額を積み立て続けている人は、戦略を変える必要はありません。資金に余裕がある人は、暴落を察知したら別枠で仕込むキャッシュを残しておくのもアリでしょう。
ちなみに、株価を予測する手法は、一般に「テクニカル分析」と呼ばれます。VIX指数はテクニカル分析とは呼ばれていませんが、実際には一種のテクニカル分析のようなもの。
代表的なテクニカル分析は「【知らなきゃいつか損する】長期投資でもテクニカル分析が使える理由とオススメ分析」で解説しています。どれも長期投資でも利用できる代物です。
VIX指数は、ゴリゴリ分析して売買タイミングを図るというよりは、現在の投資家の心理を知る術といった感じ。VIX指数だけでは偏った見方になる恐れがあるので、他のテクニカル分析も併用しましょう。
VIX指数以外にもある恐怖指数
本家VIX指数は、米国のS&P500の30日後までの値動きを予測する指標ですが、それ以外の兄弟分も存在します。
VIX指数の兄弟分
- 日経平均VI:日経平均版のVIX指数
- VXN:NASDAQ100版のVIX指数
日経平均は、ご存知の通り日本を代表する225社の平均株価して算出する株価指数です。
NASDAQ100は、NASDAQ市場の上場している時価総額上位100社を対象とした株価指数です。AppleやGoogleなどのIT系の巨大企業が上位に鎮座しています。
日経やNASDAQがポートフォリオの大きい割合を占めている場合は、こちらもチェックしましょう。米国を中心としたインデックス投資をしている人なら、本家のVIX指数を見ていれば十分かなと思います。
また、VIX指数によく似た指標に、「恐怖・強欲指数(Fear & Greed Index)」があります。
こちらは、VIX指数を含む7つの指標を合成したもので、米国株式の市場参加者が、「強欲に買い漁っているのか」「恐怖に駆られて売り急いでいるか」を教えてくれます。
VIX指数と合わせてチェックするのが良いと思います。